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アパレルに見るEコマース最前線:ZARAがデジタル連動型大型店に店舗を再編、EC化率25%へ虎視眈々

スペイン・アコルーニャにあるインディテックス本社に併設する自社ファクトリー(筆者撮影) スペイン・アコルーニャにあるインディテックス本社に併設する自社ファクトリー(筆者撮影)

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年3月号『変わる売り方 ~アパレルの未来~』に記載された内容です。)

 ZARAを擁するスペインのインディテックス(INDITEX)社は、売上高が3兆円を大きく超える世界ナンバーワンの衣料品専門店だ。「柔軟性」「デジタル統合」「持続可能性(サステナビリティ)」を軸に事業を展開。とくに、「OMO(オンラインとオフラインの完全な統合)」のビジネスモデルを追求し、リアル店舗とECとを一体化して運営し、利便性の提供と、店舗・ECの相乗効果による売上の最大化、在庫の効率化を図っているのが特徴だ。

インディテックスがECをスタートしたのは2010年のこと。ユニクロが2000年、H&Mが2006年、D2C型のファストファッションブランドであるASOSが2000年、BooHooの2006年などに比べると、後発といえる。ただし、もともと有していた物流・ロジスティクス力(世界中に週2回、スペイン本国の物流センターから48時間以内に商品を店舗に納品)や、2009年から実験に取り組み、2014年から導入を開始したRFIDの活用などにより、売上げは急激に拡大。

また、オンラインで注文して店舗で受け取る、「クリック&コレクト」方式を推進することにより、店舗への来店動機として活用。他の商品と出合う接点とするなどして、ライフタイムバリューを高めて、購買頻度や購買点数などを伸ばすことにも成功しており、ECだけでなく、コロナ前までは既存店の伸長も達成。

グループ売上高は2018年1月期に253億3,600万ユーロ(約3兆1,416億円)、既存店売上高が5%増、EC売上高は41%伸び、EC化率は10%となった。2019年1月期に261億4,500万ユーロ(約3兆2,419億円)で既存店売上高が4%増、EC化率は12%、2020年1月期には282億8,600万ユーロ(約3兆5,074億円)、既存店売上高は6.5%増、EC売上高は23%増加し、約4,900億円に。EC化率は14%にまで高まり、成長の原動力になっている。(*記事中の円換算レート:1ユーロ=124円で換算)

 


OMO、在庫効率向上のため実店舗を再編し大型デジタル化


 

昨年6月には、「2021年にかけて最大1,200店舗を閉鎖する」と発表して、実店舗の大量閉店が話題になったが、実はこれもインディテックスの成長戦略だ。

日本経済新聞では「インディテックスが世界で大量閉店を決めたのは、新型コロナで業績不振に陥ったことが引き金だ」という報道も出ていたが、この“減店舗政策”は 実は“既定路線”を加速したものである。

実際、2019年1月期は370店舗を出店する一方で、355店舗を吸収合併して閉店。112店舗を拡張した。さらに、2020年1月期は、307店舗を出店し、それを上回る328店舗を吸収合併して閉店し、87店舗を拡張。期末店舗数は7,469店舗と、前期末に比べて21店舗減少させていた。

インディテックスでは、デジタル時代にマッチした未来の店舗のあり方を模索し、2014年から店舗ネットワークの再編に着手してきた。前述した「クリック&コレクト」や、店舗での返品、さらには、2015年から導入している、インタラクティブ・デジタル・フィッティングルーム、セルフレジなど、サービスの拡充と、デジタル連動型店舗へと移行するには、広い面積と、リニューアルが必要となる。

また、当日や翌日配送など効率的かつスピード配送を実現するために、オンラインからの注文商品を店舗から直接発送する「店舗発送」も2018年から開始している。店舗での作業は発生するが、オンラインストアでは在庫切れになっていたとしても、店舗にあればそこから発送できることで、売り逃しを減らし、在庫の効率化や売上、利益の向上につなげることができる。

これには在庫のストックルームも必要となり、より大型店舗が必要になるというわけだ。ZARAではすでに世界20店舗でオンライン注文を発送する自動ピックアップポイントとして整備しているという。2021年1月期末までに、店舗とオンラインの在庫の完全一元化を実現させる予定で、主要市場では即日または翌日配達の体制が整うことになる。

