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時間効率意識の高まりを捉える ~Stash創業者 Nicholas Lin氏の例~

時間効率を求める意識が、新しいサービスを生む。

今年スタートアップした企業は、ミレニアル世代向けのフードコートで、注文から受け取りにかかる時間効率に着目したビジネスモデル。現状のデジタル決済のクリック数すら、東南アジアミレニアル世代には、多すぎて非効率だという。また注文のために並ぶ時間も無駄。数クリックで注文から決済、受取まで可能にするビジネスの創業者、Nicholas Lin氏に話を聞いた。


決済手段はキャッシュレスを超えて、より少ないクリック競争へ。


松風 Stashについて教えてください。何故この会社を創業したのですか。

Lin Stashは、2018年にビジネスパートナーのAlan Johanと私とで始めた会社で、小売、飲食店、その他の実店舗での購入を行う際、ユーザーが自分のスマートフォンで、直接注文・支払い・商品を受取れる“カスタマーエクスペリエンスプラットフォーム”です。いわゆるITスタートアップの一つと言えるのでしょうが、機能としては、注文から支払いまでのトランザクション以外に、AIと機械学習を統合させ、顧客の購入後の行動に働きかけるという特徴を持っています。例えば、ロイヤルティ等のイニシアチブやオーダーメイドの特別ディールをオファーする、こういったインセンティブを通じたCRMを行うことが可能です。
 Stashは、あらゆるブリック&モルタル事業が直面する問題を解決するために設立されました。 元々私たちは、購入プロセスのすべての段階にわたるカスタマージャーニーは非効率的で、時間がかかり過ぎていると感じていました。一方、企業サイドから見た場合にも、購買行動そのものを、マーケティング資産として活用できる強力なデータセットに変換するための入力機能に欠けている。ここに改革の、つまり新しいビジネスの余地があると考えてきました。
 実はStashを始めるきっかけの一つは、私のレストラン経営者としての経験でした。私は元々経営戦略コンサルタントとして、ニューヨークでキャリアをスタートしました。その仕事を辞め、2010年にアジアに戻った後、シンガポールでPlatypusという小さなレストラングループを始めました。このレストラン事業は9年後には、シンガポールに24のアウトレットを展開するまでになり、今でも安定的に拡大し続けています。
 アウトレットの数が多かったので、会計時の手続き、例えばキャッシャーでの処理や、支払い手続きなどを合理化することは、ビジネスオペレーション上も非常に意味のある事だと考えました。
 しかし、市場を見ると数え切れないほどのスタートアップから、個別に独立したQRコード支払いシステムが市場に紹介されていました。実はこれらを導入することで逆に非効率なオペレーションを余儀なくされることもあります。例えば、キャッシャーでのエラー取引、複数のステップが生み出す、処理の低速化、そして個別独立のシステム導入がもたらす、全体的な効率低下などです。
 そこで、ビッグデータを活用してすべての注文および支払いシステムを統合することはできないか、と考え、Stashの開発に注力することにしました。
 Stashは、注文処理と支払い処理時の効率を飛躍的に向上させ、フラストレーションを軽減するもので、それはいわゆる“必要性”から生まれた、最適システム創造と言えます。ただ、同時に飲食業界から始まり、テクノロジーとコンサルティング分野でキャリアを積んできた、私の個人的な経験をどう昇華させるか、という意味で自身が成し遂げたい目標でもあるのです。

松風 Stashはシンガポールに拠点を置いていますが、インドネシアなどシンガポールの内外両方でビジネスを拡大したいと仰っていましたね。シンガポールや近隣諸国のビジネスパートナーとのコラボレーションやエンゲージメントの仕方について教えてください。

Lin Stashをスケールアップさせるために、大規模な加盟店へのアクセスが出来る戦略的パートナーを、国内外問わず探しています。現在、アセアンで従来型の顧客ロイヤルティプログラムから、我々の顧客プログラムに置き換える可能性がある企業を探索するために、メディアと協力しています。その意味では発展度が低い国ほど可能性が大きいのですが、ITプラットフォームの整備状況にも左右されるので難しいところですね。ただシンガポールだけでは頭打ちになりますので、次のマーケットを狙うことは、必須といえるでしょう。私たちはスタートアップですから、大企業のようにコーポレートのネットワークを使って、というやり方は向いていません。その代わり、私たち世代のスタートアップは各国で活躍しており、こういった人脈をたどってビジネス拡大する機会がどんどん増えているように感じます。


