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【新しいフェーズへ】女子の力の可能性 「ひらひら力」、「うちら力」、「逆に力」

「女子力」という言葉が世の中にでてきたのが、ちょうど2009年ごろ。

僕が、女子の力で社会や企業を元気にすることを目指して、電通社内に、プランニングチーム「電通ギャルラボ」を立ち上げたのが2010年なので、女子力という言葉の歩みと、ギャルラボの歩みは、ときを同じくしてきた。そういう視点で、女子力の今とこれからについて書きたいと思う。


電通ギャルラボとは
電通ギャルラボは、女子のマインドとパワフルな生き方を活用し、企業だけでなく日本社会の活性化までを目指す業界初の女の子専門プランニングチームです。

ギャルだけでなく、ギャルの周辺にいる女の子たちもふくめて様々な角度から幅広く女の子たちのインサイトを分析し、ファッション領域だけでなく、様々な企業に向けて ギャルラボ独自の知見を活かしたソリューションを提案しています。

マーケティング戦略やアウトプット制作の広告コミュニケーションのみならず、 事業・商品開発、プロモーション、テレビ番組や雑誌企画まで、様々なプランにニングを行っています。


ギャルってどんな女の子?
電通ギャルラボが考える「ギャル」とは、いつも時代の真ん中に立ち、その時代を引っ張っていける行動力と精神力をもつ女の子たちのこと。
注目しているのは、見た目だけじゃなく、内面からもキラキラと輝く強いパワーを発している女の子たちです。

「あなたはギャルですか?」と問われると、実は女の子の2.6%しかYESと答えません。
(電通ギャルラボ調べ: 15~39歳女性 1000s 2013年5月)

でも、電通ギャルラボが定義する3つのギャルマインド「心Love、技Deco、体Guts」を備えた女性は、67.8%。つまり、女の子の約7割がギャルマインドをもっているといえます。

ギャルラボでは、こうしたマインドを徹底追及し、 常に女の子たちの新しい動向を探っています。



僕が、電通社内の若手女性社員を集めて、ギャルラボというチームを立ち上げたのは、そもそも会社の若手アートディレクターのひとりに、元ギャルだった社員がいたことからはじまっている。見た目よりも、その内面性や行動力に可能性を感じたのだ。

たとえば、打ち合わせで、先輩のアイデアにも「それ、つまらなくないっすか?」と歯に衣着せずに言う。「これ、やりたんですけど」とクライアントに対しても、気を遣わずに大胆に提案する。

そうしたギャルならではの突破力で、閉塞した日本に新しい風を送り込めるのではないか、と期待したのだ。「女子力」という言葉には、いろいろな意味が含まれる。

「男性から愛されるようなメイクの技、ファッションのセンス、料理の腕前」など、男性を意識した言葉として使われることも多い。そういう点では、ギャルラボが注目してきたのは、「女子力」というよりも、もっと広い意味での「女子の力」。

ギャルラボのこの5年間は、女子の力の可能性を探ってきた5年間でもある。そうした活動を通して、「女子の力」として僕が強く感じ、可能性を感じている3つの力を挙げたいと思う。

「ひらひら力」、「うちら力」、「逆に力」の3つだ。どれも、一般に言われているものではなく、僕の造語なので、はじめて聞く言葉かもしれない。

一つ目の「ひらひら力」は、先述した若手アートディレクターにも言えることなのだが、組織や会社の壁にとらわれない自由さのことだ。「突破力」まで暑苦しくない、蝶のように、ひらひらと飛び回るような自由さだ。

その自由さは、周囲の状況に対してだけではない。自分自身からも自由なのだと、僕は何度も感じてきた。男性は、自分が発言したことにこだわる傾向がある。自分がこうだ、と言った発言に、まったく反する意見が出たときに、すっとは受け止められない。

だが、ギャルラボのメンバーが打ち合わせをしている様子を見ていると、さっきまで自分が主張していたアイデアとまったく反するアイデアが他のメンバーが出てきたときに、すぐに「それ、いいじゃん!」「かわいい!」と声をあげて賛同している様子を見て、感心させられることが多い。

ちなみに、日本において、「女子」という概念は、もともと大正時代の頃に生まれたと言われている。社会の枠組みにとらわれない、てふてふ(蝶々)のような女子があらわれだした、と当時の何かの文献で読んだことがある。

少し脱線するが、シャルル・フーリエという哲学者は、人間の欲望について、3つのレベルにわけて説明している。いちばん下のレベルは、食欲や性欲などの肉体的欲望。これは動物でも感じるレベルの欲望だ。その上のレベルが、ひとつのことに情熱を燃やし、何かをやりとげる欲望。

だが、シャルル・フーリエは、人間には、その上のレベルの欲望があると言っている。「混沌を愛する欲望」「常識的な流れを裏切りたくなる欲望」「蝶のようにひらひらと移り変わりたい欲望」だという。

