夫婦の相互理解で、 ママ笑顔、子ども元気に 〜仕事と家庭の両方やるのが人生〜

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年9月号『子どもドリブン:未来に挑む企業の芽』に記載された内容です。)


子どもの問題の裏には分かり合えない夫婦が


 

本荘 高濱さんは著書で、子どもの問題は家庭に原因ありと指摘されています。

高濱 長年たくさんの子どもたちと親御さんたちに接して、分かってきたことをお話しします。子どもに何か問題が見られるとき、多くの場合は子育てをする大人に原因があります。基本的にあまりうまくいっていない感じのご夫婦が、割と平均値です。1人生まれ、2人生まれぐらいから、奥さんはもう旦那とは話し合う気もないということが、当たり前のように起こっています。
 だったら、例えば育休を取ればよいかというと、本質はそこではなくて、やはり心を共有できていない、つまり他者に対する想像力みたいなものが足りないのが問題の根幹です。立場や性が違うと、世界観も全く違う。向こうには真っ赤に見えているけれど、こっちは黒と思っている、というくらい違う。それで夫婦をやっていくというのが、今、非常に厳しい状況です。
 ラブだ恋愛だみたいなことからスタートすると、そのままでは絶対に続かない。その次のステップで夫婦として、決意したもの同士として一緒にやっていくと誓うならば、恋愛以上の努力をして分かり合っていかないと、お互い追い詰められてしまいます。
 「なにか言ってもイライラしていてワケ分からん」というふうに妻を捉えてる夫。逆に、「ホントしょうがない」と夫を切って捨てる妻。こうして不幸になっている人だらけ。
 子どものことを何とかしようと思って、カウンセリングなどをやっても、家庭という箱が安定していないと、どうにもなりません。お互い悪気はなくても、夫婦が分かり合えないからガタガタになり、子どもに不安が共鳴・共振していきます。
 そして、やはり母親の安定、安心感こそ、子どもが一番求めるものです。お父さんも大好きですが、遊び相手や尊敬する人としてです。母はもう絶対の存在なので、その母が緊張したり、イライラしていたりすると、世界が曇りがちになって、それがいろいろな症状となって出てきます。




南半球問題=仕事はできても家庭から目をそらせがちなパパたち




高濱 仕事という北半球のための本は山ほどあって、正解やノウハウもたくさん書いてあり、自信もあるかもしれないが、家庭という南半球についてちゃんと自信を持っていますか? 例えば、「たった一人のパートナーを笑顔にできていると言い切れますか」と突き付けると、起業家の旦那たちがうつむくんですよ。
 「それはちょっと言わないでくれ」、「俺はこんな企業をつくったんだから、そこを見てくれ」みたいな感じになるけれど、それは人生観として歪んでいると思います。両方で人生なんだから、両方しっかりやらないと。男性の育休取得や男女の平等とか形を変えて言葉は出てきますが、一番の本質は、夫婦の相互理解だと思います。



本荘 こうしたことを謙虚に学ぼうという男性は少ないかもしれませんね。当初は、花まる学習会でのお父さんの対応に大変苦労されたそうですが。


高濱 それはもう、本当にすごかったですよ。お父さんたちは、お前に教えられるものはない、といった感じでした。今はもう年齢的に教え子世代なんで、ははぁって聞いてくれるんですけどね。


本荘 会社でもそういうスタイルで部下が困っているとか、よく耳にします。


高濱 ある程度は男の性でもあるんでしょうけど、本当になんか、勝ちにきますよね。


本荘 奥さんにも同じようにして離婚になった例も知っています。


高濱 でもずいぶん変わってきたんですよ。やはり上の世代の失敗を見て、このままじゃいけないと。イクメンという言葉は好きじゃないですが、あれが1歩目の寄り添いを示したかなと思います。
 例えば、平日の午前中の講演会に、お父さんが来ることがすごく増えたし、お父さんが送迎することも20年前では考えられないぐらい増えました。今の30代は以前とはかなり違います。少しずつ、少しずつ、変わってきてはいます。




