日本の若者と海外メディアが同調するそばアレルギータトゥーチェッカー

ニセコスキー場の人気もあり、いま北海道に多くの外国人観光客が訪れている。

2015年上期の札幌市の外国人宿泊者数は対前年比で44.3%も増加。彼らの目的は、もちろんスキーやスノーボードといったウィンタースポーツだが、ヘルシーで美味しい和食もその楽しみの一つだ。


札幌市の中心部からニセコスキー場へとつながる国道230号線沿いに集まる230そば街道推進委員会に加盟するそば屋にも、近年多くの外国人がやってきている。しかし、彼らには、そばアレルギーに対する知識がまったくと言っていいほどない。そこで、そばを安全に食べてもらい、外国人観光客の間でそばそのものの人気を広げていくために開発したのが、そばアレルギータトゥーチェッカーだ。


アレルギーテストの代表的な手法であるスキンプリックテストを応用しており、チェッカーを貼った上からそば湯を塗ると、そば湯が糊とアレルゲンの両方の役割をする。チェッカー全体は肌になじむように色付けされているが、一部分が透き通っており、アレルギー反応があるとそこから赤く変化した肌色が覗き、チェッカーの絵柄の一部が赤く浮き上がってきたように見えるという仕組みだ。


チェッカーのデザインは海外でも人気の浮世絵スタイルを採用。外国人観光客が漢字の入ったTシャツや湯のみをお土産として買うように、アレルギーテスト自体が日本旅行の土産話になるようなデザインにしている。


今年3月に『生そば 紅葉亭』で行われたアレルギーチェックイベントには多くの外国人観光客が参加し、大いに盛り上がった。そのすべての参加者がそばアレルギーの存在を知らず、外国人観光客たちからは「知らなかった、国に帰ったら友達みんなに話す」「そばアレルギーじゃなくても、デザインがかっこいいので試したくなる」などと嬉しい評価をいただいた。


このイベントを報じた記事に、ネット上で最初に反応したのは、意外なことに日本の若者だった。「これこそ、クールジャパン!」「浮世絵だというところがいい」「アイデアが日本らしくて素敵」「デザインがクール、日本人の私もやってみたい」…。そばアレルギーチェッカーは、多くのネットニュース、ブログ、まとめ記事、さらには新聞、ラジオ、テレビでも取り上げられ、その話題はたちまち日本中を駆け巡った。


そばアレルギータトゥーチェッカーの話題は、ツイッターだけでも400万を超えるリーチをかせぎ、中にはひとつのツイートで1.3万回以上もリツイートされたものもあった。彼らのツイートをあらためて読んでみると、そこにはある種の高揚感がある。日本という国に自信を失い、自分自身にも自信を見出せないでいる若者たち。かつての紋切り型の若者批判が、近年そのリアリティを増してきていると感じるのは筆者だけではないだろう。


浮世絵というベタなほど日本的なモチーフを、そばアレルギーというこれまた日本ならではと思えるものと絡めた、純日本の組み合わせ。しかしながら、その組み合わせはあまりにも意外で、どこか見事な一本をとられたような心地よさがある。そして、それは日本人しか生み出すことのできないアイデアである。そんなさまざまな要素が絡み合い、日本人としての誇りを微かにではあるがくすぐられるのではないか。


日本経済の閉塞感の理由のひとつにグローバリゼーションの遅れを挙げるのは今更ではある。しかし、グローバルな環境にいるほど、日本人としてのナショナリティの重要性を感じる。ネットの世界にいる若者たちがそれを自ら実感しているとは考え難い。だが、ゼタバイトにも及ぶ情報の砂嵐の中で、それを無意識的に感じ取っていると解釈することは難しくない。


日本の若者と同じく、そばアレルギータトゥーチェッカーにビビッドに反応をしたのが海外メディアである。もちろん、ネットといえども言語の壁があり、海外メディアが話題にするまでにはある程度の時間を要した。しかし、それは、ほぼ同時と言っていいほどのタイムラグであったと思える。


海外メディアが話題にした理由を、いかにも外国人が好みそうな浮世絵だからと片付けてしまうことは簡単である。当然、その要素もあったであろう。しかし、筆者は、日本の若者と海外メディアの同調を、意味あるシンクロニシティと捉えたい。


多民族国家が多い他国では、ナショナリティの重要性は言わずもがなである。つまり、異なる民族性やナショナリティの主張を受け入れる土壌がある。そばアレルギータトゥーチェッカーの面白さは、外国人に対し、リスク回避方法の提供を通じてナショナリティを主張している点にあるのではないだろうか。つまり、一種の“おもてなし”だ。そこに浮世絵というモチーフが入ることにより、この意外な組み合わせが、外国人にとってそれをより受け入れやすいものにしている。


日本人の若者たちが微かにくすぐられている誇り、それと、もしかすると海外メディアが感じ取っている“おもてなし”というカタチの日本のナショナリティの主張。その結実が、このそばアレルギータトゥーチェッカーの魅力となっていると分析するのは深読みのしすぎだろうか。


最近の日本の若者は、SNSやスマホの流行によりいつも誰かから監視されるという不安を感じ、まわりの空気を読んで生きようとする、そんな強い傾向があるという。しかし、もちろん彼らは彼らの中にしっかりとした考えを持ち、彼らのコンテクストの中でそれを主張し賞賛しようとする。


私たち薹が立ってしまった若者が、現代の日本の若者に対し、もの足りない、自分らしさというものを持っていないなどと、浅薄な批判をするのは無意味である。彼らのコンテクストを読みきれていないだけだ。


これからいくつ歳を重ねようとも、そのときどきの若い世代の価値観に触れてアレルギーを持たず接していきたいものだと、髑髏柄のそばアレルギータトゥーチェッカーを眺めながら思う。

麥田  啓造  (むぎた  けいぞう)
ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン 
シニアクリエイティブディレクター
1966年兵庫県生まれ。広告制作会社、化粧品会社宣伝部、外資系広告代理店数社を経て、2013年から現職。そばアレルギータトゥーチェッカーでは、アイデア開発、クリエイティブディレクションを担当している。

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