ここで細かく話すことはしないが、3つ目の欲望を、シャルル・フーリエは、「パピオネ(=蝶)」と名付けている。つまり、女子の「ひらひら力」は、人間としてレベルの高い欲望なのかもしれない。

そして、こうした「ひらひらと境界線を越えて、自由に動き回れる力」は、これから、企業が、自分たち自身の既存の事業モデルを越えて、新しいイノベーションを起こすときに欠かせない姿勢だと思う。

つぎは、「うちら力」だ。電通ギャルラボは、2011年、国際NGOジョイセフと共同でチャリティーピンキーリングというプロジェクトを立ち上げた。

日本の女の子の力で、途上国の女の子を支援することを目指したプロジェクトで、かわいいピンキーリング(小指につけるリングのこと)をつくり、販売価格のうち一部が、タンザニアの女性支援に使われるというしくみだ。

ギャルラボのメンバー数名が中心となって準備を進め、メンバーも実際にタンザニアを訪れて、支援現場を視察した。視察から帰ってきたメンバーは、もともと考えていた「Girl Saves Girl」というスローガンを「Girl Meets Girl」という言葉に変えたいと言い出した。

理由は、「タンザニアの女の子も、うちらとおんなじ女の子だった」「一方的に助けるんじゃなくて、うちらといっしょということを伝えたい」から。女子がよく口にする「うちらは・・・」という言葉。

その「うちらは・・・」が指しているのは、実は、友人だけではなく、女子という大きな集合体であり、女子的なものを理解し、共感するすべての人の集合体なのだ。そうした広い集合体に対して、女子は仲間意識を持っている。

だから、タンザニアの女の子であっても、日本の女の子と同じ「うちら」になれる。こうした「うちら力」は、国境を越えて、文化をつなげたり、協業したりするときに、大きな力になれると思う。そんな思いで、ギャルラボは、2013年に、ギャルラボアジアプロジェクトをスタートした。
アジアの国々と日本の関係性について、いろいろ課題もあるけれど、でも、女子同士で話せば、すぐに「うちら」になれる。アジア各国の女子と女子を、これからも、さまざまな文化でつないでいきたいと思っている。

そして、3つ目は、「逆に力」だ。女子の会話を聞いていると、不思議なやりとりがあることに気づく。「これ、ちょっとおじさんぽくない?」「でも、それが逆にかわいいかも」といった会話だ。

ふつうに考えれば、かわいくないもの、ダサいもの、気持ちわるいもの、そういうものに対して、女子は、「でも見ようによってはかわいいかも」という視点を持ったりすることがあるのだ。「きもカワイイ(きもちわるいけれどカワイイ)」という言葉もそういう視点から生まれた言葉だ。

すごく、パンク。新しいカルチャーは、こうした「逆に」の視点からこそ湧き出てくるものだと僕は思っている。

今年、ギャルラボは、ギャルラボ内に、地方創生に特化したプランニングチーム「ギャルラボ@(アット)」を立ち上げ、その第一弾プロジェクトとして、女子の視線で、日本の地域に眠る「逆にアリかも」と思うモノ・コトを発掘していく「逆アリプロジェクト」をスタートさせた。

少子化や過疎化など、いま日本は多くの社会課題を抱えている。そうした社会課題がある場所というのは、色にたとえるなら、いわばグレーの場所だ。でも、そうしたグレーの場所にも、カラフルな色を見出す、「逆に面白いかも!」と考える視点を、女子は持っていると思う。

ここまで、「女子の力」の、これからの時代における可能性として、3つの力、「ひらひら力」「うちら力」「逆に力」を挙げて説明してきた。

「ひらひら力」で、企業に、既存のビジネスモデルを超えるイノベーションを軽やかに生み出すこと。「うちら力」で国境を越えて、仲間意識を生み出し、協業していくこと。「逆に力」で、地域や社会の課題に、新しい視点を与えること。

そうした可能性を語ってきたのだが、こうした力は、何も、女子だけに求められることではない。むしろ、これからの時代、男性であっても、こうした力は求められていることなのではないだろうか。

「女子の力」という言葉が、もしかしたら、こうした力を「女子だけのもの」と、その広がりの幅を狭めてしまうことになっているとしたら、逆効果だ。「女子力」「女子の力」。

これからは、その「力」はどんなものなのか、その部分にこそフォーカスがあたり、名前が与えられ、男女問わず、年齢にかかわらず、身につけて広げていく。そういうフェーズに入っていくべきではないかと僕は思う。



並河 進 (なみかわ すすむ)
株式会社電通 ソーシャル・デザイン・エンジン代表クリエーティブディレクター/コピーライター
社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。「電通ギャルラボ」代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『Communication Shift「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)他
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