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【いつまでも大人になりたくない!】エイジレス化する 「女子」マーケット

ここ何年かの間に定着した感のある「女子」という表現、用途例としては「働く(き)女子」、「肉食女子」、「婚活女子」など、何かを行なっている女性や何か特徴的な女性全般をまとめて表現する際に使われていることが多い。

経年トレンドとしては、「女子」が指す対象年齢の幅が広がってきているということだろうか。

わかりやすい例を挙げると、働く女性の呼び名だ。1960年代の高度成長期の日本の「職場の花」であった女性は、OL(=オフィスレディー。ちなみに和製英語ですが)、当時としては最先端のおしゃれな呼び名だったに違いない。

その後、1986年の男女雇用機会均等法の施行以降、総合職の女性の割合も増え、OLは一般職の女性を指し、総合職の女性はキャリアウーマンと呼ばれるようになった。

仕事帰りにストレス発散にビールをプパーっと飲む女性は「オヤジギャル」とも呼ばれ、2000年代に入り、総合職の女性がマス化し定着すると「ワーキングガール」、「働く女子」など、時代とともに呼び名はなぜかレディー、ウーマンからガール、女子へと若返りに転じている。

「女子」は商品やサービスの名称にも多く使われるようになった。ホテルのレディースプランや映画館のレディースデーなどはずいぶん前からあったが、ここ数年で増えてきたのが飲食店の「女子会プラン」や旅行商品の「女子旅」などがあげられる。ここでも「女子」の対象年齢はエイジレスになりつつあるようだ。


「2015年4月に『トランスペシエ』という新たな女性向けの旅行商品を発売しました。『トランスペシエ』は「とくべつな体験」をしていただく旅で、絶景、列車、お酒、チカラ(パワースポット)、温泉の5つのテーマ設定をしています。

温泉中心の女性向け商品『ゆらりとりっぷ』も併せて、『新女子旅宣言』という共通のロゴで括っています。想定していたターゲット年齢は20代後半から30代後半ぐらいの働く女性ですが、実際には60代の女性のお客さまも利用されていたりして、うれしい驚きもありました。

具体的な年齢は敢えて設定しなくてもいいのかなと思っています」(JR東日本鉄道事業本部営業部宣伝グループ 金山瑞穂さん)

「『おくいずも女子旅つくる!委員会』は2012年に発足しました。『女子』という言葉を使用したのは、20代~40代ぐらいの幅広い女性にときめいてもらいたいという想いがありました。

メンバーの中で議論を重ねる中で、女性=自立した品格のある女の人、女子=無理しない、等身大の女の人というイメージがあるということになり、より幅広い層の女性に島根県に来てほしいと敢えて『女子』を採用しました。

PR誌では、70代の女性も取材しましたが、昔の恋の話などを聞くとキャピキャピしていてかわいらしい『女子』だなと思いました」(雲南市役所産業振興部商工観光課「おくいずも女子旅つくる!委員会」代表  鈴木佑里子さん)

30歳でも40歳でも50歳!でも、「女子」と呼ばれてうれしいと感じるメンタリティは、実は日本特有のものではないだろうか。

イタリア人やフランス人の知人に聞いてみると、ヨーロッパではティーンエイジャーは「はやく大人になりたい」と思っていて、早くパートナーを見つけて素敵な大人が楽しんでいるようなライフスタイル(仕事の後に着替えて、おしゃれしてレストランやバーに行って、夜遅くまで恋人と語らう)を楽しみたいと思っているというのがマジョリティだそう。

女性のファッションも20代ぐらいまではモノトーン中心のシックな色使いだが、年を重ねてマダムになるほど華やかな色使いを楽しみ、若い女性よりもマダムのほうがモテる文化だという。

これに対し、日本は「いつまでも大人になりたくない」という考えの方が多数を占めているように思う。女性も若ければ若いほどモテるし、欧米の女性アナウンサーの声のトーンはかなり低めでそれが知的だとされているのに対し、日本の女子アナは高いトーンでかわいらしい声が求められているのも対照的だ。

「かわいい」カルチャーが日本特有の文化として輸出され、海外で面白がられているのも頷ける。「大人かわいい」「大人女子」「大人ラブリー」など、従来は10代~20代に使われていた言葉も何でも「大人」をつけて、エイジレス仕様に変身させて何となくしっくりきてしまっているのもメディアのマジックとして成功している。

2012年に創刊された雑誌「and GIRL」(エムオン・エンタテインメント)のキャッチコピー「アラサーになっても、仕事ができても、結婚しても、『ガール』な大人たちへ!」は象徴的だ。

姉妹雑誌「mama girl」のキャッチコピーは「ママだけどガールだもん! おしゃれも子育ても楽しんでいこうよ」と、堂々と「ママになってもガール」でいいのよ宣言をしている。

そういえば、最近知って衝撃を受けた言葉がある。いわゆる「妊活女子」の間では常識的に使用されている言葉らしいが、夫婦の営みのことを「なかよし」と言うらしい。

「来週の排卵のタイミングで『なかよし』して・・・」などと使うらしいのだ(排卵という直接的な表現と「なかよし」のギャップがかえって滑稽でもある)。恐らく、世界中のどこの国でも夫婦の営みに「なかよし」という隠語が使用されているのは日本だけではないだろうか。

しかし、日本の女性のエイジレス化(特に子供化)は、実は女性が元気になる源にもなっているような気がしてならない。年齢、未既婚、子供の有無などのデモグラフィックな縛りから解放されてより自由になった女性たちの落としどころとして、「女子」という言葉がちょうどしっくりときているように思う。

「女子」マーケットは、ますます今後も元気に拡大していくように思える。

先日、ギリシャ出身のジャーナリストと話をしていて、日本の神様の話になり、

「ギリシャや他の国でも、太陽は男性の神様、月は女性の神様というのが常識だと思っていたけど、どうして日本の象徴的な神様は太陽が女性(天照大神)で、月が男性(月読命)なのか」と聞かれて、ちゃんと説明できる知識がない自分を悔いたが、日本の女性が元気な理由は、太古の昔から女性が太陽の象徴だったことに起因するのかもしれないと、ふと思った。




会田 裕美 (あいだ ひろみ)
有限会社アディアック 代表取締役/マーケティングプロデューサー
(株)パルコにてマーケティング情報誌『アクロス』で編集者として、トレンド分析や社会・世代論などに携わり、その後音楽情報誌の立ち上げや音楽制作を担当。その後、会員制女性サイトで、マーケティングマネージャー、編集長などを歴任し、2004年、(有)アディアックを設立。定量調査・定性調査の実施・分析からブランディング、各種コンテンツの制作・編集やプロモーション、PRまで幅広くコンサルティングを手がける。定性調査(グルイン、デプス、訪問調査、有識者調査など)でこれまでにインタビューした累計人数は約3,000名。2015年2月には車内販売では日本初となるベジタリアン仕様の駅弁(デリ)の開発(lalala train cafeビューティデリ)などもプロデュースし、食の分野にも活動範囲を広げている。
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