生きる力のある子は晴れ渡ったママから




本荘 ママについてはいかがでしょうか。


高濱 調べると、すごい苦労を乗り越えた人は、お母さんが晴れ渡った人が多い。つまり、お母さん自身が晴れていれば、種である子どもは勝手に力を得て育っていきます。じゃあ無理やり晴れようじゃなくて、Aさんとおしゃべりした後、ヨガに行った後、韓流のドラマを見た後とか、何らか自分がすっきりするカードを見つけ出すのが大事です。
 旦那は、わが子が一番大事なんだから、その子どもにとって最大の関数が妻ならば、「何とかこの人を笑顔にしなきゃ」と、その気持ちがあるだけでずいぶん違うというのが、長年、たくさんの夫婦を見てきて分かったことです。愛の仕事として妻をニコニコにしようと意識が変わるだけで、お母さんが抜けた感じになる。そこが大事かなと思います。
 たった1人でも、話を聴いてくれる人が側にいればずいぶん違います。近くにいれば実の母でもいいのですが、今は孤立して夫婦だけの家族がほとんど。夫の役目は大切です。




地域力が失われたいま、どうするか?




本荘 これだけ家庭が厳しくなっている背景は何でしょうか。


高濱 なぜ厳しいか、簡単に言うと地域が崩壊してしまったから。もともと地域力で支えられていたのが、いまの時代は、孤立した夫婦が子を育て、家庭をやっていかねばなりません。
 賛否がありますが、昔は地域の隣組的なもの、女性の網の目のようなものが張られて、奥さん同士で支えられるといった地域力があった。先輩母さんが後輩母さんに、こうやったほうがいいよとか、あなた頑張ってるね、初めての子のときに私なんか全然そんなできなかったわ、みたいな、受け止めたり、相談したり、かわいがってくれたり、ねぎらいとか繋がりのネットワークがあった。おかげで、ママの心をすくい取ってくれる仕組みがあった。



本荘 コミュニティなど人の繋がりが大切ということですね。花まる学習会ではいかがでしょう。


高濱 やはり、お母さん同士のつながりを持てると、一気にいい感じになります。ママ会や女子会などのつながりが女性には大事で、女の人同士で話すだけですっきりするし、それが身体にいいというか。うまが合う人と話すとなおのことですね。


本荘 コロナ禍でオンラインが注目されましたが、いかがでしょう。


高濱 オンラインコースは、Zoomを日常的に使っているので、保護者会もやりやすいです。働くお母さんたちにとっては、電車の中でも見られる仕組みなので気軽に参加できます。例えば北海道や台湾など、いろんな人が一緒に聞いてるわけで、地域を超えたお母さん同士の繋がりができたり、今までにない広がりがあります。「コロナが落ち着いたらオフ会しましょう!」と盛り上がりやすくなったし、繋がりはむしろ深まったなと思います。これまでにない強みの部分をいろいろ拾って育んでいる感じですね。



幸せな夫婦になるには、一歩踏み込め




本荘 親になるトレーニングが必要な気がします。


高濱 そうですね。でも、子育てのサポートというより、夫婦をやり始めるときがいいと思います。恋愛の次のステップで、長く幸せにやっていくとき、家族愛というか、お互いをすごく親しく思ってる感じっていうか、そういうステージに持っていくことって、学校じゃ一切教えてくれないので。だから、本当にお互いちゃんと分かり合おうとするだけでも、全然違います。
 これまでに出会った幸せな夫婦を調べると、圧倒的に多かったのがバツイチ同士でした。1度痛い目にあって、それなりにそれぞれ学んでいて、2回目は言いたいことだけ言うんじゃなくて、相手には相手の気持ちがあると、そこに一歩踏み込んでいるからだと、現実を見て思います。逆に、そういう経験でもないと学んでない夫婦がなんと多いことか。



本荘 バツイチにならずにできることはありますか。


高濱 妻や夫の自由研究をお勧めしていますが、特にこの自由研究はお父さんにイチオシです。亭主関白が好きな奥さんや、専業主婦で徹底したい方など、いろいろな夫婦の形があります。妻だけが働いて、それでお金は十分だから、あんたハウスハズバンドやってね、でハッピーな夫婦だっている。
 価値観はいろいろだけど、とにかくこのペアで生きるとすれば、パートナーを研究しようと。それを自由研究という言い方をしてるのですが、自分の妻独特の特徴とかあったりするんですよね。
 要するに、子どもがカブトムシを飼育する自由研究をやるように、この人が笑顔になるポイントを書き並べていくと、いろいろ見えてきます。このやり方には、かなり自信があります。僕の妻が、怒ったらカーッとなる人だったのですが、これをやることでポイントが見えてきて、いまはもう夫婦間がめちゃくちゃうまくいってるなと思います。自由研究の成果です。




