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【今あるものに付加価値を⁉】佐賀商業高校と佐賀市と企業のコラボレーション

大きな夢に志と若さが加われば、時代を駆け抜ける一筋の風となり、強固な連携を産み出す力となる。2014年、人口約24万人の佐賀市は、バイオマス資源を活用した産業振興に着手。

循環型社会実現のため、様々な施策を打ち出し、世界でも珍しいごみ処理施設でのCO₂回収から新たな産業の創出を開始した。2016年、ゴミ処理施設から二酸化炭素を分離回収する装置(以下CCU)が世界で初めて完成。2017年COP23にて、下水浄化施設の取り組みが、2018年COP24では世界最大の秘密と謳われるなど連続的に取り上げられていることはご存じだろうか。


私たち佐賀商業高校と佐賀市と企業のコラボレーションが実現した、事の発端は、通学の電車で見知らぬおじさんの新聞を見た生徒が、「先生、CO2ばネットで売れんかな?」と授業中に息を弾ませたことだった。


彼女は、佐賀県立佐賀商業高校情報処理科の授業で運営するインターネットショッピングモール「さが学美舎」の次期幹部候補。彼女が目にした記事は、まさにこのCCUが、本格稼働するというものだった。ごみ処理施設から排出される排気ガスから二酸化炭素を純度99.9%で取り出すことに成功したというのである。


モノは試しと気軽な感覚から市への取材を取り付けたが、佐賀市バイオマス産業都市推進課参事井口氏(当時)から語られたのは、二酸化炭素分離回収から派生し、ミドリムシからジェット燃料を取り出すなど、清掃工場を基軸に据えた超近代化バイオマス産業都市への壮大な夢物語であった。


キーワードは「今あるものに付加価値を」必要悪とも思えるごみや下水処理を画期的な方法で解決し、定住化を図ろうという壮大なプランだったのだ。自分たちが住んでいる何もないと思っていた佐賀が世界をリードするかもしれない。


5年から10年後に実現出来たらすごいね。と話していたが、行政の本気にほだされ、環境問題に興味がわいた生徒たちは、IPCCレポートを探り、環境白書を読む会に参加し、徐々に30年後の未来が危機的状況にあることを知っていく。知れば知るほどこのままぼーっと生きてるだけじゃだめだと思った彼らは、夏休みにアクションを起こした。


「大人に色々言っても聞いてくれないから、子供のうちに自分たちの環境のことを知らせて大人を巻き込む」作戦を練っていくことになる。子供と向き合うため、プロジェクトアドベンチャー(PA)からアイスブレークを学び、子供の興味を引くために紙芝居やクイズなど動きを伴った出張講義を展開した。

環境にも優しくいい子に育とう!という想いを込めて「e-co(いいこ)ねっと」と題したこの教室のアンケートでは「すごく勉強になった。将来は藻を研究して世界を救いたい!(原文)」という小学生もおり、励まされると同時に、自分たちからアクションを起こせばもっと色んなことができるかもしれないと気付かされたようだ。


調子に乗った彼らの意識は、徐々に子供から大人へのお知らせへとシフトしていく。街おこしのイベントや、地域のお祭り、環境フェスティバル。行政が特定業者のものを販売できないことを知った彼らは、行政とコラボした形で、「SAGA藻わたしたちのみらい」としてブースを出展。行政のできない販売活動を買って出たのだ。


講演会で知り合ったDENSO新産業事業部の渥美氏を訪ねて天草まで片道6時間を日帰りで飛び、保湿効果抜群のハンドクリーム「moina」の販売許可を取り付け、地元のフェアやショッピングモールで販売し、一カ月で30万円超を売り上げた。


ハンドマッサージはコミュニケーション能力の向上に加え、佐賀市の事業概要や何故自分たちが佐賀市を応援しているのか、地域の方と触れ合うことで認知度を高めるという副産物ももたらした。


