「和的なもの」の背景にあるカルチャー

若い世代を中心に「和的なもの」への関心が高まっている、とは、つい先日、実施した街頭インタビュー調査を終えた後に行うダウンロード会でもあがったトピックのひとつだ。

本調査は、今年36年目となる弊社の若者とファッション・カルチャーを研究する「定点観測」を他企業のテーマに応用したもので、本件に関しては、某企業の研究所といっしょに毎年2回実施し、今年で16年目になる。


もちろん、これまでにも何度か「和(的なもの)」が若者のあいだでブームになることはあったが、今回は、「日本酒とか着物の着付けとか、和の文化に興味があります」や、最近“インテリア書道”を習いはじめたんです!」「1人暮らしをするようになって、作家ものの和食器を買いました」など、身につけるものいう意味でのファッションに留まらず、食や雑貨、暮らしなど、「和的なもの」の背景にあるカルチャーへの関心も目立つ。


本家の定点観測を振り返ると、今回の「和的なもの」の流行が分かりやすく表面化したのは、「今日は日本人らしさを出したくて着物を着ました。お坊さんの女バージョンをイメージしました。1年くらい前からこのスタイルです。最初は美容に興味があって、ヘアメイクのファッションショーをしているうちに、ファッションに興味を持ち始めてこのスタイルになりました」という、当時17歳の高校生に出会った2012年1月からだろう。


東京在住の1997年生まれの彼女は、「ACROSS」編集部の世代分類では「新人類ジュニア/Hanakoジュニア」世代にあたる。
一般的には、いわゆる「ゆとり世代」ということで、海外旅行などにはあまり関心がなく、冒険しない、「指示待ち族」などといわれているが、筆者らの知見では、案外そういうステレオタイプばかりでもなく、親のライフスタイル志向、価値観次第によって異なる、つまり、親子2世代で継承されるカルチャーがある、とみている。


とはいえ、かつて親世代がそうであったような、ファッション=アイデンティティの表現、自己主張!というような強い意識はなく、その日の気分でなりたいわたし(または仲間でのユニフォーム感覚!)に全身着替える「コスプレ感覚」になっているのも、この世代の特徴だ。


また、その前の世代(ウチら世代)のように、「みんなといっしょのものが欲しい、いっしょの消費がしたい」というようなウチ向きの意識も低い。
ちなみに、冒頭で紹介した大学3年生は、秋からドイツに長期留学をするそうで、海外を意識してから日本への意識も高まった、と話してくれた。
「卒業旅行ということで、友だちと着物をレンタルして金沢旅行に行きました」という大学4年生に遭遇したのもこの時期だった。浴衣といっしょに自撮り棒もレンタルし、自身のSNS(インスタグラム)にアップ。「#kimono」で、見知らぬ外国人の「いいね」がいっぱいついて楽しい、と言う。


おそらく、「見る、見られる」の対象が変化したのだろう。たしかに、パリコレなどで評判のラグジュアリーブランドを手に入れることの悦びよりも、友人や知人に留まらず、インスタグラム=写真(スナップ)という非言語のコミュニケーションによって、国や人種を超えてフラットに繋がり、無限大に広がっていくリアルの方が勝るのは、創造に難くない。
こういった「共感」が消費行動の軸になってきた背景には、2011年の東日本大震災があり、さらに遡ると、「d&department」が「ロングライフデザイン」をテーマに始動したり、村上隆が日本の消費文化独特の空虚感への批評から、日本のファインアートからポップカルチャーなどを等価に表現した「スーパーフラット展(@渋谷パルコギャラリー)」が開催された2000年が、ひとつの起点になっているように思う。


その後、2003年にはビームスがデザインとクラフトの橋渡しをテーマとした「フェニカ」を、リノベーションブームの火付け役として2003年にオープンしたホテルクラスカ内に2008年3月に、2009年11月には渋谷パルコに、全国各地の伝統の手仕事でつくられる工芸品から、デザイナーによる新しいプロダクトまで、洋の東西を問わず新しい視点で集めたライフスタイルショップ「クラスカ・ギャラリー&ショップ・ドー」が、“あるグループ”にはぴったりハマり、今ではd&dはソウルを含め全国13店舗、クラスカは14店舗、ビームスは、先日新宿にメイドインジャパンをコンセプトにした「ビームスジャパン」をオープンするなど、「和的なもの」への関心は、今ではインバウンドというよりも、私たち全体の暮らしの中へと浸透しているといえよう。


2012年にリニューアルした『POPEYE』や、2013年に創刊した『&Premium』などの雑誌を読み返してみると、そこには、「和的なもの」=ていねいなファッション、ていねいな暮らし、という「ふつうのことをていねいにする」というキーワードが見えてきた。
ひょっとしたら、「和的なもの」が若い世代に支持される背景には、ビッグデータやIOT、AIなど、ハイテク化が進むマーケティングへの無意識な抵抗感のようなものがあるかもしれない。

 

高野  公三子  (たかの  くみこ)
㈱パルコ『ACROSS』編集長
http://www.web-across.com
パルコのファッション&カルチャーのシンクタンク「ACROSS」の代表。共著に『ファッションは語りはじめた~現代日本のファッション批評』(フィルムアート社)、『ジャパニーズデザイナー』(ダイヤモンド社)他。日本流行色協会トレンドカラー選考委員、文化学園大学大学院非常勤講師。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科前期博士課程修了

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