幸せな家庭のために会社ができること




本荘 最近、ダイバーシティとかいっていますが、ロクに家庭もできていないのに、会社内のマネージャーが務まるのか分かりませんよね。


高濱 そうですね。職場で女性が半分いて既婚だったりすると、もう残酷なぐらい見切りますね。この人、家のことできてないでしょとか、妻をちっとも大切にしてないじゃないとか、ぴしっと見切られる。本当にその辺は厳しいと思いますね。


本荘 子育てや夫婦について、雇用者側からできることはあるんでしょうか。


高濱 あると思いますよ。例えば、リクルートやYahoo! JAPANなどが、子育てに力点を置いた福利厚生の一つで、お母さんたちに見てもらえるオンラインセミナーをアーカイブでいつでも見れるようにしています。
 あとはお母さん相談室。不妊の悩みや、夫とは実はこうだとか、直接の関係者には言いづらいことでも、離れた誰かに言えるとか。これはオンラインのいい点かもしれません。心が楽になる方に向かったセミナーや学び、相談とかですね。



本荘 花まる学習会はそういうコンテンツも提供したことがあるんですか。


高濱 依頼をいただいてコンテンツを提供しています。ウチは、全社員が講演をできるように研修をしています。だから、ウチの社員は夫婦の仲がいいですよ。「あれを知らなかったら、絶対もうとっくに別れてました」とか、「思った以上に、産んだ後ってイラっとするものなんですね」、「頭で分かってるのと、だいぶ違いました。でも、知ってたからすごく楽でした」ということを言っています。講演する側が、自ら役立てている。


本荘 グループ学習などはいかがでしょう。


高濱 案外よその子育てって知らないんですよね。そこで、キャンプに数家族で一緒に行くと、こんなふうに声をかけたり叱ったりしてるんだなど、実際に見ると幅が広がります。キャンプで4家族の子どもを4家族の親が叱ったり褒めたりすると、“村”ができ上がって、すごくいいんですよね。こういう体験は、会社としてもいいんじゃないかなと思います。
 もっと言うと、大切なのは繋がりです。お母さんはお母さん同士、お父さんはお父さん同士の繋がりのよいきっかけになります。




オリジナルの言葉を蓄積し、言葉の力を上げる




本荘 どうすれば多くの社員が講演できるようになるのでしょう。


高濱 僕も10年くらいワンマンで引っ張ってきたのですが、途中から、この人たち自身が本当に力を付けて、この会社じゃなくてもやっていけるようにさせてあげるのが一番いいと考えました。「高濱先生の教室はいいけど、この教室長は・・・」と言われたらアウトですから、各教室長が魅力的になるよう、力量が上がる仕組みづくりをしています。やる気がある人はいくらでもやっていいよ、とチャンスを与え、プロジェクトが次々立ち上がり、ミニ会社が山ほどある感じです。
 会社として一番ここだというのは、言葉の力を上げる仕組みです。本荘さんのような人が保護者だと、格好をつけたり、見栄を張ったりしても、パーンと見抜かれるわけです、瞬間で。だから本当の意味でこの人たちの力量を上げなきゃいけない。それには、感じて考えて言葉にして、オリジナルの言葉をきちんと蓄積することが重要だと考えました。自分が感じたことを、自分の言葉でしっかり言える、そしてしっかりした自分の考えを持つ。
 よくある幼稚園の日報なんかだと、「きょうも無事終わりました」とか書いてありますが、そんなのじゃなくて、ウチは日報に、心に何が響いたかが書けていなければいけません。教育の現場には必ずワクワクする何かが存在する、もう宝物だらけなんです。
 例えば入会時からA君は暗い子だなと思っていたのに、急に今月からニコニコ笑顔になった。どうしたのかと思ってお母さんに聞いたら、単身赴任のお父さんが戻ってきたと分かって、お父さんが側にいるのは大きいことだと感じ、それを日報に上げる。
 日々そうやって見い出して、1カ月で20日ぐらい貯まると、コラムを一つ書けるんですよ。継ぎはぎして自分の思いを軸にして書く、それをコラムにまとめるということをやっています。ここがたぶんウチの一番の強みでしょう。
 社内でコラムコンテストをやっていますが、私は抜かれて置いてけぼりになると思うほどスゴイ人がいっぱいいます。これを積み重ねると言葉が貯まって、講演とか人前でもよくしゃべれるんです。本当の意味でその人が感じたことが、しっかり言葉にされるシステムをつくっていることで、コロナ禍でも今までにない生徒数が来ていますが、そこはちょっとだけ人に自慢できますかね。




