情報技術が働く女性たちの時間をゆたかにする

女性の社会進出が進み、共働き世帯が増加している中、働く女性を支援するために保育園の増設や時短勤務制度の整備等が行われているが、仕事・育児・介護と女性の時間はすでにパンク状態になっている。

そのような中、家事・育児と仕事をしっかり両立したいと考える働く女性達が抱えている「ちゃんとやらなきゃ」「でも、ちゃんとやれる時間がない」というジレンマをどのようにすくい上げ、解決していけるのか。
今回取材のご協力をいただいた、働く女性を支援するプロジェクト「WomenWill」を展開するグーグル日本法人の山本氏とともに、その取り組みの内容を紹介しつつ考察してみたい。


「Women Will」誕生の経緯と具体的取り組み
「Women Will」は、もともとGoogleが女性の活躍をテクノロジーを通じて支援できるのではないかという考えから生まれた。Googleでは元々世界各国でそれぞれ女性を支援する活動を行っていたが、アジア太平洋では統一したブランドとして「Women Will」という名前を付けた活動になった。


国によって取り組むべき問題や支援方法は異なるが、日本の場合、やはり“働き方”が課題なのではないかと考えた。テクノロジーの導入によって男女を問わず働き方が柔軟になり、それが結果的に女性の働きやすさにつながるという考えのもと、取り組みが進んでいる。山本氏もGoogleに入社し衝撃だったのは、子どもの発熱による帰宅後、家で子どもの世話をしながらテレビ会議で打ち合わせに参加し、会社で仕事をするのと遜色なく仕事ができたことだったそうだ。Googleではいつでもどこでも働けることが当たり前のカルチャーがあり、日本企業にもこのようなITインフラとカルチャーの両方が広がれば女性の働き方を変えられると山本氏は言う。


「Women Will」は二つの目標を軸に展開されている。一つは「テクノロジーで働き方を変える」という目標だ。「Women Will」では、複数の企業とともに実際に働き方を変えるための実施調査を行っている。まず各企業に課題を抽出してもらい、モデルケースを決めたうえで実際に働き方改革を3ヶ月間実施し、効果測定を行って結果をまとめたレポートを「未来の働き方プレイブック」としてウェブサイトで公開している。


もう一つは「働き方のカルチャーを変える」という目標である。働きたくても女性が働き続けられない一番の原因は勤務時間と場所の不自由さであるという調査結果のもと、多様な施策を展開している。Googleが行った独自調査結果によると、働き方を柔軟にするテクノロジーと時短や在宅勤務等の働き方を柔軟にする制度を組み合わせて使っている人は、制度だけを利用している人に比べて「意欲的に働いている」「今の職場で働き続けられる」と思っている割合が非常に高く出ている。また、テクノロジーと制度の両方を使っている人の方が生活満足度も高いという結果が出ており、プライベートにも良い影響を与えているということが伺える。

 

山本氏自身も、色々な企業の働き方をヒアリングする中で、いくら制度やツールがあっても実際に働いている人がそれを使えていないという状況を実感しており、この二つの軸を同時に変えていくことの必要性を感じている。例えばGoogle独自調査では企業のテレビ会議システムの導入率に対して、実際の利用率がその半分以下と低く、利用していない理由を社員に聞いても、「皆が利用していないから」といったツールを利用するカルチャーが根付いていないということを感じさせる回答が多かった。


この調査を参考にして始めたのが、働く女性や周囲の人からアイデアを集め、実際にアイデアを実現するための“Happy Back To Work”という活動である。これは、働く母親だけでなく、その周りの人も何かできるはずだという考えのもと、現役大学生や雑誌の編集長、首相の夫人までありとあらゆる人々から働き方を変えるためのアイデアを集め、集まったアイデアをサポーター企業に実践してもらうという試みだ。 意見ではなくアイデアを集めたことで、小さなことからでもすぐに実行可能な、しかも明るく前向きな声が多く寄せられた。


このように働く母親だけでなくあらゆる人々を巻き込んで展開しているが、今後はただの助け合いだけで終わらせず、協力してくれた人々、特に協力してくれた同僚にも助けとなるような仕組みを作る必要もありそうだ。


