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withコロナの暮らし 「根強く、しぶとく、欲深く」

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年12月号『コロナの炙り絵@LIFE』に記載された内容です。)

既に人々は折り合いを付けながら「withコロナ」の暮らしをおくっています。先行きの見えない不安の中で、感染予防策とともにある新たな暮らし方や楽しみ方。わたしたちの消費は、なんだかんだしぶといものです。

 


緊急事態宣言時よりも緊急事態の中で


 

2020年12月1日現在、全国の感染者数は148,837名、新規感染者は2,019名※1と報じられた。緊急事態宣言が解除された5月25日(感染者数16,445名、新規感染者数20名※1)がはるか遠くに感じられる2020年師走、わたしたちは新型コロナウイルス(以下コロナ)と既に折り合いをつけながら暮らしている。春先には感染者数の増減に怯えたり安堵したりしながら過ごしていたにも関わらず、当時よりも圧倒的に増えた感染者数に対して反応は鈍くなっている。

感染者数に対して慣れてしまったように思える一方、自分ごと化しやすい情報には敏感で、息苦しくなるような不安を感じている。たとえば有名人の感染や訃報。見慣れた飲食店や決して暖簾を下ろす日など来ないと誰もが思っていたような老舗料亭の閉店。今ではすっかり賑わいも戻っているが、人通りが消えた春先の銀座中央通りやがらんとした夏の空港など、「日本は大丈夫なのか?」とその光景に深刻さを実感したものだ。が、日常は逞しい。

予防行動を伴いながらも生活していかなくてはならないのが日常なのだ。マスクや手洗い、そしてさまざまな自粛行動の中で、毎日家事をし、仕事をし、学校へ行く生活を、それぞれの不安を多かれ少なかれなだめながら送っているのが2020年の師走だ。

 


今の不安感が未来の暮らしをつくる


 

感染不安に対しては自分なりに予防措置を講じられるが、より大きな不安要因である雇用や収入については自分だけの努力ではいかんともし難く、より切実だ。経済情勢も雇用情勢も日々厳しさを増し、明るい見通しはない。コロナバブルで沸き立つ企業がある一方で、大手企業間では雇用シェアも行われはじめている。

が、そうした対象にならない非正規の働き手は春先から就業者数が大きく減少している※2。経済的理由により大学を中退する学生や若い女性の自殺者数が急増するなど、社会的弱者への施策の必要性は山田昌弘氏へのインタビュー(マーケティングホライズン2020年12月号)の中でも触れられている。

博報堂が毎月行っている「新型コロナウイルスに関する生活者調査」の2020年10月の調査※3による不安内容を見ると「経済の停滞に不安を感じる(77.2%)」「行政の対応に不安を感じる(69.2%)」「海外の情勢に不安を感じる(68.4%)」「自分や家族の健康に不安を感じる(67.1%)」「情報の不足や不確かさに不安を感じる(61.5%)」とある。自身や家族の日々の感染不安はもちろんだが、それ以上に強い不安が「本当は今、どういう状況なのか」「この先暮らしや景気はどうなるのか」などの問いに答えられる人の不在に起因する不安である。

そして、こうした現実の不安感や先行き不透明感は今の問題にとどまらないのだ。既に人口は2008年をピークに減少基調にあるが、コロナによる不安感・不透明感が少子化をさらに加速させることを山田氏は指摘しているが、同時に天野馨南子氏の原稿(マーケティングホライズン2020年12月号)では、それゆえ生まれた新しい兆しについても触れられている。

その時の未来がwithなのかafterなのかは定かではないが、今の不安が未来をつくっていることは確かである。いずれにしても、そうした不安を抱えながらもわたしたちは今を生きていかなければならない。

 


新しい自分にコミットする消費大義



不安が常態化し、暮らしは大きく変わった。在宅時間は約7割の人で増加している※4(図表3)。緊急事態宣言を契機におうちで過ごさざるを得なかった春以降、家での過ごし方が変化し、それに伴い家庭内空間・設備・備品の最適化が図られた。

日頃は片目を瞑ってやり過ごしていた未完了状態の片付けや居心地の悪さも、おうち時間が増えれば自ずと気になってくる。やましたひでこ氏提唱の本来の断捨離の趣旨とはやや異なるものの、不要品処分がトレンドのようになり、家の片付けとともに、子どもの学習やテレワーク対応の必要性からリフォームやDIYの話題も目にする機会が多かった。

また、増えた在宅時間による運動不足からコロナ太りに陥り※5(図表4)、在宅トレーニングをはじめた人も多い※4(図表5、6)。

運動・美容グッズやゲーム機器、新たなインテリアグッズが導入されたり、家庭での料理機会の増加により新たな調理家電やキッチングッズを購入したり、不要品を処分して新たに生まれたスペースにはニューノーマルアイテムが参入し、断捨離後も家庭内総量はその実あまり変わっていないかもしれない。

