【次世代のモビリティを実現する】ユーザー発想とモノづくり革新

会津泉氏からのメッセージ

本荘 会津さんの最近の活動について教えてください。


会津 最近は「ネクストモビリティ」の推進に力を入れ、ネクストモビリティ・コミュニティの世話人をやっています。いま、超小型モビリティ、電気自動車、シニアカーをはじめ、各種の「小さい交通」を中心に、自動運転やドローン、ビッグデータ、IoTなど、デジタル技術を駆使した次世代の多様なモビリティ=ネクストモビリティの息吹がみられます。少しでも早くそれを実現することをめざす人々がゆるやかにつながる場、それが「ネクストモビリティ・コミュニティ」です。これは2015年に「つくろうネクストモビリティ」をテーマに大分で開かれた「別府湾会議」を契機に構想しました。
 それから「ネクストモビリティ・バザール」というイベントを、“小さい交通で始めるマチづくり”を掲げて軽井沢で2016年9月3・4日に、黒部21世紀まちづくり博の併設イベントとして黒部市で2017年8月19・20日に、開催しました。
 今年はさらにバージョンアップした「ネクストモビリティ Expo 2018 in Kyoto」(詳細はこちら>>https://expo.smartcity.kyoto/)を、10月4・5日にけいはんなで開かれる「京都スマートシティエキスポ」と同時に実施しますので、楽しみにして下さい。


小さい交通


本荘 小さい交通が気になったきっかけは何でしょうか。


会津 偶然聞いたラジオ番組で、「北陸新幹線が開業した軽井沢と金沢の駅前に、足の悪いお年寄りでもお孫さんとお散歩できるようにと、電動カートのレンタル店を出したがなかなかお客様が来なかった」というお話を聞きました。とても気になって、そのレンタル店のオーナー、内山久美子さんに会いに行きました。内山さんは膝が痛くて歩くのが大変なのに、市販のハンドル型電動車椅子があまりにも高額で、重くて使いづらいと憤慨して、65 歳で自力開発に取りかかり、自分で小さい交通、つまり一人用の電動カート「ぱるぱる」を作り、販売したのです。
 その内山さんから、大野秀敏さん(建築家、東京大学名誉教授)らが書いた『<小さい交通>が都市を変える』(NTT出版)という、たいへん面白い本を紹介して頂きました。これまでの世界の都市計画は高速道路や新幹線、航空網など、すべて大きな交通が中心だったが、それで本当に社会のニーズを満たしているのか、と鋭く問いかけた本です。少子化=人口減が進む地方は縮小の一方。大都市を含む高齢化社会では、歩行が困難な高齢者が人口の3割にも及び、もはや「マイノリティ」とはいえなくなってくる。ところが、都市計画の専門家は、歩くか車か鉄道かといった従来の交通手段しか考えてきませんでした。
 その間を埋める「小さい交通」のニーズがあるのではないのかと仮説を立てて調べてみたら、実際にそうした「小さい乗り物」の事例が、日本だけでも数多く集まり、それを本にしたものです。



ネクストモビリティの実験的イベント


会津 この頃から、モビリティは社会の基本機能を担うものなのに、既存のテクノロジーやマーケティングではこうした日本の近未来社会の課題解決に役立たない、どうにかならないかという問題意識が高まってきました。
 ちょうど軽井沢町でG7交通大臣会合が開かれると聞いて、サイドイベントを提案し、大野さんや東京、九州の志を共にする仲間たちと、「ネクストモビリティ・バザール2016」を開催することができました。行政には「お金は要りません、基本は手作りです」と言って、実際ボトムアップで行いました。総予算わずか50万円、“未来をつくるちいさなのりもの大集合”と銘打って、自由にやらせてもらいました。動く車は動かして見せないとダメだと思い、その乗り物の試乗会とパレードなどを行いました。
 翌2017年は大野先生らにご尽力頂き、300万円の予算を頂いて「ネクストモビリティ・バザール2016 in くろべ」を富山県黒部市で実施できました。13社・団体による乗り物の展示、試乗、パレードと討論会、ワークショップを行いました。