ツールの利便性を実感することがカルチャーを変える
山本氏は、テクノロジーとカルチャーは結び付いて相互に作用すると考えている。例えばGoogleでは、社員がカレンダーに“朝10時前は子どもの見送りがあるのでミーティングを入れないでほしい”などと最初から自分の予定に書き込むことが日常的にあるそうだ。そうすると皆の予定が一目瞭然であるため、わざわざ本人に予定を確認して調整するという手間が省け、心理的な負担が減る。

 

また、同僚がどの時間が忙しいかなどの予定のサイクルが分かるため、それに合わせてチームのスケジューリングが最適化される。カルチャーが先に浸透していくのではなく、スケジュールを見える化することによってカルチャーが次第に醸成され、カルチャーの変化によりツールの利用率が上がることを意味している。ツールとカルチャーは両輪で回っているのだ。つまり、ツールだけがあっても意味がなく、実際に利便性を実感する人を増やしていくことがまずは必要なのだ。その実感が皆に広まっていくと企業のカルチャーやスタイルが変わっていくということである。


では、そのような仕事面での変化は家庭内にどのような変化(家事や育児の変化、家庭内スタイルやカルチャーの変化など)をもたらすのだろうか。Googleでは、例えば17時に帰宅して子どもを世話し、必要であればまた子供の就寝後に家にいながら仕事もできる。会社にいなくても仕事ができると、家事など家庭内で必要な仕事も夫婦で共有できるようになる。普段夜遅くまで働く男性社員が在宅勤務を一回経験するだけでも、家庭でどのような作業が必要になるのかに気づき、平日の過ごし方を考えることができる。たかが1回ぐらいでと軽視するのではなく、そこでの気づきを得て普段の生活でできるところから始めるのが重要なのだ。


では、ユーザーからどのような反応があったのか。寄せられた声で多いのは、「パパが家事をするきっかけがない」というものである。男性も家事を決してやりたくないというわけではなく、何かきっかけがあれば家事に参加したいと思っている人も少なくない。例えば夫婦で一緒に料理教室に行って料理を習ったり、家事代行や清掃用品の企業が家事のノウハウをレクチャーするなどのアイデアが出てきている。それらが徐々に当たり前になってくると世の中が変わってくるのだろう。そのためにも、まずは“小さな一歩”からなのだ。


「Women Will」の今後の課題
ITツールの導入により、家庭と仕事のどちらに重点を置くのかを考える時に様々な選択肢を提供できるようになった。全員が一律的に同じ場所で長時間働かなくてはならないのではなく、自分で自由に働く時間を調整できるというのがITの利点ゆえに、多様な働き方を提供することができる。今後さらに高齢化が進んでいくと介護の必要性が増し、男性の働き方も見直さなければならなくなる時代が訪れるであろう。

 

そうなった時に総労働時間を規制したり、コアタイムを設定したりするだけでは絶対に立ち行かなくなるだろう。最近は“一億総活躍”も唱えられていて、女性の働き方だけを考えていてはダメだという意識が人々の中に徐々に芽生えてきている。とにかく全員でITツールを使用し、結果を共有し、効果を検証することが大事だと山本氏は言う。そして会社ごとの文化に合わせながら少しずつ馴染ませていくことが働き方を変えることにつながっていくだろう。


「Women Will」は、パートナー企業やユーザーから集まったアイデアをどう社会に活かしていくか、またアイデアの実践により働く女性やその周囲の人たちがどう変わったかを発信していくことを今年の一番の目標として活動を進めていく。


頭の中だけで考えるのではなく、日々の中でのsmall step の集積で働き方のカルチャー、家事のカルチャーを変えていくGoogle。ITテクノロジーの力を借りて「まずはやってみる」を経験した人たちが、二度とそれ以前の生活に戻らない(戻れない)ことをGoogleは知っている。「Women Will」が笑顔で企む戻れない日常、それが実現される未来はすぐそこまで来ている。

ツノダ  フミコ
株式会社ウエーブプラネット  代表取締役
生活者インサイトを導き出す調査とワークショップからなるコンセプト・ナビゲーションを展開。食品、トイレタリーから住宅まで暮らしに根差した商品・サービスのコンセプト立案を支援。著作:男性の家庭進出について著した『喜婚男と避婚男』(新潮新書)など。

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。
トップに戻る