おそらく既にあるものだけでもなんとか間に合わせることはできるはずだ。にも関わらず、新たにグッズや機器を買って新たな習慣化を図ろうとすることは、運動に限らずありがちなこと。買いたい気持ちに好都合な大義がそこにはある。

自ら新しい暮らしや習慣化にコミットするための消費は、これからもまだまだ生まれていくだろう。

 


キラキラと推しは生活必需アイテム



いまやマスクやフェイスガードがなくてはどこへも行けないが、さまざまな機能訴求の傍ら、新たな市場も派生している。それがデコ&ハンドメイド、である。ここにも大きな大義がある。

マスクそのものも百花繚乱状態ではあるが、マスクの耳掛けの両端を髪飾り感覚で結ぶ「マスクレット」、マスクの角にぶら下げるビジュー付き「マスクチャームやマスクピアス」、マスクを外した際にぶら下げる「マスクネックレス(マスクチェーン)」、既製品マスクの上から付ける装飾的な「マスクカバー」などマスクそのものもファッション化し、また、外したマスクを仕舞うためのマスクカバーも数多ある。いまやマスクはおしゃれアイテムとして完全に市民権を得、ちょっとしたギフトとしても重宝している。

これらはハンドメイド魂をも存分に満たし、おうち時間との相性も良い。ユザワヤやオカダヤでも「手作りマスクコーナー」は充実の品揃えでイチオシの売場を形成している。できあがったものはネットを通じた売買も盛んで、メルカリをはじめ、Creemaやminneなどの手作り販売サイトでも追い切れないほどのアイテムが出品されている。

必需品であるマスクゆえにお値段が少し高めでも罪悪感は低くすむ。「マスクで隠れてしまう口紅より、人から見えるマスクでおしゃれしたい」、「腐るものでもないし、マスクならいくつあっても邪魔にならない」など、もはやマスクであることそのものが大義となっている。

毎日身に付けるからこそ、ちょっとでもおしゃれしたい、楽しみたい。マスクビジューは感染予防に何ら関係ないものの、その出費は今のちょっとばかり不便な生活を受け容れるために必要なものになっている。不便をおしゃれの機会に替えることで折り合いをつけているのだ。

同様のことがエンタメ界隈でも言える。詳細は中塚千恵氏の原稿(マーケティングホライズン2020年12月号)にもある。リアルイベントならではの圧倒的魅力には敵わないものの、チケットや遠征の負担なくライブ配信などにより、リアルタイムを楽しむ同時参加人数は爆発的に増えた。画面のこちら側で予め用意したグッズを手にして推しを応援するしあわせ。一時期、バタバタとさまざまな公演やイベントが中止になり、代替策が発表されるまでの間のモノクロの時間。

暮らしに彩りを添えているのはちょっとしたキラキラや、推しの存在であり、それらが生活には不可欠なものであると再確認した人も、またそれらの市場性に期待した企業人も多いだろう。

 


街も副業人材も「ご近所品質」が高まる



人々の移動実態が否応なく変化したことにより、行動範囲が狭まっただけでなく、その密度と魅力度の高まりも見られるようになった。

いつ海外旅行ができるようになるかわからないから、とりあえずは近場の国内旅行を楽しもう。賑わっている繁華街のレストランへ行くのはちょっと不安だから、近所で美味しいお店を探そう。あてにできない未来に期待するよりも、イマココでいかに暮らしを充実させるか。緊急事態宣言解除後、人々も事業者も大きく動いた。

本誌編集委員でもある飲食プロデューサーの子安大輔氏も「都心飲食店による住宅街への出店が増えている。焼肉店や持ち帰り需要にも容易に対応できる唐揚げ専門店の増加はそうした傾向の典型例」と語る。同様のことがヘアサロンにも言え、銀座や青山等のサロン一等地でそれなりの顧客数を抱える美容師による住宅街への戦略的出店が増えているという。

都心部でしか得られなかった価値の方から自分たちの住む街に近付いてきたのだ。わざわざリスクを冒し、時間をかけて出掛ける必要性は徐々に低くなり、商圏地図が刷新されつつある。

同様のことが働き方の変化にも言える。単に在宅勤務やリモートワークの話だけではない。副業人材における動きである。今回のコロナが直接の契機になったわけではないが、いまやライスワークとしても、ライフワークとしても、性年代を問わず副業に意欲を示す人は増えている。また、企業が副業人材を大々的に募集するライオンやヤフー、社員から個人事業主希望者を募る電通なども話題になった※6。副業が今後ますます増加することに疑問の余地はない。

スキルマッチングサービス等における登録数や成約数も伸びているが、副業市場が拡大すればするほど知的品質への要求は高くなる。□□で働いていた○○さん、△△が得意な◇◇さん、という安心できて品質が確か、と言う人材の方から大手企業の枠を超えて、知る人ぞ知る「ご近所の名店」的に近付いてくるのだ。

どこにいても成り立つ仕事においてこそ、スキルとともに相互の信頼関係が不可欠となる。コロナで炙り出されたもののひとつに、そうした日頃の関係性がある。良くも悪くもこの機に見つめ直せるとしたら好機であろう。本荘修二氏の原稿(マーケティングホライズン2020年12月号)でも、組織のあり方について見つめ直すヒントが書かれている。

