このページを印刷

ビッグデータの賞味期限は<せいぜい5年>だろう

ご存知の通り、ビッグデータとは膨大なデータの集積のことをいいます。

ビジネスの世界では、ビッグデータから何らかの法則性や類似性を見い出し、統計学のスペシャリストたちがそれらのデータに解析を加えて、将来の見通しなどに利用できるようにすることが期待されています。


ところが、そもそもビッグデータがこれだけ注目されるようになったのは、ITに関するインフラがすでに至るところに行き渡ってしまったために、IT業界が売る主力商品がなくなってしまったからなのです。


そういった事情から、ビッグデータは新しい目玉商品として、半ば強引なこじつけでクローズアップされてきたという面もあるでしょう。ビッグデータというのはつまるところ、「膨大なデータをどのように統計で処理するのか」ということにすぎません。


ビジネスを革新的に変えると騒いでいるわりには、本質的には取り立てて騒ぐほどの意味がないのではないでしょうか。たしかに、ITの発達によって膨大なデータを処理できるようになったのは一つの進化かもしれませんが、これに統計学を合わせたというだけのことであり、そこにはなんのイノベーションもないように思えるのです。


ですから、私はビッグデータが商売になるのは、せいぜいあと5年程度だろうと考えています。近年、ビッグデータの事業に参入する企業が増えてきていますが、いまのところはビッグデータ事業が企業に利益をもたらしていると言えるでしょう。


また、その顧客となる企業でもビッグデータを他社に先んじて使いこなすことができれば、自らの業界において、他社よりも優位に立つことができる可能性が広がっていくでしょう。


しかしながら、そのような状況が長続きすることはありません。これからビッグデータ事業に参入する企業が増えれば増えるほど、この分野における競争は激化していくからです。その先にあるのは、他社との価格競争による価格の引き下げです。


つまり、ビッグデータは5年後には、商売としてあまり旨みがあるものではなくなっていくでしょう。おまけに、ビッグデータのサービスを受ける企業側にとっても、ビッグデータを使うことによって生じる優位性は、徐々に薄れていくことが避けられそうもありません。


当然のことですが、ある企業がビッグデータを利用して他社から優位に立ったということがわかれば、他の企業でもビッグデータを活用しようとする傾向が強まっていくからです。


ビッグデータのサービスを提供する企業はあくまでも商売ですから、新しい顧客が来れば、それが既存の顧客と競合することになろうとも、喜んでサービスを提供しますし、新しい顧客の要望に応えようとするわけです。


つまり、ビッグデータという言葉がさまざまな業界で一般的に知られるようになればなるほど、利用者側にとっての旨みもなくなっていくのです。これは、なにもビッグデータに限った話ではありません。


どのような業界でも、他社に先駆けて新しい事業に参入する利益、すなわち先行者利益というものは確実に存在しています。他社がまったく参入していない場合には、価格決定権を自らが握ることができるからです。


しかし、その参入した事業が他社からも利益になると見込まれて、次々と新規参入する企業が増えていったら、どういったことが起こるでしょうか。これは非常に単純な話で、需要と供給のバランスによって利益が徐々に少なくなっていくのです。


需要者が頭打ちになるなかで、供給者が増えれば増えるほど、サービスを提供する価格は下がっていくわけです。そのような過程では、最終的には価格競争が激しくなっていきます。


そして、商売としての旨みもなくなっていき、企業はビッグデータに派生する新しいサービスか、あるいは新しく売るモノを考えなければならなくなるのです。ですから私は、ビッグデータが売る側にも買う側にも旬なのは、ぜいぜいあと5年くらいではないかと考えているわけです。


さらに私は、需要と供給の関係は別にして、ビッグデータには大きな弱点があると考えています。消費の現場で何か大きな変化が起こった時に、ビッグデータではとても対応が難しいと結論付けるのが自然だからです。


そういった時に必要な人材は、決してデータを分析する統計学者ではありません。変化に適応できる人材、あるいは前もって変化を読むことができる人材なのです。そう考えると、いろいろな仮説を立てて、それをひとつひとつ検証していくという作業の繰り返しが日頃から大切なわけです。


いくらデータ量が膨大だと言っても、データは単なる結果でしかなく、仮説を検証するための道具でしかありません。そういった意味でも、ビッグデータは目先のビジネスとしては魅力的なのかもしれませんが、おそらく10年後も20年後も長続きするビジネスではないでしょう。


ひと昔前は、他社が持っていないようなビジネスモデルを考えついたら、それこそその企業は30年は安泰であると言われました。それがいまでは、10年、下手をすれば5年も経つと、かつては斬新だったビジネスモデルがあっという間に陳腐化してしまいます。

言うまでもなく、情報通信革命によって情報はあっという間に共有化され、価格の平準化がはじまるからです。これから数年であれば、ビジネスに携わる人々はビッグデータを過信しても構わないかもしれません。


しかし、5年後、10年後のことを考えると、決してビッグデータに過度に頼ることなく、いまのうちから将来の動向を洞察する力を磨いていくことのほうがずっと大事なことのように思えてならないのです。




中原  圭介  (なかはら  けいすけ)
アセットベストパートナーズ㈱  経営アドバイザー・経済アナリスト
総合科学研究機構  特任研究員。著者大学  教授
企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。
アセットベストパートナーズのURL http://www.a-bp.co.jp/

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。

関連アイテム