答えのない時代に、準備ができていないのは、子供?それとも大人?

「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか?800字以内で書きなさい」

この不思議な問題を見つけたのは、電通クリエーティブ塾の募集ページ。1998年、僕が大学院1年生の時の事です。あなたなら、どんな答えを書きますか? 僕の答えはこうでした。「ご存知の通り、カレーは煮込めば煮込むほど美味しくなる。僕はカレーが好きなので、1日増えた分、当然余計に1日煮込みますけど」という内容を800字に膨らませ、原稿用紙に書き付けました。その時、「あ、冷蔵庫にカレーのルーがあったな」と思い出し、刻んでティッシュで包んで、匂い付き作文として送付。結果、来たのは…合格通知でした。


この経験には、僕にとって2つの大きな学びがありました。1つは、明らかに答えのない問題を出されたことで、そもそも学校の問題だって決まった1つの答えなんかなかったかも、と気づいたこと。国語の作文も、数学の証明も、部活で県大会で優勝するぞってことだって、正解なんかなかったじゃん、と。もう1つは、自分が本当に面白いと思う答えを思いっきり投げたら、ちゃんとキャッチして評価してくれる大人がいる、ということ。この問題に出会ってなかったら、僕の人生はきっと全く違ったものになったことでしょう。


その後、入社してからも、変な問題が山ほど続きます。「彼女と喧嘩しました。絵だけで謝れ」「目が覚めたら蛇になっていました。よかったこと3つ、悪かったこと3つ書きなさい」とか。頭が痛い、けど、面白い。


時は流れ、広告やクリエーティブの授業を頼まれる機会にたびたび恵まれるようになると、今度は僕が、授業で必ずこのような変な問題を出すようにしました。もっと小さい時からやると良いのに、と思っていたので。頭が活性化するし、好奇心が倍増するし、何より一生忘れない。これがなかなか好評。自分なりのオリジナルな方法も段々確立されてきて、大学、高校、企業など25ヶ所以上で実験。上海のエリート大学復旦大学でも大盛り上がり。そして世界初、変な宿題ばかりを出す組織「NPO変な宿題」というのを立ち上げよう!と思い立ちます。この構想をいつもの仲間に打ち明けたところ、一緒にやろうということになり、お世話になっている学芸大学の大熊先生に「アクティブラーニングの風も吹いているしさ」と言われたのが決定打となり…。


長くなりましたが、以上が2015年10月15日に「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を立ち上げることになった経緯の超抜粋版です。誰にも頼まれていない、名前もロゴも変、だけど、会社オフィシャルのプロジェクトです。


答えのない時代に、未来を切り開く人材を育てるために、一方通行ではない、能動的に学ぶ教育「アクティブラーニング」をやろう、という流れが来ています(ご存知でしたか?)。先生が板書をして生徒が聞くという従来の一方通行形ではなく、答えのない問いに対して能動的にまさにアクティブに向かい合う学び方。文科省も旗を振り、特に大学から実験を繰り返し、2020年には高大接続といって、テスト自体を、面接や論文など1つの答えを求めないテストに切り替えるということで、どうすりゃいいんだ、と混乱されている現場の先生たちも多いようです。そこで、何かお役に立つことがあればと、広告業界のプランニング/コミュニケーション/コラボレーション/課題解決などのスキルを統合して、教育に使えるように改編し、「ラーニングのアクティブ化」のお手伝いをはじめて8ヶ月。100件以上のお問い合わせをいただいて、ほぼ全員の方とお会いしました。わかったのは、名前に入っている「こんなのどうだろう」という余計な一文。これがすごく効いていて、みなさんに共感いただいているようです。


なぜわざわざこの1文をつけたか。それは、正解を求めない教育のムーブメントには大賛成ですが、大人の方もちゃんとアクティブになれているかどうか? そこが鍵だと思うからです。大人が答えをすぐ求めない。1つのやり方に決め付けすぎない。ツールに頼りすぎない。自分で考えてオリジナルの答えを出さなければいけない時代と、子供にいいつつ、大人側はどうでしょうか? スタンフォード、フィンランド、シュナイダー、モンテッソーリ、レッジョ・エミリアと教育のトレンドをすぐ、鵜呑み輸入していないでしょうか?


そもそも、アクティブラーニングと呼ばれる前から、1つの正解を求めないグレートな先生たちはたくさんいらっしゃいました。みなさんの人生を変えた恩師の方もそうではありませんでしたか? また、藩校の教育だってその土地その土地のオリジナルでした。もっと遡ればソクラテスなんか、道行く人に問いかけていたなんて、まさにスーパーアクティブですよね。ただ真似する、輸入するのではなく、その土地、その学校、その教室、その生徒に合うように組み合わせたり、新たに方法を作り出したりしていく。そして、それぞれが思いついて信じるやり方を「こんなのどうだろう」と提唱、シェア、議論していく。そんなプロセスが組めると面白くなるし、それがまさに大人側のアクティブだと思うのです。要は、やり方自体も、ちゃんと自分たちで作ろうねということです。


教育以外に目を向けても同じようなことを感じます。オープンイノベーション、エスノグラフィー、ワークショップ、デザインシンキングなどなどなど。人が作った方法、誰かが輸入してきた方法を、みなさん鵜呑みにしていませんか? 大丈夫ですか? 追いつけ追い越せという昔はそれでもよかったのかもしれませんが、今はそうではありません。まさに答えのない時代。方法自体もオリジナルにしたいところですよね?


研究所への問い合わせは、教育関連だけでなく、企業からも増えています。某有名ゲーム会社のGMから我々が作った変な問題を社員デーに使わせて欲しいとオファーがあったり、某テレビ局の役員研修にも使われたり。上場を控えて社員が増えてきたのにつれて、社員たちに言われたことだけでなく自発的に動いてほしいので研修を組んでほしいなどなど。アクティブということについては子供の問題では無い。むしろ大人が世の中のことを面白がり、自分で問いを見つけ、新たなことを生み出している姿こそがいまの日本に大事なのではないでしょうか。あなたの周りはどうですか。ジャンル問わず、有名かどうかとかではなく、みんなの「こんなのどうだろう」が大事。答えなんかないんですから。同じ世界、同じ時代に生きるみなさんと「こんなのどうだろう」を一緒にワイワイ言い合って実践しながら、この時代を一緒にデザインしていく。それが、我々がこのコラムを最後まで読んでいただいた方とやりたいことです。
 

倉成  英俊  (くらなり  ひでとし)
電通総研Bチームリーダー/アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所 所長
自称21世紀のブラブラ社員。新しい何かを気の合う人々と生むために、公/私/大/小/官/民 関係なく活動中。主な仕事に、Japan APEC 2010や東京モーターショー2011、IMF/世界銀行総会2012総合プロデュース、有田焼創業400年クリエーティブアドバイザー、他。グッドデザイン賞、NYADC賞、カンヌ広告祭他受賞多数。バルセロナのMarti Guixeより日本人初のex-designerに認定される。

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