藻類バイオマスや関連企業の紹介パネルを作り、ハンドマッサージで人々に癒しを提供しつつ二酸化炭素がもたらす佐賀市への効果などを熱く語る。あるイベントで集客に苦しんだ彼らは、密かに学校の廃材で未公認マスコットキャラクターばいおますお君の着ぐるみを作成し、バイオマス産業都市推進課へ寄贈し、行政と一緒になってPRを展開していった。


SAGA藻わたしたちのみらい=佐賀からはじまる藻類バイオマス技術が、持続可能なみらいの社会をつくる!藻が低炭素社会を実現する可能性にスポットをあて、佐賀から発信する力になると改めて決意した彼らはその後も様々な場面で研究発表を行い、PRを加速していく。


実にSDGs14項目に該当する藻類バイオマス。環境をテーマに佐賀市を応援するため、広報・販売・製品開発の中長期の計画を立て、後輩へ想いを託した。


後輩たちは、さが藻類バイオマス協議会の応援をはじめ、デザインや、バスCMを作成し、地道に広報を行う。2017年には、藻の新しい食べ方を検討、本校アスリート達に提供しつつ、体組計を確認して各自が持つスマホからデータ分析を開始した。柔道アジアチャンピオンになった生徒は、風邪もひかず、お通じも快調で回復力があがったという数値データの変化もみられた。


CCU稼働後、佐賀市で回収した二酸化炭素で育ったヘマトコッカス藻から、アスタキサンチンを抽出するアルビータ社へ、実験や新製品のアイデア出し、通販サイトデザイン案を提案するなど、研究も加速する。何故かアルビータ社から新卒求人をいただき、佐賀市が思い描いていた仕組みが、まさに自分たちの力で実現した瞬間だった。


行政がテーブルを用意し、若者が企業と同列に顔を突き合わせ、高校生の素朴な疑問が一つのうねりとなり、高校生と企業・行政が協働していく流れができつつある。明治維新では多くの近代技術や偉人を輩出した佐賀から150年の時を超え、佐賀発二酸化炭素を利活用する技術が地球を救うかもしれないと信じてきた先代学美舎の思いが今、実を結びつつある。


ロボット開発ベンチャーGROVE X CEOの林要氏はソフトバンク時代に、人型ロボットpepper(ペッパー)に携わったことで有名だが、何もしないロボット「LOVOT)」を今秋発売の予定だ。


林氏のもとには、様々な業種職種のエキスパートが「何か楽しそう」と、集まっているという。大きな事業を推進するためには、大きな夢と志が必要であり、分野は違えど、佐賀市が推進しているバイオ事業とどこか似た香りがしてならない。


私は常々「仕事は人についてくる」、「捨己従人」、「断固たる決意と情報収集、準備が整ったらあとはひたむきにどれだけ情熱と時間をかけて努力できるか」と生徒に伝えている。


人は人の熱い想いに触れたとき、共感し、突き動かされる。大人になればなるほど、事情を知れば知るほど雁字搦めになって動けなくなるのは世の常だが、高校生にはオトナな事情なんて関係ない。ただひたむきに人のため、社会のためになることをしていることが彼らの推進力の源泉なのだ。


大人が愚直ともいえるほど物語を信じ、まい進する姿は青春をも匂わせる。自然体で先を見据えているのに、目の前のことを愛と情熱をもって語る。そんな、大人が本気で考え、変えていこうという意識が伝わり、高校生たちは勝手に自分たちにできることを楽しみながら見つける。

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お互い自分たちにやれることを楽しみ、お互い頑張っている姿を励ましあい、お互いをリスペクトしているうちに、自然と産学官の連携が出来上がってしまった。最初からできることは限られているが、大人の知識と温かい眼差しと少し粘り強く付き合うことが次代を育てる早道なのかもしれない。



田原  幸男  (たばら  ゆきお)
佐賀県教育庁学校教育課
全国高総文祭推進室  企画広報担当

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