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【日本各地の原石を活かすには】京都で組み合わせ、 海外市場でリデザインする

昔から京都は全国から選りすぐった原材料を加工して商品としてきた。COS KYOTOは文字通り京都が培ってきた感性で「漉(こ)す」ことで、日本各地の原石を開花させる取り組みをしている。

「そうしたよいものを、かつては朝廷等が磨き上げてきましたが、いまの京都でそれをやろうと挑戦しています。」と北林功代表は言う。また、海外で日本は多くの日本人が思っているより大きな注目を浴びている。日本の文化やストーリーに共感してくれる市場は増殖中だ。


既存のものを進化させるのが日本のやり方
文化的な背景があるものは売るのが大変だ。だから日本の商品をそのまま持っていっても生活や風土が異なると売れない。例えば乾燥している欧州では畳は使えないが、物理的なこと以外でも各市場にマッチしたものでなければならない。

しかし、いまの京都は昔を維持するので手一杯という見方もある。昔ながらのものを残そうという機運もある。ところが、呉服は中国=呉の服、印伝はインド伝来、唐紙は中国=唐の紙、といったように、いまや日本文化を代表するものは、海外渡来を日本で洗練させたものだ。

奈良に代々続く家に生まれた北林氏は、「戦国時代にポルトガルからもたらされたと言っても、歴史的には最近のこと。ずっと同じものをつくっていてもダメです。」と語る。

また、「形骸化して時代に合わない『伝統産業』は残れない。ダーウィンの進化論のように、世界の市場に適合させて『文化ビジネス』としていく必要がある」と北林氏は言う。

それには技術や商品だけでなく、経営方針をみるという。「共に30年先を見れる人がいるかどうか、そういうヤル気がある会社であるかが大切です。」…先日は、これに当てはまる鳥取の和紙の会社を紹介してもらったそうだ。


各専門家に料理してもらい、ビジネスを組み上げる
COS KYOTOは、アメリカやフランスなどの現地のデザイナーと共にマーケットにあった形で商品づくりをする。「我々は、料理人(デザイナー)を見極めることをする。彼らにマテリアルを真っさらで持って行く。

例えば、備後絣のサンプルブックをつくって米国のパートナー候補に送る。そこで、ストール、バンダナにしたいと要望が出ると、職人さんに伝えて糸の太さを変えてもらったりします。」といった具合だ。

世界有数のクリエイティブ都市である米国ポートランドで、現地のパートナーを見つけるべく北林氏は活動している。日本の素材や技術はとても高い評価を受けているが、そのままではダメで、市場をわかっている現地の力が必要だ。

「サンプルを持って、この店、会社、気に入ってくれそうと思ったら、飛び込みで店員に話しかけたりもしています。」…店頭に置かれている商品などを見極め、飛び込み営業でパートナーを見つけていく。

また、商品化のための多様な要素のコーディネートも重要な仕事だ。「OMOTENASHI Selection」2014年度金賞を受賞した、西陣織で用いられる「引箔(ひきばく)」の魅力を活かした照明器具の「十六夜−izayoi−」では、デザイン、照明機器、引箔など複数の関係者を調整し、さらに販路開拓を行なった。

このように、新たな商品化や海外展開のためには、新たなビジネスの組み合わせを実現するためのコーディネートの役割が必要とされる。北林氏が同志社大学大学院で学んだことの一つが「人間の距離がイノベーションを生む」だ。物理的に狭い京都は、東京よりも職種の垣根を越えた交流が多いという。他の地のものを京都で漉して組み合わせる所以だ。


日本各地の原石の海外でのポテンシャル
「いい原石は山ほどあります。」北林氏は確信を持って言う。日本よりむしろ海外で高く評価されるものが多々ある。日本各地に眠っている材料を発掘して、そのポテンシャルを海外で開花させるのだ。

そして、北林氏はいま二つの消費性向が強い分野に注目している。まず、ファッションと建築に近いもの。ファッションはシーズンがあり、ニーズも変わっていく。建築は、リノベーションなど定期的に需要が生じ、単価も高い。これに使えそうな素材を探している。

次に、食品。株式会社GRAが食べる宝石と呼ぶミガキイチゴ100%のスパークリングワインを一昨年に発売したが、これはよい例だ。北林氏は、加工品に、それらを楽しむためのプロダクトも組み合わせて提案することを考えている。

しかし、国内の様々な競合と激しい競争を繰り広げざるを得ない大消費地市場の東京での消耗戦には挑んでいない。「人は共感するものに対価を払う。」と北林氏は言う。分かりやすい例だが、一万円で買ったIKEAの家具を自分で組み立てると、同じ値段では売りたくなくなるという、いわばIKEA効果がある。自分の思いが入れば、価値は上がる。

押しつけで量をさばくのではなく、文化性の高さを入れ、ストーリーに共感する方はどうぞというアピールで利益を上げる戦略だ。これを海外の国ごとに展開するのは、一見すると東京を攻略するより効率が低そうだが、実は効果的なアプローチと言えそうだ。



本荘 修二 (ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表 
多摩大学大学院(MBA)客員教授
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