【花嫁だけが主役じゃない】男らしさの新しい表現

結婚式は勝ち組自慢の場か?
初婚年齢は上昇の一途をたどり、生涯未婚率男性2割、女性1割(2010年)の時代。

結婚したくても経済的な理由から結婚できないとする男性も増え、また、そもそも結婚したいと思わない・結婚の必要性を感じない男女も増えている今。

親同士が息子や娘の代わりに婚活したり、人口減に悩む自治体主催で出会いの場を設けたり、結婚を取り巻く人々の思いや事情を語るには一筋縄ではいかない中、晴れて結婚というライフイベントにたどり着いた人々は男女ともに、まさに勝ち組、さながら勝ち組の方々のお披露目機会としてウエディングが機能しているのではないか。

あるいはまた、仕事の場で輝きにくくなった男性や仕事より家庭重視の男性の増加により、花嫁以上に気合いを入れて臨む花婿が増えたのではないか。

そんな仮説を持っていたのだが、㈱リクルートマーケティングパートナーズが企画制作する『ゼクシィ』編集長の神本氏にうかがったお話は、そうした仮説とは趣を異にするものであった。


結婚式トレンドは10年周期
結婚式のトレンドは社会的背景に合わせて10年程度の周期で変化するとのこと。1980年代後半のバブル期は、「派手婚」がはやり、大型結婚式場でゴンドラやスモーク、大きなイミテーションケーキでのケーキカットなどの大掛かりな演出で披露宴を盛り上げるスタイルが人気であった。

バブル崩壊後の1990年代以降は一転し、「ジミ婚」ブームが到来。結婚式そのものをやらない、あるいは身内など少人数でのレストランウエディングがトレンドとなる。

やがて2000年代に入ると、一軒家のようなゲストハウスに招待客を呼び、みんなでわいわいと楽しむ「アットホームウエディング」が人気となった。そして2010年代。震災の影響も大きい「つながり婚」と言われるスタイルが人気だという。

結婚式のトレンドには時代特性と世代価値観が反映されるが、「つながり婚」においては、いつ何が起きてもおかしくないという不安感、だからこそ身近な人たちとの絆に感謝したいという時代性と、友達家族・友達親子の強い関係性という世代性から、ウエディングの意味合いがみんなでわいわい楽しむものから、その本質である「きちんと誓うこと」「周りへ感謝を伝えること」に重きを置く人が増えてきた。

それは演出にも現れており、たとえば和装の花嫁に母が口紅の最後のひとはけを塗ってあげたり、洋装の花嫁に母がヴェールダウン※1をしたりといった儀式が増加しているという。

そのような時代にあって、最近は準備プロセスも含めてウエディングに積極的に関わろうという新郎が増えている。ウエディングに強いこだわりを見せる新郎とは一体どのような人たちなのか。


花嫁と一緒に頑張る「イケ婿」登場
先述の通り、漠然とした不安の中を生きる彼らは、結婚式ではこれまで育ててくれた大好きな親やゲストにきちんと感謝の気持ちを伝えたい、その気持ちは花嫁だけではなく自分(花婿)も同じように強いのだから、自分も一生懸命結婚式に関わりたい、彼女任せにしていいわけがない、という意識を持つ傾向がある。

そんな花婿が「イケ婿」と呼ばれる男性たちだ。イケ婿とは、結婚式選びから披露宴演出の企画~アイテム作りなど、結婚準備のあらゆるプロセスに協力的で、そして彼女想い。

花嫁のドレス選びはもちろん、ヘア・メイク検討の場にも同行し、彼女を労りつつ、一緒に結婚式を作りあげていくことに熱心で、かつ楽しんでいる花婿のことをいう。もちろん、共働き夫婦の増加により、彼女にだけ準備負担を担わせるわけにはいかないという事情もある。

そして結婚式当日。自らウエルカムスピーチを行い、またゲストや新婦に向けてサプライズを決行し、なかには花嫁のヴェールやブーケ、ケーキやスイーツを手作りするイケ婿や、披露宴で花嫁に再度公開プロポーズをするイケ婿など、そのバリエーションは豊富になっている。


結婚式で大切な人とのつながりを再認識
「最近の結婚式では、家族ということに重きが置かれ、お披露目ではなく、家族のスタートという側面が強くなっています。家族への感謝はもちろん、新しい家族のスタートにあたり、あらためて周りの人とのつながり、信頼できる人とのつながりを大切にし、それを表現しようという流れがあるように感じます」(神本氏)。

『ゼクシィ』は“幸せな結婚式を挙げている人は、強い。”をコンセプトにしているという。どんな夫婦になりたいかをきちんとふたりで誓い、そして大好きな家族やゲストの方々への感謝の気持ちをさまざまな形で伝えることで、結果、新郎新婦ふたりの幸福感が増幅され、夫婦の絆が強まり、その後の夫婦の生活満足度が上がるという。

家族のスタートの場という意義は次のような演出にも現れている。たとえばケーキカットの際に、花嫁花婿の2人だけではなく、両家族を入れて6人でケーキカットに臨んだり、ファーストバイト※2も双方の両親一緒に6人で食べたりなど。

また、親だけではなく兄弟姉妹も演出に加わる等、結婚式に登場する家族の人数は増加の一途をたどっている。花嫁の手紙を読むときの背景に親との思い出の映像を流したり、両家の両親が余興を披露したり、かつてイメージされた結婚式に比べ家族が前面に出てくるシーンが増えているという。

何があるかわからない不確かな時代に、身近な人たち、そして家族を大事にしたい、という意識が高まっていることに疑いの余地はない。

このような中、『ゼクシィ』のアンケートによると、なんと98%もの高い割合で花婿が「結婚式は最高だった」と回答している。結婚式を通して、普段言えなかった感謝を家族に伝えることができた満足感はもちろん、自発的に自分たちの結婚式に取り組み、ふたりで盛り上げることができたという強い達成感の獲得がその理由である。

また、たくさんの人に支えられているということを再認識できたということも大きい。ゼクシィには花嫁1000人委員会というのがあり、花嫁からのアンケート結果を踏まえて誌面が構成されているが、このような時代の変化から、がんばる花婿を応援するため「花婿100人委員会」も結成された。また、新郎のニーズを踏まえた「彼専用ゼクシィ」も半年に一度発行している。


ウエディングににじみ出る「新・男らしさ」
「恋愛のゴール」と捉えるウエディングから、育ててくれた人やお世話になった人に感謝する「ふたりで歩む人生の新しいスタート」を重視するようになってきた結婚式。

今まで支えてくれてありがとう、そしてこれからもふたりをよろしくお願いします、という気持ちを表現する儀式遂行能力は、これからの「できる男」の指標のひとつになるかもしれない。
 

※1 ヴェールダウン(veil down)邪悪なものから花嫁を守 るといわれるウエディングベールを結婚式の始まる前に 花嫁の母が下ろして式へと送り出すこと
※2 ファーストバイト(first bite)とは、結婚披露宴のケー キカットの後で、カットしたウエディングケーキの一切 れを新郎新婦が互いに食べさせあう演出


つのだ  ふみこ
株式会社ウエーブプラネット  代表取締役
生活者インサイトを導き出す緻密なワークショップ設計・運営を中心としたコンセプトナビゲーションを展開。儀式重視のウエディングをやっていれば離婚に至らなかったかもと振り返り中。著作に男性の家庭進出を描いた『喜婚男と避婚男』(新潮新書)など。
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