時間効率を最大化したい

松風 以前Stashのアプリを私に紹介してくれた時、「取引の単純さ」と「待ち時間を最小にする」ことが、装備したいいくつかの機能ですと仰いました。何故それらがアプリやビジネスモデルに欠かせないものだと思うのですか。

Lin 現在のシンガポールでニューウエーブと言われている決済システムは、“複数ステップ”を踏んで初めて決済できるQRコードシステムです。 しかしそれでは店舗内の人員効率を上げることは出来ません。
 Stashは、完全なる“キャッシャーレス”プラットフォームを目指しています。つまり、キャッシャーそのものと、待ち行列のコントロールを同時に排除する、というコンセプトで、これにより店舗運営側は、お金を取り扱うための、あるいは待っている人たちをケアするための時間や人、コストをかけずに本来の仕事に集中できるのです。
 人件費がどんどん上がり、一方地元の労働力の欠如という問題を抱えるシンガポールの現状を見ると、まだまだキャッシュレス社会への移行は不十分と言えるでしょう。ですから、レジ係のような技術的に代替可能な仕事を他に代替する、という方向は避けられないと思います。Stashは、技術とAIを使って、キャッシャーレスという概念を市場に導入しようとしているのです。

松風 Nicholasさんは、現在のStashのビジネスモデルは、どの程度持続すると考えていますか。フレキシブルに変化させていくことも可能なのでしょうか。

Lin 私たちは、Stashのコンセプトを考え付いた後、変化する環境に適応するためにビジネスモデルを何度も変更しました。 実際、戦略を変更する前に、競合他社の方向性を評価するために、プラットフォームを数か月間休止状態にしたままにすることもありました。再び前進する前に、ビジネスモデルを洗練するために数歩後退することは、まったく問題ないと考えています。


シンガポールミレニアルはハングリーさに欠ける

松風 起業家の観点から、ビジネスを始めるにあたってASEANの環境をどのように見ますか。

Lin ASEANは起業家にとって非常にダイナミックな環境です。 地理上の各国間アクセシビリティも良いですし、各国政府がスタートアップを応援するプログラムに熱心に取り組んでいます。素晴らしい機会にあふれている地域と思っています。
 米国で2000年代にソーシャルメディアWebサイトが急速に注目を集めてきたのは、ユーザー数の急拡大によるものでした。同様に、私たちもユーザー数というゲーム版の上に載っているビジネスと考えています。このような観点から見ると、高度な技術に親和性の高い人口が急速に増加しており、今後数年は続くと期待できるアセアンの魅力は、とても高いものです。

松風 シンガポールのミレニアル世代は、働き方、消費習慣、キャリアビジョンをどのように変えていると思いますか。

Lin 個人的には、シンガポールのミレニアル世代は一般に自由を当然のものと考えているように見えます。シンガポールで働き快適な生活を送るのは簡単かもしれませんが、同時にシンガポールのような競争の激しい市場で成功することは困難です。さらに、働き方、ハングリー精神の欠如、便利過ぎることによる、広い意味での意欲の欠如により、シンガポールのミレニアル世代の大部分は、同様のスキルセットを持ち、同様の教育を受けているアセアン他国のミレニアルよりも競争力が低くなっているのではないでしょうか。

松風 それは新鮮な意見ですね。では.ベトナム、シンガポール、マレーシア、その他の国々でミレニアル世代に違い、あるいは共通点はありますか。

Lin シンガポール以外のミレニアル世代は、一般的にシンガポール人よりも生活、仕事、その他環境面でも危機感を高く持っていて、その分進歩的です。彼らは、各プロジェクトに対して、より大きな切迫感と「必要なことは何でもする」というハングリー精神を持っています。おそらく、シンガポールのミレニアル世代は、ワークライフバランスを完成させることに集中し過ぎています。他国と比較して、安定を求めるという傾向なのかもしれません。

松風 今後のStashの発展、展望について教えてください。

Lin Stashをより商業的なショッピングモールや商店街に出す前に、まずシンガポールの大学内のカフェ、レストランでエコシステムを拡大し、他の教育機関にも垂直に拡大することを目指しています。
 既にユーザー側には十分に行きわたっているスマートフォンは、今以上の特別な技術革新を導入する必要はなく、十分かつさらに高い処理能力を持っていると強く感じています。ただ我々が、潜在的にスマートフォンが持っている処理能力や可能性を使っていないだけだと思うのです。
 Stashは、スマートフォンというデバイスを活用しつつ、キャッシャーシステム、POS、ロイヤルティシステム、および会計待ち行列管理、これら全てに代わるものとなるでしょう。

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