自分自身を問い直し、人間力を鍛えよ




本荘 最後に、読者にアドバイスをお願いします。


高濱 最近の講演では「セルフ」、つまり1歩目である自分の幸せや哲学を明確に言い切れますか、と問います。いい学校やいい会社を選び、その中で偉くなるとか枠組みを設定されたゲームに参加することだけをやってきて、素っ裸のゼロベースでの生き方がそもそもない。偏差値合戦で勝ち組に回ると、いい目にあっているような気がするけれど、心は空っぽ。どう生きたいか、自分が一番よりどころにする価値観は何か、それを言語化できない。「特にやりたいことないです軍団」が増産され、教育の大きな問題でもあります。
 まず好きなことは何か。本当は書道や美術をやりたかったけれど、それじゃ食えないからやめとけ、大企業に入った方がいいぞと両親から言われて、あきらめて普通の大学に行ったとか、好きなことに邁進していないことが多い。そこを大切にする、心が震えるのは何か見定めることが一つ。
 もう一つは、じゃあどう生きていくかという哲学です。好きという感性と哲学の両方が、全体として弱いのが夫婦問題にも出てきていると思います。
 その両方がある人は、妻が笑顔じゃなかったら何とかしなきゃと思うし、どうしたのって聞きにいくし、逃げません。「俺だってうまくやりたいと思ってるから、もう絶対に知りたい」みたいに近づいていけば、教えてくれるでしょう。
 ところが多くは、基本は他者が苦手で、切って捨てしまっている。みんな1等なんだからケンカしちゃだめよ、みたいなことになっていて、人間を優しくは育てられるけど、強く育てられていない。同学年の男子同士でゲームをして、そこで点数を上げているとすごいとか、平和な遊びの中で育っていて。他者との交流の決定的な少なさとか、老人も、男女も、障害の人も、いろいろごちゃごちゃ異学年でわあわあ言って、という生活体験がないことが響いてるなと思います。
 何かを一緒にやり遂げたり、仲直りをしたり、いろいろな波の中で生活したり、人間力を鍛える仕組みがない。リアルな人間力が落ちているなと思います。だからこそ花まる学習会は、「メシが食える大人、魅力的な人」に育てる、を掲げて取り組んでいます。



本荘 本日はありがとうございました。

(インタビュアー : 本荘 修二 本誌編集委員)

本荘コメント
 
多くの子どもとその親との経験からの知見を、単なる子育て論を超えて、夫婦、家族、そして人生の本質に迫り、かつ分かりやすく教えていただきました。読者の皆さんは、自分自身や自社にあてはめて、やれることが色々と見つかるのではないでしょうか。自由研究や言葉の力について、家庭や仕事でスグ実践できそうですし、マーケティングに通じる取り組みでもあります。セルフや相互理解については、じっくりとどうぞ。

また、夫婦仲をよくするソリューションとしてマーケティングを刷新して大幅に売り上げを伸ばしたパナソニックの食洗機を思い出しましたが、消費者・ユーザーをこういう視点で捉えることも大切です。


高濱 正伸(たかはま・まさのぶ)
株式会社こうゆう 花まる学習会代表
NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長
1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。
主な著書に、『なぞぺー』シリーズ(草思社)、『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『メシが食える大人になる! よのなかルールブック』(日本図書センター)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など多数。

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