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新型でいこう: PX(Personal Transformation)

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年1月号『新型でいこう』に記載された内容です。)

2020年は荒手の「新型」に世界中が振り回され、今尚、先が見通せず、予断を許さない状況の中にあります。そんな中、ホライズン2021年1号のテーマが「新型でいこう」に決まったのですが、素朴な疑問が浮かびました。それは、そもそも「新型」って何なのか?ということです。勿論、定義は人それぞれで、時と場合によっても捉え方が変わってくると思います。「新型」について、あれこれ考えてみました。


1.「新型」の賞味期限


 

「新型」というのは、読んで字の如く、「新しい」ということが要件である、ということは容易に理解出来ます。「新」という言葉には、新人、新婚、新生、新装、新調など、可能性や希望などを感じさせる、ポジティブなイメージが多いと思います。しかし、2020年の「新型」は、その真逆で非常に厄介なものでした。

もう少し、言葉自体に拘ってみると、「新型」の対義語は「旧型」ということになります。では、「新型」はいつから「旧型」になるのでしょうか?もしくは、「新型」とは、いつまで名乗っていいものなのでしょうか?単純に考えれば、新たな「新型」が出てくれば、その前の「新型」は「旧型」になります。また、新たな「新型」が出てこなくても、広く社会に実装され、世の中に定着してしまえば、もはやその光景は日常となり、目新しさは消えるでしょう。「新型」とは、それが日常に溶け込み、定着するまでの期間限定的なイメージなのだと思います。

 


2.「新型」×「人」



「新型」を「人」に当てはめて考えてみると、世代間のギャップを表現する時にしばしば引用されます。1960年代生まれの私の世代は、「新人類」と称されていました。しかし、世代間ギャップのみならず、個人の内面に漠然と存在する、新しい自分自身に出会いたい、という類の変身願望、成長願望は、誰もが持ち合わせているのではないでしょうか?

これは、「新型」の自分との出会いへの願望と言えます。私自身も、新しいことというか、今までずっと避けてきたことに昨年から挑戦しています。皆さんの中にも、何かしらの変身願望や成長願望に伴う、挑戦意欲はあるのではないでしょうか?時間がない、おカネがないなど、挑戦しない理由は多々あるとは思いますが、今から挑戦して本当に出来るものなのか、という不安や迷い、自信のなさのようなものも、きっとあるでしょう。

人は誰もが、心にささくれの様にひっかかっている思いや夢があると思うのです。それに挑もうと思う為には、何かしらのきっかけが必要です。私の場合は、2人の子どもが社会人になり、自分の心に少しだけゆとりが出来たことがきっかけでした。人生100年時代を迎え、ライフステージに見合った、もしくは年齢に抗うような挑戦は、今の(旧型の)自分を少しだけバージョンアップする、「新型」の自分と出会う為の挑戦、と言ってもいいと思います。

 


3.「新型」×「企業」



「新型」と「企業」との関係性は、製品や商品においては、容易にイメージ出来ますが、組織や戦略との相性は、必ずしもいいものではないと思います。企業の組織や戦略においては、過去の成功体験というバイアスが、「新型」に対する抵抗勢力となるからです。経営学領域では、UCバークレーのデイビット・ティース教授が提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ論」が注目されています。

ダイナミック・ケイパビリティとは、ルーティンをこなす通常能力のオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)に対し、変化対応的な自己変革能力と定義されます。この自己変革能力は、経営陣の①事業が直面する変化や機会、脅威を感知する「感知(センシング)能力」、②機会を補足し、脅威をかわすように、必要に応じて既存の経営資源や知見を大胆に再構成、再配置、再利用する「捕捉(シージング)能力」、③持続的な競争優位保持の為、オーケストラの指揮者のように企業内外の資産や知見をオーケストレーションし、ビジネス・エコシステムを構築する「変容(トランスフォーミング)能力」から構成されるものです。

日本企業のケースでは、富士フイルムが、デジタル・カメラの急速な発展という市場変化に伴う危機的状況を察知し、従来の写真フィルムの構成要素を活用、応用し、化粧品業界に参入し、組織変容へと繋げたことがダイナミック・ケイパビリティの事例として挙げられています。本稿に照らして考えると、ダイナミック・ケイパビリティは、企業組織や戦略における、「新型」へのトランスフォーム能力、と解することが出来ると思います。

 


4.まとめ



「新型」とは、何かを変える、何かが変わること、もしくは何らかの変化の兆し、と捉えることが出来そうです。「新型」には賞味期限があり、定着とともに、その役割を終え、「新型」の定着後は、何かが変わっている、ということです。そして、「新型」の土台には、自身の内面にある思いや生き様、潜在的な能力など、その人や企業にしかない固有の「型」のようなものがあります。

何らかの変化の兆しを察知し、自らの「型」を表出し、外部と自らの内面で化学反応を起こした結果生まれるのが、「新型」ということなのかも知れません。かつて、立川談志や中村勘三郎が語ったといわれる、「型があるから型破り、型がなければ形なし」という話は、この話にも通じるものだと思います。

何らかの外圧や社会情勢に振り回されるのではなく、こんな時だからこそ、冷静に現状を見つめ、自分自身の内面としっかり向き合い、自らが「新型」へのトランスフォームを図る、今風に言うと「Personal Transformation(PX)」ということになるでしょうか?それが私なりの「新型でいこう」ということになると思います。

 

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〈参照元〉
『成功する日本企業には「共通の本質」がある』(菊澤研宗)
『ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論』(菊澤研宗編著)

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見山 謙一郎(みやま けんいちろう)
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役
専修大学経営学部特任教授。「社会課題×経営学」の視点から、国内外で企業の活動を支援。海外では、特にバングラデシュとの縁が深く、現地財界とのネットワークをベースに、これまで多くの日本企業の進出支援を行っている。環境省・中央環境審議会(循環型社会部会)委員の他、総務省等の中央省庁や地方自治体の各種委員を兼務。

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