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ビジネスアイデアコンテストから見た開発途上国ビジネスの可能性と成功要因

40億人のためのビジネスアイデアコンテストの開催が今年で3回目になる。「40億人」は世界人口を所得別に階層を分けたときに年間所得3000USドル以下の低所得者層の人口、いわゆるBOP(Base of Pyramid)を指す。BOP層は低所得であるために社会課題に多く直面する層であるとともに、開発途上国の発展とともに巨大なマーケットに成長する層でもある。

このビジネスアイデアコンテストはBOP層の社会課題の解決とこの新しいマーケットの開拓を両立する革新的なビジネスアイデアを生み出すプラットフォームを目指している。このプラットフォームで開発途上国でのビジネスが促進されることによって、開発途上国と日本の双方にとって大きなメリットが生まれる。


まず開発途上国には多面的な開発が促進されるというメリットがある。開発途上国の開発促進の代表としてODA(政府開発援助)が挙げられる。国連機関、世界銀行などの他国援助、そして日本のJICA、アメリカのUSAIDのような二国間援助機関により世界中で開発プロジェクトが実施されている。このような開発援助はインフラ支援や保健、教育などの技術支援で大きな役割がある一方で、期間がきまったプロジェクト型の開発援助は終了後のインパクト継続が難しい分野もあり、経済的自立が必要な民間事業開発とは必ずしも相性が良いとはいえない。

 

さらに先進国からなる経済協力開発機構(OECD)から開発途上国への資金フローも2001年では民間直接投資とODAがほぼ同じ金額だったのが10年間でODA資金が約2.5倍に増えるなか、民間直接投資は約4倍に増えており、開発途上国の開発に対して民間分野がより強く影響を与えるようになっている。


このような背景のなか、これまではODAなどの援助中心であった社会課題の解決にビジネス分野からのアプローチが促進されることによって、持続的で多面的な開発が進むことが期待される。実際にこのビジネスアイデアコンテストで受賞した車の余剰電力を簡単に回収するシステムを使ったビジネスモデルは、すでに多くの開発途上国で新しい電力のあり方として注目され、社会課題のひとつである無電化をビジネスで解決する事例となっている。


また日本企業にとっては、成長の途上にある開発途上国のネクストマーケットを新しい成長エンジンにできるというメリットがある。開発途上国のビジネスというと、どうしても「貧しい国々でビジネスとしての収益性は低い」、「進出目的は工場移転など安い労働力が目当て」というステレオタイプの認識がある。確かに20年前であれば、日本と開発途上国の経済格差は大きくこのような認識も間違いではなかった。

 

しかし、この20年間で日本のGDPがほとんど変化していない中で、多くの開発途上国の経済規模は3倍以上、ベトナムでは7倍近くに成長している。このため日本国内だけを見ていると世界での大きな変化とそこから生まれるビジネスチャンスを見逃してしまう。実際に開発途上国に行くとその経済的な活況に目を奪われる。タイ、インドネシア、ベトナムなどのACEANの雄はいうに及ばず、カンボジアやラオス、さらにはかつて最貧国と呼ばれたバングラデシュでも経済規模は大きくなり、訪問するたびに増える高層ビルや高級車をみても経済が成長しているのが見て取れる。もちろん最初に述べたBOP層はいまだ存在し貧困による問題もあるが、購買力のある層は増加しており、マーケットとしての魅力は確実に増えている。


高齢化が進み人口が縮小するなかで日本企業が国内で成長するには、小さくなるマーケットの中でパイを奪い合うか、新しいニーズを掘り起こす必要があり、すでに高いレベルの技術やサービス水準をもつ日本企業同士の潰しあいになりかねない。しかし、飛行機で数時間の先には日本の高度成長期のような混とんとしてはいるが、成長著しい魅力的なマーケットが存在している。この成長を取り込むことによって、成長の壁を打ち破ることのできる日本企業は大企業、中小企業問わず多く存在するといえる。


それでは日本企業、起業家が不確定要素の高い開発途上国に進出するために必要な要素は何なのだろうか。ビジネス分野は多岐にわたるので一般化は難しいが、これまでビジネスアイデアコンテストを通して、300件以上のビジネスアイデアの審査の経験から得られた成功するために不可欠と思われる要素がいくつかある。


