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「みんなでお店」が、外食のフレームを変える

キッチハイクとは何か

キッチハイクは、食の好みが合う人同士をアプリでつなぎ、他人との食事を可能にするサービスだ。2013年に山本雅也・藤崎祥見の2人が立ち上げ、今では毎月2,000人以上がキッチハイクを使って食事をしている。今回は、我々がサービス運営を通して目にしている、都市生活者における外食ニーズについて紹介したい。


1人でも手軽に食事を済ませられるこの時代に、キッチハイクが「人との食事」にこだわるのは、食事の持つ「人がつながる力」を信じているからだ。初対面の人と、食事をきっかけに近しくなった経験は誰しもあるのではないだろうか。


料理を取り分ける、味覚を共にするといった行為は、必然的に体験の共有をもたらすからだ。とある文化人類学者によると、地球上の民族で共食しない共同体はないらしい。人はどうやら太古から、食事をハブにしてつながりを作ってきたようだ。    


つながると言っても、距離感は大事だ。キッチハイクでは、職場や友人など、ふだんの人間関係とは離れたところで出会うから、ほどよい距離感と匿名性があり、フラットな関係でその場を楽しむことができる。


ビアパブやスナックの雰囲気に近いかもしれない。「食事」というありふれた行為に、決まりきった日常から脱するスパイスを加えることで、日常をより豊かにしよう、というのがコンセプトなのだ。


キッチハイクが支持される理由
例えば、週に1度はキッチハイクを利用する、会社員のAさん(30代、女性)。職場の同僚からキッチハイクの存在を知った。友人は多いが、結婚や育児で時間の融通が利かない同世代が増え、食事に誘いづらくなった。


初めは「知らない人と食事なんて」と半信半疑だったが、同じものを食べたくて集まった人同士、料理が出るたび「おいしい!」と思い切り盛り上がる時間が心地よく、最近ではすっかり休日の趣味だという。20代から50代まで、幅広い層の人と出会えるのも魅力だ。参加者同士でおすすめの食事会の情報交換をし、面白そうなものにはつい予約してしまう。


キッチハイクが支持される社会背景には、昨今浮上している「孤食」の問題がある。最近、ファミリーマートが子ども食堂を全国展開する、というニュースが話題になった。子ども食堂はここ2年で7倍近くに増加したといい、子どもの孤食を減らす取り組みは急速に広がっているが、人と一緒に食べたいのは大人も同じだ。


農林水産省が20歳以上の3,000人を対象に調査した最新の「食育白書」(2018)によると、週に半分、誰とも食事を摂らない「孤食」の人が15.3%となり、2011年から5ポイント増加したそうだ。「時間や場所が合わないため仕方ない」(35.5%)、「一緒に食べる人がいない」(31.1%)などが理由で、好んで孤食をしているわけでは決してない。


キッチハイクは、みんなで食べる食事を「みん食」と名付け、そのための仕組みを提供し続けている。欧米や中国でも「ソーシャルダイニング」と形容されるサービスがすでに複数広がっており、世界的な動きともいえる。


外食シーンを「みん食」化する
元々は「料理をふるまう人(COOK)」と「食べる人」のマッチングで始まったキッチハイクだが、昨年スタートしたのが、飲食店で食事を楽しむ「みんなでお店」というサービスだ。


これまではCOOKの自宅やレンタルキッチンといったクローズドな場所に限られていたキッチハイクの食事会が、飲食店というパブリックな空間にまで広がった。これにより、あらゆる食事のシーンで「みん食」が可能になる。


「みんなでお店」の仕組みは、キッチハイクのアプリに掲載された飲食店の中から、同じ日時に食べに行きたい人をつのるというもの。参加者は企画料として500円を事前にキッチハイクに支払うが、当日の注文や会計は、普段の飲食店利用と同じだ。