先行するパリのイベントと連携


本荘 草の根のイベントとしては素晴らしい成果ですね。今後はどうされるのでしょうか。


会津 さすがにボランティアでは限界があります。今年は、イベント会社のナノオプト・メディアに運営をお願いし、「ネクストモビリティExpo」を、けいはんなで開かれる「京都スマートシティエキスポ2018」と同時開催できることになりました。もう一つ同時開催されるAutonomy Japanというイベントは5年ほど前に、南アフリカ出身の起業家が「世界のモビリティの新しい中心はパリになる」と想定し、実現したものです。
 第2回の昨年は220社が出展、うち80社がスタートアップ、30ヵ国が参加するカオス的なイベントでした。パリ市は電気自動車を積極的に推進し、2030年にはガソリン車を市内乗り入れ禁止すると市長が発表しました。
 今の車は地球温暖化が進む中ではもちません。大手メーカーが作る車だけでは、従来のマインドセットの中ですよね。
 実は2015年に、パリで「未来のものづくりとモビリティ」をテーマに、ワークショップを開いたのです。「車づくりのバリューチェーンがどう変わるか」という点を中心に議論し、ルノーの生産ラインの責任者がオープンソース系の若者と一緒になって、「これからの車づくりは、オープンソース型に変わるのではないか」という大胆な仮説を打ち出しました。
 最近のフランスのイノベーションの盛り上がりは凄いですね。ネットビジネスで成功した個人起業家が2.5億ユーロ(約330億円)をつぎ込んで広い駅舎を一つ買い、3000人が入るベンチャー支援のコワーキングスペース「Station F」を作ったのはその一例です。スタートアップが活況です。


今年は京都で本格的なイベントを


本荘 今年のイベントはどういう思想や切り口をお考えででしょうか。


会津 ネクストモビリティを支えるコンセプトは、「バラバラなハードから繋がるシステムへ」です。人間を中心に置いて、手段としての様々なモビリティ同士がたがいにつながらないとダメです。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)やライドシェアがひろく普及するためには、モビリティの何と何がどうつながるかが問われると思います。
 スマートシティは、元々エコを中心に始まったもので、スマートグリッドなど環境エネルギー分野に関心が集まりましたが、最近ではIoT、ビッグデータ、AIなどデジタル系のイノベーションの重要性が高まり、その流れでデジタルとフィジカルの両面から、モビリティが注目されています。
 日本の産業の3割は自動車関連といえます。最近の朝日新聞に、京大発ベンチャーのEV(電気自動車)を紹介する記事がありましたし、村田製作所やロームなど、京都の主要企業でもモビリティ関連の売上がかなり増えつつあると聞きます。昨年、バルセロナでスマートシティエキスポが開かれ、そこに出展した京都府の山下晃正副知事とも現地でお会いし、協力・連携できないかとの話になりました。「ネクストモビリティ Expo 2018」には、実際に新しい発想のクルマやサービスを集めて、皆様に乗って体験してもらいます。
 今年は大切なトライアルになります。どうぞイベントにいらして下さい。



新しいモノづくり革命


本荘 転機になるような出会いやきっかけについて教えて下さい。


会津 2012年9月に公文俊平さん(多摩大学情報社会学研究所所長、情報社会学会会長)から、「インターネットの次はデジタルファブリケーションだよ」と、田中浩也さん(慶應義塾大学環境情報学部教授、新しいものづくりの世界的ネットワークであるファブラボの日本における発起人)が書いた本『FabLife』が送られてきました。
 その数か月後、公文さんと一緒に、慶應SFC(藤沢)にある田中さんの研究室を訪問しました。公文さんは田中さんに、「この本は、<メーカーズ革命>を説いたクリス・アンダーソンなどよりも、人々の生活とファブリケーションとを内在的に書いていて一番本質をついている」とおっしゃっていました。二人は40年の歳の差ですが、お互いに尊敬しあっていました。公文さんの情報社会論によれば、産業革命は終わったわけではなく、第三次産業革命がデジタル革命を内包し、新しいモノづくりを展開するようになるのは必然だというのです。



