共に創る:ネット×リアルで顧客と歩む「ワークマン」

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年8月号『DX : 先行する生活者、日本企業は追いつけるのか』に記載された内容です。)

今やツイッターやインスタグラムなどのSNSは情報収集・発信、知人との交流など日常の生活になくてはならない存在です。企業はSNSにどう入り共存していけばいいのでしょうか。お客様から商品の使い方を提案され、愛される商品を生み出しお客様と好循環な株式会社ワークマンの営業企画部 丸田純平氏にSNSの取り組みについてお話を伺った。

 

片平 メーカーの人たちが製品の使い方を消費者に提示するというのが今までのマーケティングだったと思うのですが、最近、一般の人たちがこんな使い方もあるんだとネットで独自の使い方を広めるという動きが見え始めていて、私ちたも注目しています。その主役の一人が、ワークマンさんだと思っているので、是非お話をお聞きしたいと思っていました。お受けいただけて嬉しいです。
 まず丸田さんのプロフィールをお話いただけますか。


丸田 2008年に新卒で入社しました。最初は店長やスーパーバイザーとして、現場で(フランチャイジーの)オーナーさんの指導を務め、2015年から今の部署である営業企画部に来ました。この部署ではチラシ、カタログ作成、POPなど販促に関わることを全てやっております。現在は主にSNSの運営や広報業務をやっております。


片平 入社されてから今に至るまで、ワークマンの節目がいくつかあったと思います。どのように今のワークマンに辿り着いたのでしょうか。


丸田 入社当初は9割が職人さんを中心とする男性客で、製品も作業用品関連だけでした。ですが、2018年にワークマンプラスというのを立ち上げることになったんです。
 私は当時、ワークマンで扱っているものと同じ製品を、ワークマンプラスでどうやって違う見せ方をし、販売していくかということに注力していました。
 現在はメディアにも取り上げられて、新しいお客様が来るようになりました。女性客もこのタイミングで増えていったので、ワークマンプラスを立ち上げたことは一つの節目だったと思います。



ワークマンを変えたのはお客様の声




片平 立ち上げのきっかけは何でしたか。


丸田 YouTubeやお客様の声でした。
 ワークマン製品に、農作業用の防水防寒ウェアがあるのですが、一部の人が「バイクに乗る際に着ても、安くてとても良い」と言って下さいました。その他にも厨房で履く用のコックシューズを、滑りにくくて安全だから妊婦さんも使っているなど…お客様の声を知ったんです。そこから一般のお客様にもワークマン製品を販売できることを知り、ワークマンプラスを立ち上げることに繋がりました。
 それとあいまって、現在労働人口が減っているので、将来的に我々のターゲット層の売上見込みが低くなってくるんです。そのため今まで1割しか来なかった女性層も顧客に取り込みたいという想いから、アウトドアユースやスポーツユースでのアプローチもしていこうとなりました。


片平 YouTubeなどのお客様の声に気づいたのはどなただったのですか。


丸田 店長です。店舗で働く中で、作業用に買いに来たようには見えないお客様に声をかけて教えてもらったそうです。その現場の声が我々に回ってきました。



「アンバサダー」という仕組み




片平 ゼミの学生にワークマンについて調べさせたところ、世間ではワークマンの製品が良い!と騒がれているが、ワークマンからの発信はあまり多くないと言っていました。どちらかというとワークマンさんご自身より消費者の方が熱くなっているように感じるのですが、それに対してどう思われますか。


丸田 UGC(ユーザーが作るコンテンツ)を増やすことには力を入れています。有名なYouTuberに取り上げて頂けることは我々も嬉しいので、一歩踏み込んだ取り組みとしてうちでは「アンバサダーマーケティング」と呼んでいるのですが、それに注力しているところです。
 仕組みが少し面白くて、アンバサダーの方と金銭の授受は一切していないんです。その代わり新製品の発売情報をいち早くお渡ししています。そうすると我々より先にアンバサダーさんが「こんな商品が発売されます」とレビューを書いて発信してくれるんです。
 アンバサダーさんがワークマンの最新情報をYouTubeで発信すると何万回と再生回数が増えて、結果としてアンバサダーさんにもメリットがいくというWin-Winの関係を築けていると思います。


