【制約が生み出す発想力】小林製薬の制約力

「熱さまシート」、「ブレスケア」、「のどぬ〜る」、「トイレその後に」・・・

引っかかりのあるネーミングと、かゆいところに手が届く‘なるほど’商品で、圧倒的にユニークな存在感を築いている企業が小林製薬である。

同社は売上高1300億円前後の中堅企業、また売上の90%を国内で上げる内需型の企業である。その戦略は、「小さな池の大きな魚」と語られている。既存の大きな市場で大手に対抗しながら戦うのではなく、小さいけれど誰も気づいていなかった池の、大きなシェアを狙う、ということである。

そのためには、「あっ、これは便利だな」、「こういう商品が欲しかった」と消費者に思ってもらえる新しい池=潜在ニーズを探し続け、自らニッチ市場を創造していくアプローチが求められる。

小林製薬では、年間売上に対して新製品が占める割合目標を10%に設定している。さすがにこの高い目標をクリアすることは至難の業であるが、それでも実際に年間で7.5%という驚異的な新製品比率を達成しているという。

「あっ小林製薬」的な新商品を次々に生み出し、企業成長の力とする秘訣、それはアイデアの強制発想を日常化することと、アイデアを利益商材とするルールを設けること、この2つにある。


日常化されたアイデア強制発想

1.常に考える習慣
小林製薬の社員は、四六時中考えている。電車の中でも、家の食卓でも、自分の周りの何気ない事象に目を留めて考えることで、「あっここにシミがある」「あっスマホが脂ぎっている」「トイレのここにゴミがたまりやすいな」といった気付きが生まれる。

小林用語では、この気付きを’プロブレム’と呼ぶ。日常の些細なプロブレムに如何に敏感になるかが、今までになかった商品を発想する源泉となる、といえば当たり前に聞こえるかもしれない。

ただ、これを社員全員が毎日毎日行い続けることは当たり前にできることではない。上が、周りが、みんながプロブレムに気付こうと考えているから、自然に自分もやるようになる、そんな習慣力が、小林製薬にはある。


2.大量のアイデア開発と毎月のアイデア会議

同社では、開発やマーケティングに関わる各部が月に1回アイデア会議を必ず行っている。1982年に導入された社員提案制度により、所属部署に関係なく、社員は誰でもイントラネットからアイデア提案ができる。

こうしてなんと年間2万件に及ぶアイデアが社内で議論されるそうである。また、アイデア提案以外にも、業務の改善点などを提案できる仕組みがあり、業務フローの見直しなど、常に’考える’ことが意識付けられている。

さらに、各部のアイデア会議を通過した案は、社長へのアイデアプレゼンテーションで諮られる。このアイデアプレゼンテーションも毎月行われるという高頻度ぶりである。


3.強制発想を一人一人の日常にする秘密
しかし、強制発想をトップダウンで指示する、あるいは会議体の仕組みを作るというだけでは、社員一人ひとりの意識として日常化することは難しい。強制発想を日常化させる秘密は、「賞賛の文化」と「フィードバック」にあった。

どんなアイデアでも否定はしない、良いものを褒めて伸ばす。これが小林製薬のアイデア提案を受ける姿勢である。この賞賛の文化により、アイデア強制発想は単なる仕組みを超えて、小林製薬の文化として根付いた。

また、提案されたアイデアには必ずフィードバックがある。「ここが面白いから、さらに検討しよう」「ここの安全性が不安だから、もう一度調べよう」「こういう理由でペンディングとする」など、何が良くて、何が足りなかったのか、をアイデアプレゼンテーション会議のその場でトップが即座に意思決定し、明確な理由と共にフィードバックされる。

数と回数が多いだけに、これはトップにとっても相当な重圧のはずだ。しかしこうしたフィードバックが無ければ、アイデアを提案しても暖簾に腕押しで、社員の気持ちが削がれてしまうであろう。

さらに社長へのアイデアプレゼンテーションは、該当部門全員が参加して行われる。そこで、各アイデアがどう評価されるのかをダイレクトに感じることで、トップが何を考えているかも共有できるのである。


高い利益率を保つための制約
新商品率が高く、SKUが多い場合には、開発コスト、生産コスト、マーケティングコストの観点から、利益率にはマイナスに働くことが多い。しかし、小林製薬は他社に比べて売上高営業利益率が非常に高い水準にある(2014年度14.2%、ちなみにエステーは4.5%)。

それは、製品を開発する際に、最低限のグロスプロフィット(粗利益)率が課されているからである。「どれだけ面白くても、利益が取れない製品は作らない。

こういうルールを課しておけば、製品化のために現場の社員は一生懸命に考えます。何をどうすればコストが下がるのか。素材や工程を見直すなど、自発的に考える組織になるのです。」と小林豊氏(現小林製薬副会長)はある取材に答えている。

また、優れたアイデアと利益率が期待できたとしても、とりあえず出してみるか、はしない。受容性調査、地区テストと事前調査を重ね、慎重に次ぐ慎重さを持って上市するのが小林流である。

このような、アイデア強制発想の日常化と、アイデアをヒットと利益商材に昇華させるという2つの制約を企業力にし、小林製薬は16期連続増益という快進撃を続けている。

今まで気づかなかった新たな市場を生み出し続けることをモットーとする同社にとって、縮小する国内市場という定番概念は‘どこ吹く風’、のように思えるのである。



松風  里栄子  (しょうふう  りえこ)
株式会社博報堂にて、事業戦略とブランド戦略のコンサルティングを行うコーポレートデザイン部部長、その後株式会社博報堂コンサルティング執行役員、エグゼクティブマネジャーを経て、2014年センシングアジア創業。

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