個人が欲しいものをつくる時代


会津 私の友人に倉本義介さんという凄い人がいます。交通事故で歩行困難になったのですが、2009年にハワイで出会った電動スクーターの便利さに感動したのですが、当時は車に自分一人で積み降ろしできる電動スクーターは日本では販売されていなかったため、台湾製のスクーターをネットオークションで安価に手に入れて使っていました。
 その倉本さんに田中さんが書いた『FabLife』を紹介したところ、とても感動し、2014年にバルセロナで開催された世界FabLab会議での”Fab City Car”の写真を見た彼は、自分で電動スクーターを作れると確信し、翌年にはハンドル形電動車椅子「ファブ・スクーター」を独力で設計・製作してしまいました。台湾の首相にも紹介されました。自分で3Dプリンターを駆使して作ったモノを、毎日実際に使って乗っている、そんな人は日本のメーカーには誰もいません。
 インターネットが普及する前、「一部のマニアしか使わない高速の通信は、一般には絶対に普及しない」とよく言われました。そのとき自動車業界にとって、先端技術を競うF1は、きわめて重要な役割を果たしています。日本の産業・輸出を支えたカメラやオーディオも、マニアの人たちを対象に開発された先端技術が、いずれ一般の人向けに拡大して普及してイノベーショの原動力である技術開発をマニア向けだと軽視して、既存のビジネスを守るだけでは会社の未来はありえません。
 上手く行くか分からないことをやってみるのがイノベーションです。リスクの無いイノベーションなんて。何もしなければ必ず遅れをとります。



危機と転換の自動車社会


本荘 市場の変化と既存企業の課題についてはいかがでしょう。


会津 日本では1960年代の高速道路から営々と築き上げられてきた自動車社会のメンタリティーが、今崩れてかけています。桃田健史氏が『100歳まで車を運転する』という本を書かれています。かつては生活が豊かになることが社会の価値観の中心でした。日本の自動車産業は、オイルショックを契機に燃費の良い小型車で世界市場で売れるようになり、80年代には高付加価値路線へと切り替えてさらに成功してきました。それを支えた団塊の世代のクルマに対する憧れ、メンタリティは限界を迎え、若い世代には通じません。所有からシェア。若者には車に対するポジティブなイメージはあまりありません。
 桃田さんによると、「日本のクルマの購入者の平均年齢は、ほぼ60歳」だそうです。高級車だと60代後半だそうです。ところが、メーカーの開発現場では、ユーザーには40~50代を想定し、高齢者はまったく参加していないというのです。ここにギャップが生じます。自動車会社の首脳は、問題は理解しているがどうしたらいいのかが分からないようです。膨大なバリューチェーンが存在し、企業としては、関連会社・産業も含む何十万人ものステークホルダーが生活できるシステムを劇的に変えることは、怖くてとてもできないといわれます。
 どんなクルマができ?どう変わるか?と問われると悩みます。だから、それを議論したり、実証実験しようと取り組んでいます。



ネクストモビリティが目指すもの


本荘 ネクストモビリティは何を重視していますか。


会津 ネクストモビリティは、私たちを取り巻く様々な社会的課題を踏まえて、人間中心で、環境に優しく、子どもからシニアまでがひろく享受できる多様な交通手段・システムの全体を考えています。
 では、どこに切実なニーズがあり、それに誰が応えているのか? アマゾンなどによってドローンで商品が運ばれても、家にずっといるだけではコミュニケーションは生まれません。利便性だけでは世の中は回りません。例えば、楽しく孫と散歩したい、それが切実なニーズだという人がいます。お孫さんは喜んで電動カートに乗ります。「スローフード」と同じように、「スローシティ」があっていいですよね。時速20キロ以下で移動すれば、死亡事故はほとんど起きないと言われます。
 1980年代のニューメディアブームの頃、ある調査で、一般の人に「あなたは暇な時に何をしますか」という設問に対して、トップは何だったと思いますか? 答えは「テレビを見る」ではなく、「電話する」でした。「家族や友人との暇つぶしのおしゃべり」。用事はなくても長電話。これが人間の生活、価値観の本質でしょう。
 マルチメディアやニューメディアと言っていた人達は、暇を満たすサービスを作ろうとせず、株価情報など、実用的効能がある情報を商品化しようとしたけど、実は売れなかった。
 インターネットも同様です。近代化が進んで家事に時間がかからなくなったとき、問題になるのは暇と寂しさです。だからコミュニケーションが大切なんです。
 このように、提供者論理でなくユーザーが求めていることを理解しないと、ニーズを満たさない、意味のないものを作ってしまいます。それでは売れないでしょう。