 


「いずれ」ではなく、「今のうちに」の衝動



漠然とした不安が依然強いからこそ、当たり前の暮らしへのありがたさは増している。特に家族が元気であって欲しいという思いは、性年代を問わず「家族との時間」を大切にしている人たちの姿がうかがえる※7(図表7)。

現役世代もリタイア世代も家族との時間、とりわけ「離れて暮らしている家族」との時間はお互いにとって切実だ。年にたった数日しかともに過ごせない、そのわずかな時間が一時的とはいえ失われてしまったのだ。それどころか周囲の目を気にして「帰省しないように」と地方に住む親から禁止令が出された人たちも少なくない。

行政による突然の方針変更や、公演やイベントの中止発表など、「そのうちに」「いずれ落ち着いたら」と様子を見ているうちにそれらがどんどん遠くなる世界。いかに明日があてにならない世の中になったかをわたしたちは体験し、「今」を強く意識せざるを得なくなった。

旅行にしろ、帰省にしろ、さらには初詣やお花見、スポーツやエンタメのイベントも含め、「行けるときに行っておかないと」「いずれ行こうなんて思っていたらいつ行けるかわからない」、だからこそ「今のうちに」「~できるうちに」という気持ちに拍車がかかる。

GoToキャンペーンはお出かけに対する飢餓感を燃料に、お得感というブースターを得て人々を動かしたが、こうした傾向は旅行等の非日常イベントに限らず、基本的なマインドとして今後さらに強く刷り込まれていくだろう。

 


わたしたちはずっと前から「with不安」



いままでなら何年かかってもなかなか変わらなかったことが、今年の数ヶ月で大きく変化した。いや、変化せざるを得なかった。やってみたら意外にあっさりできたこともあるし、とりあえずやってみた後から調整に追われていることもあるだろう。しかし、やってみたらできたじゃないか、というこの経験が語る意味は大きい。

コロナが発生しなくても少子化はさらに進み、経済格差や教育格差は拡がり、キャッシュレスは普及し、副業はますます拡がり、リモートワークもゆるやかに浸透し、高級調理家電は増え、デリバリー食は増加し、それでも相変わらず「働くお母さん」にばかり負担がかかり、男性の育休取得率は低く、社会保障制度に明るい未来を見出せず、空気を読み合う閉塞感に包まれている日常をおくっていただろう。仮に2020年に世界的なスポーツの祭典が行われていたとしても、まさに夏の夜の花火的に瞬間の明るさの後の闇は深く、それで暮らしに光明が差すわけでもなかっただろう。

コロナに因らず、実はずっと以前から生活は先行き不透明であり、常に不安感がwithだった。しかし、そのような中でもわたしたちは自分なりの楽しみを見出していた。今も同じだ。感染予防を講じながら生活を守り、その中での楽しみを見出し、明日につなげていくことに必死になって生活を回している。

今後の感染状況がどうなっていくのか、ワクチンや特効薬の開発がいつになるのか。確かな情報が得られないまま、夏の五輪開催に向けて移動の自由を重視した海外からの大規模な入国策が発表された。既に軽井沢や熱海・湘南をはじめとした不動産市場は活況であるが、移住しないまでも感染不安から五輪期間を中心に首都脱出の傾向には拍車がかかるだろう。

単なる働き方の変化によるものではなく、命を守るために動き出している人たちはいる。今いる場所で安全を確保しながら、なんとか暮らしを守ろうとしている人たちもいる。そうした人としての根強さやしぶとさと、しんどい時でもちょっとした楽しみや心躍ることを軽視しない欲深さ(いい意味です)、そういう暮らしを応援できるマーケティングの底力を信じていきたい。


図表 《クリックして拡大》

 

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〈参照元〉
※1 厚生労働省 「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」
※2 総務省 「労働力調査」
※3 博報堂生活総合研究所「第7回 新型コロナウイルスに関する生活者調査」2020年10月
https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2020/10/20201015.pdf
※4 株式会社ヴァリューズ「withコロナで変化する消費者意識を調査」2020年8月
https://manamina.valuesccg.com/articles/1027
※5 株式会社アスマーク「ダイエットと食品表示に関する調査」2020年8月
※6
日本経済新聞報道記事
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59982690U0A600C2MM8000
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66103760R11C20A1916M00
ヤフー株式会社 Yahoo Japan Corporationギグパートナー募集
https://about.yahoo.co.jp/hr/gigpartner/
※7 養命酒製造株式会社「現役世代とリタイア世代のコロナ疲れに関する調査2020」
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ツノダフミコ
株式会社ウエーブプラネット 代表
生活者調査・研究からのインサイト導出、コンセプト開発を多数ナビゲーション。また、協調設計技法Concept pyramidⓇをはじめとする洞察力・共感力を強化する各種プログラムの提供、研修も手掛ける。

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