Withコロナ時代に即したガバナンス・リスク管理の在り方

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年2月号『多様なASEANか、閉じたASEANか』に記載された内容です。)

コロナウイルスは、2019年末に原因不明の肺炎流行として報道されて以降、年明けには新型コロナウイルスとして全世界に蔓延しました。足元では、ワクチンの投与も開始されていますが、依然として、地域、国によっては、第2波、第3波への対応に追われている状況にあります。

このことは、以前にも増してリスクが多様化している中で、企業は改めて、厳しい移動制限を所与とした上で、業務プロセスや駐在員 / 現地人員の最適配置(含む人材育成)など、リモート環境下におけるガバナンスの在り方を再考する必要性が出てきているものと考えられます。本稿では、日系企業が対峙すべき課題とそれら課題への対応策について紹介させていただきます。

 


リスク自体の変化がもたらす企業のガバナンス・リスク管理の見直し


 

昨今、日本企業の重要な経営課題の一つはグループ全体及びグローバル全体の視点でガバナンスを強化し、事業の成長と経営管理強化の両立を図ることです。特にAsia Pacific地域の中でも東南アジア(SEA)、中国、インドといったエマージングカントリーは日本企業の事業成長にとって重要な戦略地域となっており、現地事業規模の拡大やレピュテーションへの配慮、内部の経営管理の強化が急務となっています。

各国では、これら経営からの要請への対応に注力していますが、日々企業の方々と会話をさせていただいている中でも、(1)新型コロナウイルスといった感染症の広がり、(2)インドネシア/フィリピンにおける地震・火山噴火などの自然災害、(3)複数国で発生している自爆テロなど東南アジアにおける政情不安、など事業推進を阻み兼ねない問題が認識されています。

また、自然災害、政情不安に留まらず、IT技術の進展に伴い、サイバー攻撃も増加傾向にあり、(1)機密情報の漏洩、(2)個人情報漏洩による企業レピュテーションの毀損、(3)工場制御系システムや電力プラントなどの操業停止によるサプライチェーンへの甚大な影響の発生、などテクノロジー関連の問題も頻発してきており、リスクの多様化・広域化を踏まえ、企業のガバナンス・リスク管理の在り方の見直しが求められていると考えられます。

具体的には、マネジメント層では、現地に赴くことがままならない中で、どのようにDigitalを駆使しながらリアルタイムでモニタリングを行い、各種人材(経営層/マネジャー層、日本人/現地従業員など)を育成していくのかという点は優先課題と言えます。

また、ビジネス部門では、対面での営業活動が制限される中で、ネット販売や電子決済活用などを通じたビジネスモデル変革が求められることに加え、改めて取引先/サプライヤーの現状把握と、適切な関係性構築に向けた検討が求められると考えられます。

一方、コーポレート部門では、リモートワークが必然となることが予想される中で、紙媒体を中心とした業務推進からの脱却と電子化を実現するために必要な業務可視化/清流化が必須になると考えられます。

更に、一連のリモートワークの普及とDigital化の推進は、24時間365日様々な関係者が様々な所から企業の情報にアクセスすることになることを意味しており、その観点からすれば、堅牢な情報セキュリティ態勢の整備は企業/事業運営の根幹をなす課題になるものと考えられます。

実際に、弊社主催セミナーでのアンケートにおいても、コロナ禍における重点施策として、「リモートワーク推進のための業務インフラ整備」「ペーパレス化など業務オペレーションの見直し」といった施策に加え、リモート環境下における業務推進を円滑に行うための「ガバナンス・内部統制の見直し」「ナショナルスタッフの育成」などが重要視される結果となり、Withコロナ時代に即したガバナンス・リスク管理の在り方を追求していく必要性が強く認識されていると考えられます。

 


ガバナンス・リスク管理の見直しを行う上での論点



Withコロナ時代に即したガバナンス・リスク管理の在り方を検討する上では、日系企業のガバナンス構造・手段における課題を改めて整理する必要性があります。従前から海外事業展開においては、リソースの問題もあり、どうしてもビジネス活動を優先する傾向が強く、駐在員を現地に派遣し意思決定やフィジカルにモニタリングを行うことにより、ガバナンスレベルの維持に取り組んできました。しかし、昨今の環境下においては、駐在員の一時帰国やリモートワークの導入加速に伴い、従前のような対応を通じた実効性は低下しつつあると考えられます。

具体的には、財務数値や業績数値の把握、モニタリングなど定量面での管理は一定程度対応できたものの、「現地・現物・現実」に基づく判断や人員のモチベーション維持・育成など、可視化しにくく、暗黙知化している領域はモニタリングの難易度が高く、結果的に生産性・効率の低下や、組織の一体感の低下が発生していると考えられます。

このような課題への対応策としては、駐在員の役割・ミッションの見直しも含め、単にモニタリングの方法だけでなく、マネジメントの在り方を、組織設計・外部リソースやテクノロジーの活用といった観点を織り込み見直していくことが必須と考えられます。

