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ダブルO(大坂なおみと大谷翔平)に見る これからの日本と世界

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年1月号『スポーツ2019 2020』に記載された内容です。)


昨年の日本というか世界のスポーツ史に残るビッグニュースと言えば、日本勢で初めて4大大会シングルス制覇を成し遂げた大坂なおみ選手のテニスの全米オープンでの優勝と本格的な投打「二刀流」選手として、打率2割8分5厘、22本塁打、10盗塁、投手としては2度の右ひじの故障があったものの、10試合で4勝2敗の成績を残した大谷翔平選手(エンゼルス)のア・リーグ新人賞の獲得だろう。

共に、文字通り世界を相手に活躍している日本人(大坂はハーフではあるが日本人的な言動でついつい日本人として贔屓になってしまう)の姿に日本中が胸のすく思いで喝さいを送った。


この2018年を飾ったお二人の活躍は、単にスポーツ界だけの成功事例ではなく、これからの日本が世界と折り合いをつけてやっていく方法を気付かせてもくれる。


いまや技術立国でもなくなりつつある日本の良さをいかに世界にアピールして認めてもらい、さらには好きになってもらえるか、SNS社会における日本の次の一手をお二人の活躍と共に振り返ってみたい。


まず、大谷選手の二刀流での活躍は、あのベーブルース以来というから本当に世界が驚いたビッグチャレンジだ。しかも、それで結果を出したわけだからみんなが彼の二刀流を称えると共に受入れ、熱狂した。


そこにあるこれからの日本が求められるヒントは、既存の考えにとらわれない発想の重要性だ。これまでの成功事例や業界の常識を乗り越えてこそ新しいイノベーションが起こるというビジネススクールのイロハのイ、当たり前のことではあるが、これを今の我が日本は果たして本当に持てているだろうか。


特にPCが普及し皆が統計データをありがたがって最適化に驀進している昨今、すでに起きた過去データの分析結果であるという最適化の罠にかかって、あっさり他の選択肢や可能性を切り捨てる風潮、そんな病気にかかっていないか。


技術のコモディティ化が超速スピードで進む現代で次を読むにはアートの視点が重要と言われているが、統計データを深く読み取る文化の深さを貴んでいるか。当初無謀と言われた大谷選手の二刀流の活躍には、我々が超えていかなければならない保守の壁を破る意思を見る。


もう一人のOである大坂選手。全米オープン優勝でメディアでも大きくクローズアップされた事にコーチの存在があった。ネガティブな感情に支配される傾向の強かった彼女を勇気づけ励ましネガティブを抑え込んだサーシャ・ベイジンコーチのコーチング手法は、減点志向の日本の教育の悪い面がイノベーションにブレーキをかけている現実との違いを感じざるを得ない。


特に2018年にスポーツ界で噴出した不祥事に見られる官僚的で理不尽な上意下達のピラミッド社会の弊害を考えると暗澹たる思いにならざるを得ない。それは今だ残念ながら日本の多くのところで散見される。特に地方はひどい。なので地方に人が育たない。地方創生が成らないのはその為と言っても過言ではない。


そんな上から押さえつけるような風通しの悪さが周りに無いか?もはや昔ながらの根性教育では育たない若者をいまさら圧迫状況に追いやり鍛えようとすることには無理がある。


百歩譲ってそれをやるのがありだとしても、やるなら幼い時からそのような環境で育てなければいまさらもう無理である。人をつぶすだけだ。大坂選手の結果の出し方は、今の日本の若者が躍動する可能性の引き出し方に大きなヒントを示す。


さらに、大坂選手のその愛されキャラの事にも触れたい。彼女の屈託のない拙い日本語でのインタビューの受け答えは、彼女の成績以上に世間にインパクトを与え、彼女の好感度は鰻登りになった。CMでも引っ張りだこだ。愛されている愛されキャラなのだ。


世はSNS時代。SNSで共感され、さらに愛されることで商品やサービスがヒットする時代だ。そんな時代で企業が生き残るためにはその商品やサービスが世の中に愛されることが必須となる。三方よしの世間よしの比重がより大きくなっている。大坂選手の愛され方は、SNS時代のマーケティングの教科書だ。SNS運用のお手本ともなる。


このように、2018年に大坂選手と大谷選手のダブルOが発したメッセージは、これからの日本の企業や日本社会が乗り越えていくべき目標を明確に示してくれた。2019年も彼らの活躍を期待して、またそれにあやかって、元気よく行こう!日本。




吉田 就彦(よしだ なりひこ) デジタルハリウッド大学大学院 教授
デジタルハリウッド大学大学院教授。㈱ヒットコンテンツ研究所代表取締役社長。自ら「チェッカーズ」「だんご3兄弟」などのヒット作りに関わり、ネットベンチャー経営者を経て現職。「ヒット学」を提唱しヒットの研究を行っている。木の文化がこれからの日本の再生には必要との観点から、「一般社団法人木暮人倶楽部」の理事長にも就任。現在は、ASEAN各国にHeroを誕生させる「ワールドミライガープロジェクト」に没頭中。著書に「ヒット学~コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則」、共著で「大ヒットの方程式~ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する」などがある。

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