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スナックが今、注目される理由

企業も着目するフラットなコミュニケーション

近年、多くの企業で組織内における人間関係の希薄化が進行しているといわれている。そのためか、コミュニケーションイベントの相談をうける機会が増えてきた。


この依頼に対し、スナックのフラットな雰囲気を社内のコミュニケーションに活用した、その名も「オフィススナック」を提案し、昨年から様々な企業で実施している。


オフィススナックとは、スナックがもつ特有の場やママ・マスターのコミュニケーションスキルを活用して、社内のダイレクトで円滑なコミュニケーションの醸成を目的としたイベントである。


会社のフリースペースに簡易的なスナックを設置し、実際のスナックママを派遣して接客をお願いする。ここまでは、スナックがオフィスに移動しただけであるが、最大の特徴はその会社の社長や役員がママ・マスターとしてカウンターの中に入り、接客に参加することである。


普段は遠い存在である経営層がカウンターに立ち、自分たちをおもてなししてくれるということは、社員自身が自らの存在を再認識する機会となる。


また、恐れ多い存在であった経営層が、第三者であるスナックのママからツッコミを入れられたり、時には接客における指導を受けたりするなど、スナック特有のフラットなコミュニケーションがカンフル剤となり、話しやすい雰囲気が作り出される。


過去、オフィススナックに参加した社員からは、「今まで社長とすれ違うときには頭を下げることしかできなかったが、オフィススナックに参加してからは、気軽に声をかけることができるようになった」「一度も話したことがなかった事業長と、同じ県の出身者として話が盛り上がった。今度ランチに行く約束もできた」などの声があった。距離感が縮まった証拠である。


また経営層にとっても、この場の会話から、これまで顕在化してこなかった問題や課題、あるいは社員の本音が垣間見えたとの声もあった。双方における新たな発見は、経営層と社員の相互理解につながる。オフィススナックを定期的に開催することで、社員のエンゲージメントを向上させ、企業への帰属意識を高めることも期待される。


また、企業や団体に限らず、地域においても住民同士の交流に難しさを感じている人が少なくないであろう。単なる個人や世帯の集合エリアに、地域コミュニティを作り出すきっかけとして、スナックが活用されるシーンも増えていくかもしれない。スナックが創り出す「場」は、現代人が求めるコミュニケーションおよびコミュニティの基軸として機能する可能性がある。


サードプレイスとしての居場所
街の片隅で、長年にわたり日本のナイトライフを支えてきたスナック。そこでは、単純な飲食だけではなく、会話を求めて集まる人々に対してアットホームな空間を提供しているママ・マスターに癒やされるサラリーマンも多いだろう。


多種多様な人々が集うスナックだが、近年では女性客も増えつつある。その背景としては、女性の社会進出が影響している。リーダーやマネージャーなどの管理職ともなれば上司と部下の板挟みとなり、ストレスは多い。


家に帰れば、妻・母の顔として、家庭での役割が待っている場合もある。友人と会うにも気を使い、SNSなどの仮想空間における交流も精神的な疲労につながるだろう。だからこそ職場と家の往復だけではなく、止まり木、いわば“サードプレイス”的存在のスナックに対するニーズが高まっているのだ。


ママ、ときには常連客が、真剣に悩みや愚痴を聞き、恋愛相談にまで乗ってくれることもある。恋愛相談に力が入り過ぎ、相談者以上に涙を流すママもいる。


アドバイスに力が入り過ぎ、お客様をほったらかしにして仕方なく常連客が店の対応をする。そんな場面もよく目にした。親身になってくれる人々がいるこの場所に、愛着を感じる女性も多いだろう。


スナックにおいては、年齢や性別、肩書などへの意識は不要である。そこに集う人々は、誰にも気兼ねすることなく、居心地の良さを体感できる。


コミュニケーションが苦手な人であっても、仲人的・ハブ的存在であるママ・マスターがいるスナックでは、よいきっかけをつかみやすい。人と人とが出会い、立場を超えて交流することの楽しさは、あらゆる世代が共有できる最高の“刺激”だ。人情深さはあるがほどほどの距離感を保ち、気軽な人間関係であることもスナックの魅力である。


かつては敷居が高かったスナックだが、店内の雰囲気や料金などの情報が事前にインターネットで得られるなど、店を訪れるハードルは下がっている。


また、特定の趣味に特化したコンセプトを打ち出したり、「婚活スナック」など若者の悩みにフォーカスしたりするなど、コンテンツの多様化・細分化も進んでいる。今後、自分に合った居場所を見つける人々も増えていくことであろう。


コミュニケーションマネージャーの存在
インターネット上をはじめとした“非対面”の場におけるコミュニケーションが盛んな現代では、仲人的な存在が貴重なのであろう。


人と人とを結ぶ“ハブ”が求められ、スナックのママ・マスターは、コミュニケーションマネージャーの役割を自然にこなしていると言える。


ママ・マスターが発する言葉の端々からは、気遣いやおもてなしの精神を強く感じることができる。たとえば、「〇〇さんと〇〇さんはこのあいだ口論になっていたから、席を離しましょうね」「〇〇さんの終電は〇時だから、そろそろお会計しておきましょう」「〇〇さんあまり食べていなかったから、おにぎり持って帰ってね」などの言葉である。


もちろんそうした言葉は、必ずしも優しいものだけとは限らない。ときに、厳しい叱咤激励がなされることもある。ただ、そうした厳しさも含んでいる真摯な対応こそ、あらゆる人を受け入れる度量となっているのだ。


スナックは、訪れる人を選り好みすることなく、ママ・マスターによって心が救われる場なのである。そこで感じた心のつながりや愛情が、一見客を常連客へと変えていく。


昨今、あらためて「スナック」という文化の価値に注目する人も増えてきた理由もここにあるのだろう。食通が選んだグルメを紹介するアプリ「TERIYAKI」を手がけるなど、食に対する感度が高い実業家の堀江貴文氏も、この「スナック」に注目している人のひとりだ。事実、「FOODIT TOKYO 2017」に登壇した際には、スナックを“飲食店の究極系”と形容している。


ママ・マスターの人間力や場の雰囲気、常連客の存在など、それらすべてが単に飲食するという目的を超えた、集客につながっているのだろう。そうだからこそ、どんな時代であっても、交流の場としてのスナックの役割は消えない。事実、都心から郊外まで、どこの街にもスナックは存在している。まさにスナックは、飲食店の究極系と言えるのだ。


そんな日本の文化とも言えるスナックも、店舗数としては近年減少傾向にある。政府統計の「経済センサス 基礎調査(バー、キャバレー、ナイトクラブ(単一事業企業))」によると、2012年に約10万軒あった店舗は、2014年には約8万軒に減少。


さらに2016年には約6万5千軒と、減少傾向も激しい。その背景には、ママ・マスターの高齢化や街の再開発など、避けられない事情が隠されているが、街角の飲食店という枠を超え、さまざまな形で人々の心の交流を活性化するエネルギーを秘めているスナックの魅力は、現代でも求められており、そしてこれからも引き継がれていくに違いない。

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五十嵐  真由子  (いがらし  まゆこ)
Make.合同会社代表/PRコンサルティング/スナック愛好家
国立音楽大学卒。CM音楽制作会社、楽天を経て独立。Make.合同会社代表としてストーリーブランディングを手法としたPRコンサルティングを提案・提供している。プライベートでは、スナック愛好家女子「スナ女」として、スナック初心者に向けた「スナック入門講座」、「スナック女子向けツアー」、オフィスコミュニケーション「オフィススナック」も精力的に行う。

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