重要だが弱い都市計画


本荘 ネクストモビリティ実現のために何が必要ですか。


会津 大野先生に「都市計画が専門ではない建築の先生が何故小さい交通に着目したのか」とお聞きしたところ、「建築家はとても恵まれた仕事で、個人の名前が作品として残る。良い街とは、都市計画によってトップダウンでできるものではなく、個々の家を建てる個々の施主と建築家が、局所に最適のものを考え、ボトムアップで造っていったものが横につながり、結果として良い街になるものです。ネットワークのネットワークであるインターネットも、そうやって作ったものでしょ」と仰いました。モビリティも、付加価値の全部をメーカーが作るのではなく、ある部分はユーザーが参加し、サービスの一部はユーザーがデザインした方ほうが良いものになると思います。
 想像力が足りなくなっているように思います。未来の社会をつくるには既存勢力だけでは限界がありますので、デジタル屋さんがもう少し活躍するといいですね。



ネックとなる法と規制


本荘 新しいことを受け入れる社会にならないと、せっかくの技術革新も活かされませんよね。


会津 交通の革新には法規制の問題があります。国は超小型モビリティの基準を定めていないため、現状では自治体ごとに認定されないと走れません。これは大変です。そもそも個別の自治体にあたっても壁はとても厚い。
 京都に研究所があるテムザックが、一人乗りのロボット車両を開発して、時速5キロの無人実験を公道でおこないたいと求めていますが、それで万一事故が起きた時に誰が責任を取るのかがどうしても問題になります。
 大分に姫島という人口2000人足らずの島があります。公共交通機関は何もないので、「エコツーリズム普及推進協議会」というNPOが、ルノー=日産の二人乗り電気自動車を導入しています。行政の認可をとらないと、走れなかったのです。
 モビリティは、既存の権利関係ががんじがらめで、単にハードウェアの問題ではなく、複雑です。自動運転の法的課題に詳しい法律学者が必要なのですが、いまのところは、「法律の専門家で自動運転に詳しい人、きちんと研究している人は殆どいない。むしろ警察の方が詳しい」とも言われています。
 政府も自動運転の実験をする為に早く法律を作りたいようですが、実際にはまだそんな段階のようです。社会的、制度的な取り組みも同時に進めないと、技術の進歩だけで先に進むわけではありません。


欧州など動く海外、日本も進め


本荘 海外ではどのような動きがありますか。


会津 パリ市は2030年をターゲットに、新しい交通網の展開を計画しています。パリの東駅には、フランス国鉄とエアバスとパリ市とAutonomy社の4者が共同して、「モビリティーラボ」が設置されています。例えば、エアバスが開発中の「空飛ぶクルマ」は、空港から市内のどこに降ろすのが最適か、駅はどうかと、フランス国鉄は都市の駅機能を見直したいと言っています。
 ノルウエーのオスロでは、タクシーを含む市内交通サービスを、乗り放題定額制にしようとしています。こうしたMaaS は、ヨーロッパでは自治体
先行で行われるでしょう。
 ヨーロッパは既存の都市が再投資してリノベーションしていく戦略です。それにより新しい産業とお金を呼び起こし、新たな都市とモビリティを実現しようという都市同士が横につながって知見を共有し、さらに移民、人口減少含め社会政策を議論しています。
 日本ではこういう動きはなかなか聞こえてきません。世界中で知恵のコンクールをしている中、日本がこのまま何もしなくて良いはずがありません。だからいま小さな活動を起こしているのです。大事に育てて大きくしていくために。




会津  泉  (あいず  いずみ)
多摩大学情報社会学研究所主任研究員・教授
(公財)ハイパーネットワーク社会研究所 研究員
ネクストモビリティ・コミュニティ 世話人
1952年仙台生まれ。利用者中心のネット社会の発展をめざし、80年代はパソコン通信、90年代はインターネットの普及を推進。97年よりマレーシアでアジア・途上国でのネットの普及、グローバルな政策課題の研究・実践に取り組む。2000年東京に戻り、デジタルデバイド、インターネットガバナンスなどのグローバルな政策議論に市民社会メンバーとして参加。
2011年東日本大震災後、「情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)」設立に加わり、ICT活用による災害支援、調査に従事。2012年よりデジタル工作機器を活用する「ソーシャル・ファブ」の研究・実践に取組み、最近は「ネクストモビリティ」の推進に注力している。
著書:『パソコンネットワーク革命』、『進化するネットワーク』、『アジアからのネット革命』、『インターネットガバナンス』、『3.11被災地の証言』(共著)、『熊本地震 情報通信の被害・復旧・活用状況』、訳書『スカリー』ほか。

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