これらを実現するためには、複数あった小型店舗を集約し、広い面積を持つ大型旗艦店を一等地に構えることが必要になる。在庫の効率化が進み、人員・オペレーション効率も高まるという、一石二鳥も三鳥もの効果が期待できる施策になっている。

並行して、これまで単独、あるいは店舗併設型で手がけてきたインテリア雑貨やホームファブリックのZARA HOMEをZARAと業態統合することで、オペレーションの効率化と、相乗効果によるブランド力の発揮、ライフスタイル提案などにつなげている。

 


商品の魅力的な打ち出しと効率化で



さらに、店舗や商品の魅力を圧倒的に高めるとともに、オペレーションを効率化するには、陳列の数量や作業を減らし、店舗をまるで美術館のようにショールーム化する施策もとっている。

そして、商品タグに記載されたバーコードやQRコードを読み取れば、試着したい商品やその色違い、サイズ違いがフィッティングルームに用意され、ストレスなく試着できたり、そのまま購入や決済まで済ませて、家に配送されるようなスムーズな導線設計をしているのだ。

デジタルサイネージを標準装備することで、ブランドからのメッセージ訴求を強めたり、売れ行きやキャンペーンなどに連動した機動的な情報発信を行うこともできている。

 


オンラインプラットフォームを拡張し、
店舗のないエリアを含めて世界202カ国で商品を販売



ECと全社の売上拡大施策の目玉の一つは、2018年に打ち出した、「専用のオンラインプラットフォームを通じた全世界での商品販売」だ。
世界96カ国・エリアで店舗展開しているインディテックスだが、自社のショップがない国・地域を含め、世界中のどこからでもグループの商材が購入できる体制を構築中。2019年の1年間に中東を中心とした18カ国での販売をスタートし、202カ国・地域に販売網を広げている最中だ。

コロナ禍にあって、インディテックスはこれらの方針をさらに強化してきた。パブロ・イスラ会長は2020年春、2020年1月期のアニュアルレポートの中で、こんなメッセージを発信している。

「過去数か月間、世界中のほぼすべての店舗(期末時点で7,469店舗)が数週間閉鎖され、店舗の統合と、オンラインプラットフォーム戦略がどう加速しているかを観察することができた。今後2年間で、店舗とオンラインビジネスを完全に統合する計画にさらに断固として取り組むことを決定した。

私たちは、8つのブランドすべてにわたってオンラインプレゼンスとRFIDテクノロジーを強化・拡大する。近年の戦略に沿って、今後も大型のハイテク店舗を出店し、既存店舗を拡張・近代化し、お客様にこれらの新しい統合サービスを提供するのに適していない小規模店舗を吸収していく。この戦略は、私たちのグループを変革し、出現する可能性のある新たな機会に備え、完全に統合され、完全に持続可能で、完全にデジタル化された企業になるという目標に近づくものだ」。

2021年1月期の第2四半期では、グループ売上高は37.3%減だったが、EBITDA(減価償却前税引前利払前利益)は14億8,600万ユーロ(約1,842億円)で、56.9%減だったものの黒字を確保している。ECが74%増と大きく伸びたことも要因だ。

店舗数はこの時点で前期末の7,469店舗から7,337店舗へと132店舗減少。2021年2月中旬の公式サイトでの店舗数は7,200店舗となっており、店舗の閉店・再編が進んだことがうかがえる。

コロナ禍で、時価総額ではLifeWearを掲げてアジアを中心に成長中のユニクロを手がけるファーストリテイリングに逆転を許したが、売上高ではまだ1兆円以上の差がある。収益性の高さでも優位性を保っている。

オンラインビジネスの強化に10億ユーロを、技術的に統合された店舗にさらに17億ユーロを投資している最中で、2023年1月期にはオンラインの売上比率を25%にまで高める目標を立てている。3月に発表されるインディテックスの2021年1月期の業績や、今後の方針発表も注目したい。

図表 《クリックして拡大》

 

松下 久美  (まつした くみ)
ファッションビジネスジャーナリスト。kumicom代表。「日本繊維新聞」の記者や「WWDジャパン」のデスク、シニアエディターとして、グローバルSPAや百貨店、セレクトショップの戦略や経営者インタビューなどを取材・執筆。「百貨店ミシュラン(現ミステリーショッパーが行く)」や「この人から買いたい!販売員特集」、社長インタビュー集「CEO特集」なども開発。TGC特別番組では解説を担当。2017年に独立。執筆の傍らセミナーのファシリテーターなども務める。

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