メディア変化に対応した広告戦略

テレビ広告の後

現在、広告にどのような変化が生じているのだろうか。もっとも大きな変化とは、テレビ広告の支配的な時代が終わりつつあることだ。テレビ広告が新聞広告に代わってメディア別広告費の第一位になったのは1975年で、今から約40年前のことだ。この40年間、テレビは広告メディアの中心的な存在であり続けてきた。それ以前に新聞広告が支配的な地位を有していた。現在、まったくテレビや新聞に接触しない人たちは若い人だけでなく、中年層にも浸透しつつある。私たちは、まずどのような広告メディアが今後有力になるかを考察することで、広告の将来のあり方を考えることができるだろう。


しかし、これからやってくるのは「インターネット広告の時代」ではない。筆者と共同研究者たちと吉田秀雄記念事業財団で2013年に行った研究によれば、テレビとインターネットとは視聴者レベルで見るとさほど競合していない。テレビを2時間視聴する人の間では、インターネット視聴時間はさほど増加していないからだ。


それにインターネット広告はそれ自体がひとつのメディアとしてくくれるほどの共通性を有してはいない。枠売り広告から運用型と呼ばれる広告まで、さまざまなアドテクノロジーを用いた方式が乱立しているのと、ネイティブ広告から動画に至る種々のフォーマットがある。これらをインターネット広告としてひとつに扱うことも問題である。


アーンドメディア・オウンドメディア・ペイドメディアという「トリプルメディア」という考え方も提唱されているものの、メディアミックスという観点からみて有効な分類かは疑問である。例えば、オーディエンスの反応が、有料メディアか否かで変化するとは考えにくい。このトリプルメディア分類は、広告主から見たときのメディア使用の自由度の問題であり、オーディエンスの反応ではないことが最大の問題なのだ。


メディアエレメントの組み合わせ
これからやってくるのは、新しいメディアの時代ではなくて、新しいメディアエレメントの組み合わせの時代である。つまり、現代においては、①コンテンツ、②デバイス、③プラットフォーム(インフラ)、④ビジネスモデルの4つの要素をどのように組み合わせるかによって、広告メディアが決まってくるのである。テレビや新聞などの既存マスメディアの時代には、これら4つのエレメントは分かちがたく結び合っていた。


新聞メディアであれば、①新聞記事というコンテンツに、②新聞紙というデバイス、③新聞社と宅配システムいうプラットフォーム、④広告と購読料をベースとするビジネスモデルによって成立していた。テレビ・雑誌・映画でも同じようにこれら4つのエレメントが固く結合してメディアを構成していたのである。


ウェブが発達してから、これら4つのエレメントは解体され、自由に組み合わされるようになった。例えば、Yahoo!というメディアは、①マスメディア・オンライン発あるいは消費者発のコンテンツ、②以前はPC、現在はスマートフォン中心のデバイス、③オンラインのプラットフォーム、④広告をベースとするビジネスモデル、というように。


その他のメディアも、LINEならば、デバイスの②スマホ化に特化して対応したメディアであり、楽天やリクルートは①企業発のコンテンツをベースとしたメディアと理解できる。つまり、現在のメディアは、基盤となるひとつのメディアエレメントを基軸として展開されたものなのである。


それでは、広告はこれからどのように変化するだろうか。広告主は、次の4つのエレメントを選択しながら広告戦略を考えることになるだろう。つまり、どのようなコンテンツに寄り添って、どのようなデバイスに広告を掲出させるか、どのようなプラットフォーム(インフラ)を通じてメッセージを発信するか、そのメディアのビジネスモデルが広告をベースにしたものかどうか。こうしたメディアエレメントの選択を通して広告戦略を考える時代が近くやってくるだろう。



メディアユーザーの受動性と能動性
もうひとつ、テレビというメディアについて考えておくべきことがある。それは、テレビメディアとは、メディアユーザーに受動的な視聴態度を促す初めてのメディアであったことである。それまでのメディアとテレビが決定的に違っていたことは、オーディエンスが単にテレビ受像機の前に座り、チャンネルを選択すれば良かったという視聴態度の受動性にある。それまでのメディアは新聞のように、メディアに向かって読むという一種の能動性をオーディエンスに強いていた。簡単に言えば、テレビは寝ることの次に、もっとも楽なメディアだったのである。


しかしウェブがこれらのメディアと根本的に異なる点は、ユーザーが自分で操作をしなければならないメディアであるということだ。ソーシャルメディアが典型的にそうであるように、自分で写真や記事などのコンテンツをつくりだし、友人の投稿を読んで反応しなければならない。これは一見するとラクなメディアではないように思える。しかしそうではない。


こうしたユーザーの積極性・能動性・参加性が、ユーザーにとってはテレビ以上に面白いものなのだ。ちょうど、スーパーマーケットが登場したとき、消費者が自分で買いたい商品を選ぶことで売上を増加させたように、ユーザーが自由に操作して、結果を見たり、友人と交友することが、テレビを受動的に視聴するよりも面白い。いくらテレビが優れたコンテンツを提供したとしても、こうしたユーザー自身の能動的アクションに基づくメディア行動は異なった次元の喜びや楽しみをユーザーにもたらす。


では、広告はどうなるのか。これまでテレビで培われてきた広告表現の技術やスキルは、ユーザーが受動的であることを前提に育成されてきた。広告効果もまた、テレビの受動性を前提に長い間研究されてきた。これからは、ユーザーの能動性、ことに、参加性を前提とした広告づくりが必要となる。例えば、広告コンテンツは単に受動的に見るだけでなく、ユーザーが参加してコンテンツづくりに参加する、あるいは、コンテンツを組み替えられるような仕組みが必要となる。


もちろんこうした試みはすでにいくつか実現している。例えば、LINEでスタンプづくりにユーザーが参加する、あるいは、クックパッドのようなユーザーがつくったコンテンツ中心のメディアでは、ユーザーはレシピ投稿や閲覧を通じて、広告コンテンツとして提供されるレシピにも触れる機会が産まれる。


結論として言えば、これからの広告を考えるとき、メディアエレメントの新しい組み合わせによって広告スタイルを考えることと、ユーザーの能動性・参加性を考慮した広告活動であることが求められる。

 

田中  洋  (たなか  ひろし) 中央大学ビジネススクール 教授

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