 


リモート環境下におけるガバナンス・リスク管理見直しの方向性



前述のような課題への対応策として、以下に示す大きく4つの視点が必要と考えられます。

<マネジメントスタイルの見直し>

これまで以上に不確実性が高まりつつある環境下ではありますが、発生都度の対応には限界があり、将来予測から紐解く形で定量/定性の両面からリスクと成長機会を特定し、モニタリングを図る必要性があると考えられます。

また、駐在員がやむを得ず帰国せざるを得ないケースや、シンガポールなどでは自国の雇用を守るという方針から新規就労ビザの発給要件が厳格化されるなど、駐在員偏重のマネジメントスタイルからの脱却は必須であり、現地人材の育成を通じた自律分散型組織への変革も必要となります。現地人材の育成については、シンガポールなどでは官民による育成支援プログラム整備も進行しつつあることから、それらプログラムの活用を通じた育成も効果的と考えられます。

駐在員についても、自ずと駐在員に求められるミッション・役割も変化することが想定され、従前のような、日本本社の意図を汲みつつ、オペレーションが弱い部分を現地でサポートするというものから、(1)現地のリスク環境に即した迅速な意思決定メカニズム整備、(2)業務プロセスの整備とリソース最適化を通じたオペレーションモデル整備、(3)リモート環境下でも適切なモニタリングが行える手段・仕組みの整備、といった現地のガバナンス態勢・リモートでのモニタリング体制整備をミッション・役割として担っていく形に変化していくものと考えられます。

組織設計の見直し・外部リソースの活用>

また、改めて人材配置やミッション/役割の再設計を検討することは組織力を高めていくためには有用と考えられます。但し、人材リソースは有限であることも事実です。従前まで、SSC(シェアードサービス)やBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)などを活用し、単純業務をアウトソースすることで、リソース不足及びコスト削減に取り組む企業が多く見られました。

今後は、このような取り組みに加え、リモート環境下におけるガバナンス維持を目的として、管理業務やITサービスなどのアウトソース検討を図ることで、限りある人材リソースを最大限に活用し、確実に収益を確保していく体制に取り組むことも必要と考えられます。

<「ヒト」と「テクノロジー」を組み合わせた業務設計>

リモート環境下において、財務数値、業績数値の収集・分析など一定程度定量的な経営管理は対応できたと考えられます。但し、これら情報は以前から定量化され管理されていた情報であり、過去からの経験や感覚を通じて経営管理を行ってきた領域においては管理しきれなかったことも事実です。

今後は、改めてモニタリングすべき財務・非財務情報を定義すると共に、それら情報の生成・収集・分析を可能とする業務プロセスの再設計が重要になるものと考えられます。新たな業務プロセスにおいては、対象とする情報量も各段に増加することになることに加え、その精度を高める必要性もあることから、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのデジタルツールの導入も併せて行うことにより情報精度を高め、内部統制の観点も踏まえヒトの役割を見直すことが重要になると考えられます。

<「リアルタイムモニタリング」>

「ヒト」と「テクノロジー」を組み合わせた業務プロセス導入後の経営管理においては、定期的に情報を収集・分析するというサイクルから24時間365日というリアルタイムでの経営管理というサイクルに変化してくるものと考えられます。リアルタイムモニタリングが可能な状態とは、自動的に情報収集・分析がなされる状態を意味しており、過去の結果に関する分析に多くの時間を割く必要性はなくなることから、より将来に対する戦略立案への時間配分が可能となります。

また、マイニングやアナリティクスツールを有効活用することにより、異常値の適時把握が可能となり、リスクの端緒を未然に把握し、迅速な対応が可能になるものと考えられます。

 


おわりに



コロナの流行は企業・事業活動の様々な局面で難題を課すこととなりましたが、これら難題は一過性の事象ではなく、長期間にわたり各種対応を与儀なくされる事象と考えられます。そのような環境下においては、業務改善を通じた財務・非財務データ活用に向けた基盤整備を図ると共に、リアルタイムモニタリングの実現に向けたデジタルツール活用が不可欠であり、これらを実現するためにも、現地人材の育成や外部リソースの活用を含む大胆なリソース配分の見直しが必要になってくるのではないかと考えられます。

 

図表 《クリックして拡大》

大橋  正朋 (オオハシ マサトモ)
シンガポール事務所 リスクアドバイザリーパートナー
リスクアドバイザリー シンガポール日系企業サービス責任者
日系証券会社およびコンサルティング会社、Deloitte UK海外駐在、デロイトトーマツコンサルティングを経て現職。主に大型PJのPMOとして、ガバナンスモデル構築支援、IPO支援、JSOX推進支援、等に従事。2018年よりDeloitte Singapore Risk Advisoryに海外赴任。主に製造業、テレコムメディア業に対し、東南アジア全域を対象に、日系企業支援を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。内外の寄稿や講演多数。

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。

このカテゴリをもっと見る

トップに戻る