最初に挙げられるのが、「計画に時間をかけすぎない」という点である。これは先進国のビジネスでも言えるかもしれないが、開発途上国のビジネスでは特に重要である。開発途上国はその名前の通り様々なものが開発の途上にあり、システムなどが整備されておらず、成長の速さに伴ってビジネスを取り巻く環境も非常に早く変化をする。これまで多くの事例をみても最初に立てた計画が思うように進まず事業開始早々にとん挫するケースが非常に多い。

 

しかし、このようなプロセスの間違いで中止していては途上国でのビジネスは前に進むことができず、最初の計画を仮説として、度重なる変更でもゴールを目指して進み続けることが重要になってくる。このように計画変更の可能性が大きいからこそ計画に時間をかけるより実施のプロセスに早く進むことが重要である。成長と変化を続ける開発途上国ではマーケット調査に1年をかけても調査が終わるころには、情報が古くなってしまう。先日訪問したアジアとアフリカの現地のビジネスマンから、中国、韓国、インドの企業が不確定要素を踏まえたうえで進出する中で、日本企業は計画を精緻なものにするために調査に時間をかけ、開発途上国での商機を逃す傾向があると同じことを指摘された。
もう一点がビジネスをする国への「土着力」である。

 

前述した要素にも関連するが、日本とは違う文化、商習慣をもち変化の大きいこれらの国でビジネスをすすめるには、強くその国に寄り添う必要がある。この土着の仕方はこれまで成功してきている企業で大きく二つのパターンがある。


ひとつのパターンは単純に現地に張り付くパターンである。ただし、1~2年の駐在ベースで現地に赴くのではなく、私たちが支援するベンチャー企業ではその国に骨をうずめるほどの覚悟で現地に張り付く場合にブレイクスルーをする可能性が高いと感じている。大企業でも韓国の企業では、進出する国に社員を派遣し、現地の人々とまったく同じ生活環境で1-2年生活をさせたうえで事業展開を担当させるという。逆に日本人コミュニティのなかに引きこもっていては、何年現地にいても土着力はつかないだろう。

 

このようにフィジカルに現地に溶け込むことによって、信頼できる人的ネットワークが形成され異文化への理解も深まっていく。これらは外国でのビジネスに不可欠なものであり、インターネットが発達しあらゆる情報が手に入る現代でも深い人間関係の形成や固有文化の暗黙知の理解は現地にいないと手に入れることが難しい。逆に言えば、インターネットで手に入らないものを獲得するには「土着」する必要がある。

 

もうひとつは、信頼できる現地パートナーを介してビジネスを進めるパターンである。日本人が現地に土着するのではなく、現地パートナーを取り込むことによりビジネスを土着力のあるものにするのである。このパターンは自分で現地に土着するより簡単に見えるが、実際のケースをみると必ずしもそうではない。信頼できると信じたパートナーに裏切られたり、だまされたりする事例も少なくなく、本当の意味でのパートナーは自身が土着しないと見つけられないケースも多い。この点から企業や起業家の途上国支援でもっとも価値のあるものは、資金や人的支援より信頼できる現地ネットワークの紹介だと私は考えている。


そして最後に重要なのが、進出する国をどれだけ好きになれるかという点である。開発途上国のビジネスは可能性が大きい一方で、日本で進める以上の困難が待ち構えている。日本人の常識では考えられないようなこともしばしば起こる。そのような中、途上国ビジネスで成功している先達をみると、異文化を愛しその国の人々を好きになることで相手国に必要なモデルを理解し真の意味での「土着」を生み出す要因になっていると感じている。最後に精神論かと思うかもしれないが、途上国でビジネスを立ち上げるのはゼロをイチにする作業である。新しいものを生み出すときにはロジックを越えたものが、必要なのではないだろうか。


今年、第3回のビジネスアイデアコンテストでは日本だけではなく、アジア、アフリカで同時開催をする。開発途上国の人たちが自分の国をよくするために考えるビジネスアイデアは現地の文脈にあった土着力の高いものである可能性が高く、そこに日本企業をつなげることで新しい価値提供ができるのではと考えている。

 

多田  盛弘   (ただ  もりひろ)
アイ・シー・ネット株式会社  代表取締役社長
早稲田大学卒業後、水族館勤務、タイでのダイビングインストラクターを経て、インドネシアのバリ島で青年海外協力隊として国立公園のエコツーリズム開発に従事。その後、国際協力分野の開発コンサルタントとして、沿岸資源管理、復興支援、教育、保健、産業開発など、20ヶ国以上でコンサルティング業務を実施。そして現在に至る。

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