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芯形でいこう

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年1月号『新型でいこう』に記載された内容です。)


働き方、生活スタイルの見直し


 

2020年は新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、働き方、生活スタイルを見直さざるを得なかった人は多いだろう。見直されたことの多くは、ITが進化した現代においてなお残るハンコ社会(文化ではなく形式的な)、発展性のない会話が繰り広げられる会食や社内飲み会など、良い仕事をするために本当に必要なのだろうかと、若い世代を中心に疑問に思ってきた人も多い。

友人は、朝PCを立ち上げると承認印を押さなければいけない書類が1万件あり1日の業務が終わってしまうと各所に権利委譲をしたと話していたが、これが笑い話で済まない会社も多いのではないだろうか。日々の業務に追われ、先送りにしてきた問題に今回、たまたまスポットが当たったのである。そういったものの一つであるだろう大都市での生活。昨年から今年にかけては東京都から長野県や山梨県に引っ越した友人知人が多かった。

コロナ禍で引っ越したのではなく、準備してきたことを実行に移すタイミングとコロナがピッタリと符合したのである。2011年の東日本大震災を経て、これまでの働き方、生き方、生活スタイルに疑問を持った人たちの多くが10年の節目を前に決断したタイミングと今回のパンデミックが重なったのは興味深く、各業界のパイオニア達だからこその嗅覚だと感じざるをえない。

 


先送りしていた問題に向き合うべき時


 

周りを見渡してみると、このコロナ禍は悪いことばかりではない。無理のある働き方、パートナーシップや家族のあり方の見直し、住環境を整えるなど日頃、大きく騒ぎ立てるほどではないが、疑問を持っていたこと、不満を感じていたことに真正面から向き合う機会がうまれた。

コロナが直接的な原因ではないが時を同じくして、アメリカを中心に世界中に伝播したBLM運動など様々な問題に向き合わざり、軸を見直す機会になったと人も多い。小さな一歩かもしれないが、数十年後、間違いなく時代の転換点になったと思えるタイミングで、これまでの膿を出し切るための期間ではないだろうか。

 


企業が続くための前比至上主義の見直し



世界各国に会社を持つオーナー経営者の方は、今までのように売上前年比100%以上を目指す、その前提で動くスタイルを見直したそうである。今回のパンデミックほどではなくとも感染症や地震が数年〜10年単位で起こる前提で捉えると、その度に会社存続の危機に陥るわけにはいかない。

自分たちの企業が100年、200年、数百年と生き残るため、抜本的見直しが必要と考え、自ずとこれまでの経営スタイルでは続けられなくなる。実は日本は100年続く企業が世界で最も多く、3万3076社で世界の41.3%を占めている。さらに創業200年以上の企業では、その比率は65%まで上がる。それらの企業の歴史の中には、スペイン風邪などの感染症、地震、災害、飢饉など様々なことが起こった。それでも連綿と続いてきた企業が多数ある日本だからこそ、そういう企業のあり方を見習うことでみえてくるものもある。

 


思っているよりも簡単には壊れない



そんな老舗企業の一つである開化堂の6代目八木隆裕氏は「伝統があるからこそ、簡単には壊れない。背中に紐づいているものが沢山あるからこそ、ちょっとやそっと新しいことをやったくらいでは駄目にならない」とインタビュー(2019年5号※1)で語っていたが、八木氏が言うように新しいことにどんどん挑戦して、駄目だったら引き返せばいい、本当に必要のないものは揺り戻しが起こるから、ということではないだろうか。ただし、旧式がいいと根拠もなく信じた上で起こる揺り戻しでは駄目で、そこは今の日本の大きな課題でもある。

 


新型?芯形?



私が考える2021年の新型とは芯形であり、自分や企業の中心軸は何か、これまでその企業の売り上げを作ってきた商品自体にとらわれずに、そこに至る理由や原動力、企業風土から生まれる商品やサービスはなにかを含めて、考え直すべき時だと感じる。このあたりはアメリカの靴のオンライン販売から始まったザッポスの、サービスを通して「ワオ!」という驚きの体験を届けるをはじめとする10のコア・バリュー(価値観)を大事にすることにヒントがあるように感じる。

2019年12号※1の書評欄でも紹介している「ザッポス伝説 2.0」をぜひ読んでみて欲しい。ここ数年、話題のキーワードだったデザイン思考の流れからのアート思考やイノベーションを起こすなど形式や方法論にとらわれるのではなく、自分や企業の本来の目的ならびに軸を今一度考え直す時がきている。大事なのは思考方法ではなく、目的や軸である。走り出してしまうとなかなか立ち止まる機会がないが、全世界で、ほぼ同時に強制的に立ち止まることを余儀なくされた今回のパンデミックは、立ち止まり、軸を見直す機会になったと前向きに捉えることで見えてくる道もあるだろう。

 


土の時代から風の時代へ



ファッション誌を中心にWEBマガジンなどでも、ここ最近、年末には必ずといってもいいほど占いの特集が組まれているが、昨年から今年にかけては西洋占星術的でみると、大きな変化の年だという。2020年でこれまで約200年続いた土の時代が終わり、新たな風の時代に突入するのだ。そこでは、これまでとはお金や土地を所有することへの価値観が変わる、大企業のシステムが大きく変わるなど、物質的な豊かさや生産性、安定、価値といった土が象徴している価値観に変化が生まれるのだそうだ。

占いを妄信的に信じているわけではないが、2020年の大きな変化をみるとなんだか納得せざるを得ない。一方で、風はその言葉通り、儚いもの、ライブや人と人の絆といったものに価値が出る、物質主義から精神主義へと移り、権威主義、権力主義が終わりを告げ、人間性に基づいた時代に変化するのだという。確かに私自身、パンデミック下では、改めて人と人の繋がりやライブなど、その一瞬一瞬の尊さに気がつかされた。

そんな天体的な影響を抜きにしても、2020年、2021年は時代の大きな転換点になることは間違いない。2018年3号※1の特集テーマ「自分を更新する~セルフ・アップデート~」の感覚で、自分を更新し続け、変化に柔軟に対応できる人間であり続けたいと思う。一方で、譲れないもの、変わらないものとなる、自分や企業の芯形と向き合うことで明るい未来への転換点になる2021年にしたい。

 

注1:マーケティングホライズン誌

吉田 けえな(よしだ けえな)
ファッション、ライフスタイル、コミュニケーションディレクター
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター。 PR会社や百貨店のコーディネーター、雑貨ブランドのディレクター兼バイヤーなどを経て渡米。NY を拠点に世界中で、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事に、バイイングやリサーチを行う。現在は帰国し、商業施設のプランニングアドバイスやポップアップショップの企画立案、デザインイベントやカンファレンスの運営など多岐にわたり、活動中。

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