片平 私も金銭が発生しないというのは大事なことだと思います。今の消費者は、ステルスマーケティングのようなものはうさんくさいと気づいてしまう、お金をもらって書かれた内容だと思ってしまうんですよね。


丸田 そうですね。その方々が書いた内容は、我々がチェックすることなく世間に出ているので、お客様目線で悪い評価も書いてくれます。本当に自由で率直な意見を書いて頂いています。金銭の授受がないからこそできることだと思います。


片平 アンバサダーの方の意見で商品改良されたり、新商品が生まれることは実際にありますか。


丸田 あります。例えばキャンプの専門家であるアンバサダーさんからアドバイスを頂き、商品開発に活かしたこともありました。


片平 全く気が付かなかった指摘などはありましたか。


丸田 溶接現場で火花が飛んでも燃え広がらず安全であるように作られた綿ヤッケという製品があるのですが、アンバサダーの方が、キャンプの焚火をする際に着るとちょうど良いということに気付き、発信をして下さいました。そのお陰で意外な使い方が世間で認知され、大変人気になり、1年間で2000枚しか売れなかった綿ヤッケが何十万枚も売れるようになりました。
 元々、溶接現場の火の粉でファスナーが溶けて開閉できなくなることがないよう、綿ヤッケはかぶる形状をしていました。しかし、着脱の時に髪の毛が崩れるのでファスナーをつけてほしいという声を頂いたので、フルジップタイプを作ったところ、今でも好調に売り上げる定番商品になったということがありました。


片平 なるほど。そのようなアンバサダーという仕組みはいつどのようにして始まったのですか。


丸田 2016年9月に「ブロガー向け商品発表会」を初めて開きました。そのときバイク好きやアウトドア派のブロガーが100人ほど参加しました。その後「インフルエンサー向け商品発表会」と名前を変えて年2回開催し、回を追うごとに参加者も増えていきました。そうしていくうちにその中でも特にワークマン愛にあふれた発信力のある人を見つけて身内化し一緒に商品開発までやってしまおうということになりました。そうして始まったのが「製品開発アンバサダー制度」です。


片平 面白いですね。そのような熱いアンバサダーをどうやって見つけるんですか。


丸田 これはとても原始的なやり方をしています。広報担当がワークマンに関する投稿をネット上で追いかけてその中から熱い発信をしている人を見つけ出すのです。こちらからその人にコンタクトを取り実際にお会いして意気投合したら始まるというわけです。フォロワー数といった量ではなくワークマンへの愛と発信の的確さが決め手です。その第1号はサリーさんという方でその方と開発したものの一つが上でご紹介したフルジップタイプの綿ヤッケです。


片平 とても丁寧なやり方ですね。そのアンバサダーは今何人くらいいますか。


丸田 サリーさんのプロジェクトがうまくいったので2019年7月に第二第三のサリーさんを探そうという「ワークマンアンバサダープロジェクト」を始めました。1年経って25人になりました。これは今後のわが社の飛躍のカギを握っていると全社的にも力を入れています。



現在は、吉幾三を見なくなったが




片平 少し話が変わるのですが、吉幾三さんの「行こうみんなでワークマン」というCMは非常に有名だと思うのですが、最近あまり見ないという声が学生からありました。広告のやり方の変換などがあったのでしょうか。


丸田 当時、ワークマンを知らない人が圧倒的に多かったので、あのCMは会社のイメージ広告という位置づけで、会社を認知してもらうことが目的でした。次第に皆様に認知して頂けるようになったので、5、6年前から、新規のお客様にも来て頂けるよう、新規顧客層をターゲットにした商品を押し出すCMを作るように転換していきました。


片平 アンバサダーマーケティングと広告は関係するところはあるのですか。


丸田 広告自体はテレビCMとチラシが主です。CMは核となるいくつかの商品を押し出すことに使っています。それに対し、アンバサダーマーケティングではweb上で幅広い製品を宣伝してもらうという位置づけなので、テレビを観ない世代、TwitterやInstagramしか見ない人たちにアプローチするためにやっている形です。


