マーケティング:愛や情熱の伝え方

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2022年1月号『わたし的マーケティング論』に記載された内容です。)

日本のお正月といえば、おせち料理は欠かせない。2021年の年始は巣ごもり需要が増加し、東京・銀座の松屋百貨店では前年比140%増の売上、2022年用のおせちは銀座ブルガリ「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」の40万円という高級おせちを発売し話題になった。

パンデミックも2年目、百貨店以外にも新しい挑戦をするなかで、SNSを通じて気になる商品を見つけた。2018年から神奈川県川崎市高津区の商店街、二子大通り商和会の飲食店からなる「二子新地グルメの会」が企画する「二子新地おせちオードブル()」だ。和食、イタリアン、デセール専門店など、商店街内の9店舗が参加し、それぞれの得意分野を生かしたラインナップになっている。

Twitterの投稿でこちらを知ったのだが、実家の家族が用意したこの企画のおせちを食べた人がラインナップを気に入り、後日、店舗に足を運んで商品を購入したことを紹介していた。この企画では、それぞれの店舗のファンが購入することで別店舗の魅力を知る機会はもちろん、他エリアからも足を運ぶきっかけを作り出そうとする面白い試みである。

何よりも商店街をなんとか盛り上げようという店主たちの愛情と心意気を感じるアイデアが素晴らしいと感じた。今はそれぞれの店頭や同エリアのコンビニエンスストアでの受け取りのみだが、今後、地方発送などもできるようになれば地元の商店街の味を楽しもうという客層なども開拓できるのではないだろうか。

※二子新地グルメの会 二子新地おせちオードブル:https://futagoshinchi.com/2022-osechi

 


SNSの強みを生かす


 

SNSが登場してから10年以上が経ち、マーケティングに欠かせないツールになっており、数年前にはインスタ映えという言葉も登場し、商品の質以上に映えることを意識したものや、写真を撮るだけで商品を捨てるという行為があるなど悲しい話も聞くことも事実である。

でも一方で、マスメディアで紹介されずとも、開発サイドの想いを伝える手段ができ、さらに、購入者が友人知人へのクチコミで広めるだけでなく、SNSを通じて世の中に勝手に宣伝してくれる時代でもある。商品にこめた熱い想いを伝え続ければ、きちんと買い手に届く時代になってきていると感じる。

新しい技術やプラットホームの登場により、商品を伝えるための努力の仕方や必要な知識は増えたが、想いをこめて商品を開発し、愛と熱量を持って商品の良さを伝えること。マーケティングの本質、そして、私が大切にしていきたいことは変わらないと感じる。

SNSは時には炎上リスクなどもあるが、正直さ、誠実さと思いやりを持って対処すれば気持ちは伝わる。誰にだって間違いや失敗はあるが、それも含め、きちんと伝えること。嘘がないこと。そんな当たり前のことが人対人だけでなく、企業対人にも求められる時代ではないだろうか。

その後の動きも詳細に自ら伝えられるのが、SNSのメリットだろう。伝言ゲームになることなく、ダイレクトに、ファンの声に触れることができるのもSNSの強みである。だからこそ、世界中の注目企業では、SNSの担当者はマーケティングのスペシャリストやエースが担っていることも多い。

ウェブメディアで編集長を務める友人も、就任から1年以上、編集長自らSNSを毎日更新していた。それだけ情熱と愛情をかけ、手間を惜しみなく捧げられるか、それがマーケティングの基本であることは変わらない。

 


ファンづくり



そんなSNSやデジタルを上手に活用し、マーケティングにいかしている企業として私が注目しているのは米Nike社の動きである。残念ながら日本では同社が発信したプロモーションムービーが炎上騒動もしていたが、ファンへのアプローチ方法は秀逸である。

同社では2017年に、デジタル分野の強化とファンと直接的に繋がり鍵となるマーケットにフォーカスすることを意味する、Consumer Direct Offenseという戦略をとると発表。2020年にはCEOにayPal CEOを務めたJohn Donahoe氏が就任、14年ぶりのCEO交代、さらにアパレル企業のCEOとしては異例のIT業界からの転身ということもあり話題になった。

ここからもNikeが本気でデジタルを活用し、ファンと繋がろうとしている姿勢が垣間見える。その取り組みの一つとして、2016年には同社のスニーカーファンに向けたサイト、SNKRSをオープン、2018年にアプリをローンチ、さらに、SNKRSユーザーの最もコアなファンコミュニティを分析し、NYに約87万人が住むドミニカンのコミュニティと親和性が高いことを予測。

そこで、ドミニカ共和国の国旗に着想したAir Force 1 ‟De lo Mío”を発売することで、コアユーザーへのアプローチに成功して即完売した。またアプリ内ではレアアイテムのスニーカーの販売はもちろん、コラボスニーカーが生まれるまでのストーリーを紹介する他、スナップ投稿や過去のクラッシックなカタログなど多数のコンテンツを提供している。

さらに、アプリ内で印象的なのは、SNKRSアプリ内でシェアされているコーディネート写真である。おそらくAIを使って画像をピックアップしているのだろうが、Instagramのフォロワー数百人~数万人のユーザーまで、フォロワー数の大小ではなく、かっこいい着用画像を探し、コメントで承認をとり、アプリ内でシェアしている。

昨今、フォロワー数が多いインフルエンサーの投稿以上に身近な友人の投稿が購買行動を左右すると言われるInstagramを上手に使っている。ポストをシェアされたブランドのユーザーはますますブランドのファンになるだろうし、新商品を買ったらまたコーディネートを投稿する連鎖を作り出せる。

それ以外にも、2K gamesとコラボしてゲーム内でNikeの限定スニーカーを履けるなど、ファン同士がNikeについて思わず語りたくなるようなリアルとデジタル上の両軸から仕掛けている。これは自分たちのブランドのファンを大事にしているからこそ考えられた施策だろうと感じるし、ブランドを伝えたいから生まれた発想、情熱と愛情を感じる。

わたし的マーケティングとは、こういう地道な努力の結果が後に芽吹くのだと信じている。SNSが登場したからこそ、大事にすべき本質に立ち返る必要があるのではないだろうか。SNSやデジタル、リアルなど様々な角度から、ファンとの信頼関係をどうやって築き上げていくのか、情熱と愛情を持ち、志高く仕事をすることがますます大切であると感じる。

これからも、わたしらしさを大切に、熱のこもった商品をお客様に届けるために、脳をフル稼働させ、知恵を振り絞って伝える手段を考え、誠実な行為を積み重ねていく。


吉田 けえな(よしだ けえな)
ファッション&ライフスタイル コーディネイター
PR会社や百貨店のコーディネーター、雑貨ブランドのディレクター兼バイヤーなどを経て渡米。NY を拠点に世界中で、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事に、バイイングやリサーチを行う。現在は帰国し、商業施設のプランニングアドバイスやポップアップショップの企画立案、デザインイベントやカンファレンスの運営など多岐にわたり、活動中。

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