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働き方、 働かせ方を どうしたいか

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年4月号『働き方開拓』に記載された内容です。)

『働き方改革』が急務である背景
「ワーク・ライフ・バランス」や「働き方改革」という言葉が飛び交っている。

巷では、20時にはパソコンやオフィスの電気を強制的に消してしまう企業もあるとか。多くの職場で、戸惑い、悩みながらも、さまざまな取組を試みている現状ではないだろうか。

こうした「働き方改革」が求められる背景の一つには、我が国の深刻な少子・高齢化の問題がある。生産年齢人口が減少局面にある中で、現実に、官公庁も企業も、中核人材を確保することが次第に困難になりつつある。

加えて、現有スタッフにも、出産や育児、親の介護という事情を抱えた者もいる。このようなスタッフに、離職することなく継続して働いていただくことがこれまで以上に重要であるし、戦力の新規獲得や増強が難しい中、現有戦力で最大限のパフォーマンスを上げることが必要となっているのだ。

一方、働く側からは、趣味や家族との生活を楽しむために「仕事はできるだけ早く切り上げて帰りたい」というニーズがあるのは事実だ。仕事は速く切り上げて帰りたい、アフター5を楽しみたい人もいれば、小さなお子さんと夕食を共にしたい世代もいる。

他方、中途離職の意向を示す職員と話をすると、挙げられる理由の中で、「残業が多いから」というのは、実は、上位ではない。最も多い理由は、「成長につながる経験ができない」とか「社会に貢献できる仕事ができない」、「もっと意味のある仕事をしたい」といった、仕事の中味に対する不満が多いのが実態だ。

すなわち、働く側の多くも、仕事を通じて、仕事の質を高め、社会に貢献し、自身の能力・スキルを高め、報酬を得たい、という欲求を持っているのである。

したがって、単に「残業を減らす」という観点にとどまるのではなく、単純作業や形式的な事務・手続に追われる「不毛な勤務時間」を減らし、貴重な勤務時間を、社会への貢献性の高い業務、自分の成長につながる業務、より本質的な業務に注力できるようにするという観点が必要であろう。

現実に目の前にある仕事のやり方を変えずに、就業時間の〆切(消灯時間など)を設定するやり方は、経営者、マネージャーがやるべきことを放棄したものであり、あまりにも無責任と言わざるを得まい。


まずは"働く環境"から
働く人たちが日々の相当時間を過ごす「オフィス」は、スチール製・キャビネット付のデスクや大型のキャビネット(書棚)がところ狭しと並べられ、画一的で堅苦しく、無機質で息苦しい印象すら感じさせる場所であった。

私たちは、かつて、そこを「仕事の本拠地」であると考え、各自の「拠点」としての「デスク」を配置し、業務に必要なあらゆる機能(資料、文具、電話、PCデバイスなど)を「デスク」に集約していた。それは、普遍的に機能的な形態であると信じられてきていた。

しかし、実際の「働き方」は、どうか。上司に説明・報告を行ったり、会議に出席したり、営業に出かけたり、出張したり、その間はさまざまな交通手段で移動していたりと、様々な場所・場面を切り替えながら仕事をし、結果、「拠点」であるはずの「デスク」に在席している時間は割合としては少なかったのではないか。

このような働き方の実態を踏まえれば、一箇所に「拠点」を構築する「拠点型」オフィスや「拠点型」デスクは、今日のICT水準ではもはや合理的ではないと考えられる。

すなわち、業務に必要な情報は、紙の資料ではなく「データ」の形で常時携帯・参照・利用可能であるし、電話もメールも、文書作成も、いまやスマートデバイス1台あれば、どこにいても可能なのだから。

私ども総務省では、「働き方改革」を模索する中で、従来の「ペーパーワーク」を極力縮減し、省内無線LANの導入、WEB会議やモニターを使ったペーパーレス会議の活用、オフィス什器の刷新を始めとする「オフィス」と「働き方」の大刷新(オフィス改革)を実現している。

既に、IT系など一部の企業でも、先端テクノロジーの価値を最大限活用すべく、オフィスやファシリティ、設備などの変革が進められてきたのである。

しかし、彼らの取組は、専門業態であるが故に、「その業態ならではの取組」と見られ、そこに潜む普遍的な価値が十分理解されていなかったようにも考えられる。

私たち総務省の取組は、「非効率な組織」と見られがちな国のお役所での取組ということで注目され、各府省や地方公共団体などの公務部門にとどまらず、多くの民間企業からも注目され、参考とされて波及効果を生むに至っている。

「拠点」であるオフィスやデスクの束縛から解放されることで、仕事の機動性(Movility)が飛躍的に高まる。そして、仕事の状況に応じて、機動的に移動しながら、働く場所を選択できるようになる(ABW:Activity Based Working)。

様々な場所や場面の切り替わりごとに分断されていた仕事が、場所の移動に関わらず、継ぎ目なく行えるようになる(Seamless Work)。これまで使えなかった隙間時間(移動時間や待機時間)も、場所にかかわらず仕事ができるようになる。

これまで隙間時間に処理できなかった仕事は、残業時間の増をもたらしていたから、この改革効果は大きいのではないか。

拠点型デスクを撤廃し、デスクをコンパクト化したこと、そして、ペーパーレス化を進め、キャビネット(書庫)の数を大幅に削減したことなどにより、大幅なスペース効果が生まれた。

打合せや会議スペースが充実し、また、事務室の空間をできるだけ広く可変的に活用することで、
①コミュニケーションの円滑化
②打合せや意思決定の迅速化
③空間利用の高度化
などが実現した。

モニターを使った会議など、ペーパーレス化を進めた結果、コピーの頻度、コピー用紙の使用量が激減した。打合せや会議の都度、会議室の予約に苦労したり、資料作成に追われたりしていた若手職員たちも、より本質的な業務、成果につながる業務に専念できるようになった。

働く場所を制約しない働く場を通じて、テレワークも容易になった。私たちの改革では、「働く場」(オフィス、デスク)を変え、「文化」(紙)を変えた。そして、それに合わせて、職員の「意識」も変えようとしている。「意識改革」は最も重要である。

ただ、一朝一夕には難しいし、リーダーやメンバーの異動もあるから、継続的な取組も必要だ。オフィス改革を進める中核的な役割を若手中心のチームにイニシアティブを委ねたり、その後の推進チームも新人を含めた若手中心で構成したりすることで、継続的な取組と意識改革の定着に、今も取り組んでいる。

全国各地から講演依頼があれば、チームの若手が講師として出向いている。このような経験は、若手にとっても、貴重な成長の機会となっているのだ。


働き方は"自分で"決める
働き方は、業態や業務内容に応じて様々であろうから、働き方改革にも、様々な出口があってよいと思う。そして、それ以上に、オフィスも、働き方に相応しい場所である以上、それぞれの組織に相応しいオフィスのあり方も百種百様であるはずだ。

働き方改革を考えることは、私たち自身の働き方を見つめ、見直し、その価値を再発見すること同義であろう。それぞれの企業の価値、仕事の価値を見極め、これを最大化するために、業務の本質以外の要素(単純作業、無駄時間、働く上での不自由・ストレス)を極力軽減し、働く人たちにやりがいを感じさせることが、働き方改革にとっても、業績向上にとっても、重要なのではないだろうか。



箕浦  龍一  (みのうら りゅういち)
総務省  行政管理局  企画調整課長

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