片平 マーケティングの動きなど、お手本にしている会社はありますか。


丸田 東急ハンズです。SNS担当になる前、外部の講義を受けたことがありました。そこの講師であった東急ハンズの方から「SNSは接客業と同じだ」という考え方を学びました。その方がおっしゃっていた、SNSでコミュニケーションをとることで共感を生み出し、親しみやすい部分を作っていくということを、今も大事にしています。



「ネット注文・店舗受取」でAmazonに勝つ




片平 ECの公式サイトに関してはどのようにお考えですか。


丸田 まだまだこれから伸びていくと思います。全体に占めるネットの売り上げはまだ少ないです。在庫体制や納期の短縮などサービス面の強化がこれからの課題です。


片平 私はそれでいいと思いますね。アパレル系はリアルな店舗で購入することの嬉しさの方が圧倒的です。私自身、サイズ感のリスクをとらないためにもなるべくリアルで買うようにしていますね。


丸田 現在、クリック&コレクトの仕組みを強化しています。Amazonに負けないオンラインストア作りを目指し、店舗の在庫を全て公表できるように頑張っています。ネットで店舗在庫を確認でき、ネットで注文し店舗受け取りにすれば注文をしてから数時間で商品を受け取れるようになる。これならもしかしたら翌日配送のAmazonに勝てるかもしれないと考えています。理論上の在庫なので、すぐ完売してしまった製品の反映など、難しい課題はあるんですけどね。



職人さんにも若い女性客にも愛されたい




片平 ちなみに学生のお客様は増えていますか。


丸田 割合はまだ少ないですが、用途があって買いにくる方はいます。専門的に揃えると何万円もするサバゲー(註:サバイバルゲーム)用のズボンが、ワークマンなら980円からあるらしいとネットで聞きつけてお越しになるお客様がいます。普段使い、お洒落着ではなく、何かの用途のためにお越しになる方が多いと思います。


片平 若者や女性層から人気が出てきた時、職人さんなど昔ながらのお客様の反応はどうでしたか。


丸田 俺たちのワークマンはどこへいったとネットに書かれていることもありましたが、ワークマンもワークマンプラスも基本的に同じ作業用品を扱っています。ワークマンとワークマンプラスは同じ製品を扱っていることを認知してもらうために、3月にオープンしたワークマンプラスさいたま佐知川店では、時間帯によってワークマンとワークマンプラスの看板が変わるような作りにしたんです。
 朝と夕方は職人さんが多いので看板をワークマンにし、日中は主婦など一般のお客様が多いのでワークマンプラスにする。店内の照明やディスプレイも変えるけれど、扱っている製品は同じであることをアプローチするお店を作りました。一通りメディアにも取り上げて頂いて効果はあったかなと思います。



高機能×低価格で驚くような商品を、は変わらない




片平 ワークマンさんが大事にしていること、ぶれていないことはなんでしょうか。


丸田 色々ありますが、高機能×低価格で驚くような商品を作りだす、つまりコスパがいいものを作るというのは変わっていないです。
 空調ウェアという背中にファンが付いていて、熱中症対策に使われる服があるのですが、価格はバッテリーやファンが付くので1万7千円程します。それだけ聞くと高く感じるのですがとても売れるんです。それはきっとお客様が、この機能に対してこの値段は安いと思ってくれているからだと思います。そのような商品をずっと作り続けていること、そこはぶれていないと思います。


片平 貴重なお話をありがとうございました。


ワークマンプラスさいたま佐知川店 《クリックして拡大》




(インタビュアー : 片平 秀貴  本誌編集委員長)


丸田  純平(まるた・じゅんぺい)
株式会社ワークマン  営業企画部  販売促進グループ  マネジャー
2008年入社。店長、スーパーバイズ部などを経験し現在は営業企画部に所属。SNSマーケティングや広報業務などを担当。

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