「食の好みが合う人と出会える」「お店の幅が広がる」「スケジュール調整しなくてOK」といった点が支持され、都内を中心に300店近くで食事会が開かれてきた。


誰かと外食するには、当然ながら調整が必要になる。いつ?どこで?何を?予算は?それをせず一人で外食しようとするなら、今度は入れるお店に制限が出てしまう。ラーメン、カフェはOK、一人焼肉なら何とか、鍋はちょっと…などなど。

しかし、これに不満を覚える人が実は多い、というのが「みんなでお店」の広がりが示す事実だ。羊肉やパクチーなど好みの分かれる料理や、一人では行きづらいコース料理でも、これなら気兼ねなく楽しめる。何の調整もなく、自分の思うまま、外食を堪能できる。


同じものを食べたい人で集まると、共通の話題で盛り上がりやすいのも特色だ。食の趣味が近いから、美味しいお店の情報交換にも事欠かない。


「知らない人同士」という、ともするとストレスを感じそうなシチュエーションが楽しくなるのは、食の趣味という共通点が約束されているからだ。ゆるくつながりを感じられる参加者との食事は、不思議と初対面でもなごやかに進む。


飲食店とお客の新しい関係性
さらに新しい試みとして始めたのが、「おまかせ」でお店が予約されるオプション機能だ。自分の食の好みを登録すると、キッチハイクのデータベースを元に、おすすめのお店が自分のスケジュールに合わせて予約される。


膨大な数の飲食店から、自分に合うお店を見つけるのは大変だ。やっと出会えたと思っても、自分で選ぶかぎり自分の枠から出ることは難しい。検索の一歩先にあるお店との出会いは、外食体験に冒険心をもたらしてくれる。


ちなみに「みんなでお店」では毎回3~6人でお店を予約しているが、一般的な飲食店予約サイトと異なり飲食店への課金は行なっていない。キッチハイクの企画料は、お店からではなく参加者から支払われるビジネスモデルであるためだ。


キッチハイクの目指す「食で人がつながる世界」を実現するには、外食業界全体との協働が欠かせないため、飲食店にとっても魅力あるサービスづくりを目指している。


外食に新次元の「ワクワク」をもたらす
日本の飲食店は、世界的にもレベルが高いことで知られている。こと東京においては、世界中のグルメが現地に引けを取らない味で楽しめ、世界一の美食都市と言われることも少なくない。


美味しさは付加価値というより前提条件であり、消費者はもはや美味しさだけでは感動できない。消費者のワクワクを少しでも掻き立てようと、目新しいトレンドグルメや、インスタ映えするお店が次々登場するが、ブームの移り替わりは早く、消費者の関心は長続きしない。


「何を食べるか」の追求が極限まで進んだ現在の外食シーンは、かつて人々が描いた豊かさを確かに叶えているはずなのに、我々の心を満たすものではなかった。「モノ消費からコト消費へ」とよく言われるように、食べるものそれ自体ではなく、「体験の価値」が求められている。


ワクワクとは想像を超えるものに出会うこと、マンネリを脱すること。「みんなでお店」は、「誰と食べるか」「どの店に行くか」という切り口に新たな出会いをもたらすことで、まったく違う次元のワクワクを作り出すフレームだ。外食というごく日常的な行為において、自分の想像を超える体験をすることができるのだ。




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話し手: 山本  雅也  (やまもと  まさや)
株式会社キッチハイク共同代表 / COO
早稲田大学商学部卒業後、博報堂DYメディアパートナーズに入社。出版社 × IT の新規事業立ち上げ&グロース、クライアントソリューション企画の提案を担当。著書『キッチハイク!突撃!世界の晩ごはん』(集英社)

書き手: 川上  真生子  (かわかみ  まきこ)
株式会社キッチハイク 事業開発
東京大学文学部卒業後、楽天に入社。ECコンサルタント、社長秘書を務めたのち、楽天レシピで念願の食関係の仕事に。2017年2月、事業開発担当としてキッチハイクに参画。

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