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マーケターにとって大事なのは、言語能力ではなく言語「化」能力だ

言語「化」は、人類共通の課題である
人間のコミュニケーションの大半は、言葉を媒介としています。最近では絵文字やスタンプ、写真でコミュニケーションを取ることも増えていますが、正しく意思疎通を図るという点においては、やはり言葉が基本となります。それがビジネスの場であるならば尚更です。

理由は非常にシンプル。人間は、言葉で考え、言葉で議論し、言葉で理解するからです。


その一方で、自分が考えていることを、過不足なく言葉に変換して伝えることの難しさは、全人類に課せられた課題かの如く、今日も私たちの前に立ちはだかっています。毎日のように、誰もが行っているにも関わらず……。まさに最も基本的なことが、最も難しいというわけです。


そこで私が注目しているのが、自分が考えていることを把握し、言葉に変換する言語化の仕組みです。言葉というと、どうしても言葉そのものの話になってしまうのですが、重要なのは言語「化」の部分。結局、多くの人が難しいと感じているのが、この「化」のはずなのです。


思考を言葉へ変換するプロセスを意識する
世の中には言葉の使い方や伝える力、対人コミュニケーションに関する書籍やセミナーが溢れています。そこでひとつの疑問が生まれます。表面的な伝え方を訓練したところで、私たちが抱えている本当の課題である「化」は解決するのでしょうか。


言葉は思考の上澄みに過ぎません。本当に求められているのは、その場を取り繕うようなコミュニケーション力ではなく、自分の考えていることを正確に伝え切る力であるはずです。どんなに伝え方が上達したり、語彙力が増えたところで、あなたの頭の中にある考えや企画、アイデアに、言葉という形を与える助けにはならないのです。


では、実際に考えていることを把握するには、どのような方法があるのでしょうか。


そこで私が提唱しているのが、頭の中で考えている時に使っている言葉のようなふわふわとしたものを「内なる言葉」として明確に定義することです。言葉というとコミュニケーションの道具である「外に向かう言葉」を連想しがちですが、実は、誰もが何かを考える時や感じる時に、形のない言葉を用いているのです。

無意識で使っている「内なる言葉」に意識を傾ける
たとえば「なるほど!」と感じた時には、「なるほど」という内なる言葉が生まれたと捉える。美味しいものを食べた時には「おいしい」と受け流すのではなく、「おいしい」という内なる言葉が頭のなかで発せられたと意識する。
こうした「無意識を意識する」ともいえるプロセスが重要です。


内なる言葉を意識できるようになると、自分が考えていることを漠然とした「考え」として捉えるのではなく、普段から扱い慣れている「言葉」として認識できるようになります。すると、言語化のプロセスが「考えを言葉にする」という捉えどころがないものから、「内なる言葉をタネとして外に向かう言葉を組み立てる」、という理解しやすいものへと変化します。このように視点を変えるだけで、思考と言語はシームレスに接続されるのです。


「言葉にできる」は、マーケターの武器になる。
本コラムで書かせていただいた視座を基に、理論から実践までを書かせていただいた拙著『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)は、発売累計15万部を超える支持をいただいています。そして日本全国、老若男女の方々から「言葉にできた!」の声を頂戴しています。


マーケターの仕事は、考える仕事であり、その考えを言葉にする仕事です。「頭の中には解決策が見えているものの、うまく言葉にできない」ような状態では、チームにもアイデアを共有できないだけでなく、クライアントに納得してもらうことさえできません。その一方で、考えていることをスムーズに言葉にできるようになったら、信頼を得られることは間違いないでしょう。


その意味では、マーケターは言語「化」能力を真っ先に身につけるべき職種ということができるかもしれません。
本コラムをお読みの皆さん、是非、内なる言葉に意識を傾けてみてください。その意識を持つだけで、きっと思考と言葉がつながる感覚を味わうことができるようになるはずです。

 

当テーマにて2017年12月11日にセミナーを開催致します。下記ご参照ください。

「言葉にできる」って、どういうことだろう?

 

梅田  悟司  (うめだ  さとし)
株式会社電通  クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。マーケティングプランナーを経て、コピーライターに。直近の仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、のどごし<生>「がんばるあなたがNo.1」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」コミュニケーション・ディレクター、東北六魂祭の事業構想メンバーなど。
著書に15万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)他。
CM総合研究所が選ぶコピーライターランキングトップ10に、2014~2016年と3年連続選出。横浜市立大学客員研究員。

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