ちょっとした革新で大市場を転換 髭剃りの風雲児ダラーシェイブクラブ

「Razor Sales Move Online, Away From Gillette(髭剃り売上は、ジレットからオンラインに移っている)」(ウォールストリートジャーナル)といった髭剃り業界についての見出しが、米国メディアでは昨年あたりから目立つようになった。

髭剃りは、古いが大きな市場だ。100年を越えて米国の髭剃り市場をリードし圧倒的な市場シェアを誇る巨人がいるにもかかわらず、その米国市場が激震している。


長きに渡りごく身近にあるものでも、革新を起こすことができる。それもほんのちょっとしたことで。いま米国で何が起こっているのか?
注:米国の電気シェーバー市場は約6千億円、ウェットシェーバー(カミソリ)は約3千億円市場。日本市場より一桁大きい(米国の方が単価もかなり高い)。

ユーザーの心に刺さる動画で注目を浴びる
2012年3月公開のユーチューブ動画「DollarShaveClub.com - Our Blades Are F***ing Great(ダラーシェイブクラブ – ウチの髭剃り刃はスゴくイイ)」が話題となった。その主役のカリフォルニアのベンチャー企業ダラーシェイブクラブCEOは言う:
「月に$20ドルも払って、バイブレーションや色んな機能がついた10枚刃の髭剃りなんて不要だ。俺の親父は一枚刃だった。
ウチのは$1(シッピング&ハンドリングと合わせて$3)でスゴくイイぜ。」


そして、字幕で「shave time, shave money(shaveとsaveをかけて、時と金を節約せよの意)」と投げかける。
無名の小企業が50万円程で作った動画投稿は共感を集め、二日で1万2千件の注文が殺到したという。そしてこの動画はこれまでに2千万回以上も再生されている。
他にも、高い替刃を長く使っていて汚いといった、ユーザーの問題を代弁するような動画もあげられている。


例えば、大手の主力商品の替刃カートリッジは一つで4~6ドルする。一方、ダラーシェイブクラブは、次の三つのコースから選ぶと、
・月1ドル(+送料2ドル)で2枚刃カートリッ  ジを5個
・月6ドル(送料無料)で4枚刃カートリッジを  4個
・月9ドル(送料無料)で6枚刃カートリッジを  4個
が毎月届けられる。


つまり、激安でも新しい替刃で髭剃りできる。大手のカードリッジ一つ分でミドルクラス、二つ分でハイクラスの、それも新しい(毎週交換の)替刃で髭剃りできる。
この動画が、2012年AdAgeバイラルビデオアワードの“Best Out-of-Nowhere Video Campaign”を獲得。その後も、ダラーシェイブクラブはウェブマーケティング関係の賞を複数獲得した。

新たな顧客価値を訴求するビジネスモデルの転換
コミカルで刺さるメッセージの動画もよかったが、それだけではダラーシェイブクラブの快進撃を説明できない。固定化したように見えた米国の髭剃り市場で、実はユーザーは何を望んでいたのか。
大手メーカーは、宇宙工学を含む優秀なエンジニアを雇い何百億円もかけて製品開発を続けている。製品の技術的なイノベーションと改善に力を注いでいるのだ。


しかし、すべての消費者がそういう商品を望んでいるのか?消費者の選択肢は他にないのか?もちろん、そうした商品を望む顧客もいるだろうが、多様化が進む顧客に一様な価値提供とビジネスモデルで応えることは難しい。
単に製品の優秀さだけでなく、ダラーシェイブクラブはユーザーの生活における髭剃りという体験を改善している点が注目される。


価格だけでなく、ダラーシェイブクラブは、定期的に購入する必要があり買い忘れしやすい性格の商品ゆえ、いつも新しい替刃が手元に届けられるという利便性が、訴求ポイントだ。


また、バスルームの髭剃りのカートリッジを一ヶ月替えずに使うのを、きちんと洗浄すれば問題ないと言うこともできるだろうが、そこまで几帳面なユーザーばかりではない。すると毎週替える方がハッピーだろう。それも毎月自動的に送ってくれれば面倒もない。小さくて高価なカートリッジは米国では小売店舗のカウンター裏や鍵付きショーケースに収められるなど買い難いことも、定期お届けのオンライン販売を魅力的にしている。


つまり、今の髭剃りがちょっと高いなと思っているものぐさ族にはピッタリというところだろう。ちなみに、「とてもスムーズに剃れた」というダラーシェイブクラブ・ユーザーの喜びの声が多くツイッターにあげられている。これまで、やはり日が経った刃で剃っていたのかもしれない。

 

チャレンジャーとイノベーションのジレンマ
ダラーシェイブクラブは、2012年から2015年にかけて、4、19、64、153百万ドルと売上を伸ばし、今や300万人のユーザーをつかんでいる。シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルなどから163.5百万ドル(約200億円)の資金を調達し、積極果敢に市場を攻めているところだ。


後発で髭剃りのオンライン販売に参入のニューヨークのベンチャー企業Harry’sは約300億円を調達し、100万ユーザーを獲得したという。
すでにジレットもオンライン販売に参入し(ジレットシェーブクラブ)、本体やクリームを無料でつけるなどキャンペーン中だ。


今はまだ1割程だがネット通販の比率は上昇するとみられている。日本でも同様のサービスは始まっている。
新たなビジネスモデルと創意工夫でユーザーを惹きつけるベンチャー企業が、先行する巨人たちが寡占する市場を大きく揺らしているのだ。


なお、ジレットは消費者への密着調査により市場のインサイトを得て、インド向けに1枚刃で簡素な低価格の新製品「ガード」を2010年に発売して成功を収めた。米国市場でも、同様にユーザーの理解に心を砕けば、自らが変革のリーダーになれたかもしれないが、イノベーションのジレンマは避け難く、成功の復讐に直面しているということだろう。

 

本荘  修二  (ほんじょう  しゅうじ)
本荘事務所 代表 多摩大学大学院(MBA)客員教授

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