チャレンジし続けるためには

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2022年2月号『やってみた』に記載された内容です。)


コロナ禍におけるチャレンジ


 

新型コロナウイルス感染症拡大から3年目に入り、2022年の幕が開いた。これまでの2年間で、多くの会社が事業の見直しを図ったり、新しい事業に挑戦を行ったりしてきたのではないかと思う。価値観の変化が急速なこの時代、チャレンジなしにこれからの時代は生き抜けない。

実は私は、2014年に『人生は見切り発車でうまくいく』という本を上梓した。そこではシリコンバレーのスタートアップなどを例に、“完璧を目指さず、まず動くものを”というサービスの在り方などを紹介した。

時代を経て、その手法の重要性が日本でも認知されることになったわけだが、ここで今さら「シリコンバレーでは…」ということを書いても仕方ない。その動きに今ひとつ乗り切れていない日本において、今この時代に、この国で生きていく中で、今なぜチャレンジが必要なのか?について書いてみようと思う。

激動の時代においては、今まで良しとされてきたことが一気に変化する。コロナ禍というのはまさにそういう時代だ。例えば、これまでは「たくさんの人に実際に会って情報を集めることが良し」とされた時代だった。それが、わずかこの2年で「たくさんの人に会うこと」が問題とされる時代が来た。

 


コロナで売上の7割が消滅、2年後のV字回復


 

そのコロナによる社会の変化でビジネスの困難に直面したのが私の会社だった。具体的には、私が代表を務める株式会社ウィズグループという会社は、数百人〜数万人規模で開催するイベント・カンファレンスサポートがビジネスの主軸だったが、ちょうど2年前、コロナ発生の冬から春にかけて、7割ほどの売上が途絶えた。

まさに「たくさんの人に会わせること」をビジネスにしていたからだ。そんな困難の中、新しい事業に挑戦するほかなかったわけだが、弊社はメンバー個々のチャレンジを燃料に事業が蘇った。そして2年が経ってみると、プロジェクト数はコロナ前の年より増加、新しい事業、オンライン配信事業やメタバース(バーチャル空間)イベント運営などを主軸に、新しい世代のリーダーたちが育ってきた。

つまり、私の会社では、個々のスタッフが自分の興味をもとに新しいことにチャレンジすることで、大きな成果が導かれたのだ。その動きによって、社内に生み出された3つの要素を挙げてみる。

新しい分野にチャレンジすることで
1.社員個々の興味関心が明確に見えた
2.新しいタイプのリーダーが現れ、新しいリーダーによって、社外の新しい連携が増えた
3.「カオス」を楽しむ文化が生まれた
 
個々の興味を生かして、社内でどんなチャレンジが生まれたかを具体的にいくつか紹介しよう。コロナ発生後、まったく仕事が途絶えたスタッフたちに「この時代背景で、自分は何に挑戦すると良いと思うか?」ということをともに深堀をし、事業化につなげていったのだ。

我が社のスタッフは決して多くはないが、もともと弊社では5年ほど前から「リカレント教育手当」という、自分で学ぶための費用が支給されており、なにか新しいことに挑戦することを推進してきた。その土台の上に、一気にチャレンジを後押ししたのだ。

具体的にどんな事が起きたか。美しい映像が大好きで副業としても写真を撮っていたメンバーは、イベント配信系のプロの映像ディレクターとなった。普段から趣味でも動画視聴が大好きなメンバーは、コロナ発生後、即デジタルハリウッドに入校し、この2年を経て動画クリエータとなった。そして彼らを中心に多くの外部の連携企業が繋がり、小さくとも質の高い事業づくりができた。

ほかにも副業でゲーム作りをしていたメンバーがVRイベントを指揮したり、元システムエンジニアのメンバーはオンラインイベント内でスポンサーが応援表明を行えるような仕組みを作ったり、まさにそれぞれの好奇心をベースにビジネスになるところまで掘り下げ、コロナ禍の今、社会が求めるイベントの形はなんだろうと、ビジネスに繋げていった。

新しい分野にチャレンジするということ自体が、メンバーの新陳代謝を促し、社内の事業が活性化した。先に書いたとおり、新陳代謝といっても、新しい人を採用したわけではなく、もともといたメンバーの能力が開花したのだ。

 


「何にチャレンジするか」が大切



「チャレンジするということは大切だ」ということは社会ではよく言われるが、そもそも大切なことは、“何に”チャレンジするかということだ。自分がチャレンジしたいと思うことを見出すこと、まずはそれが第一歩。自らの課題を見出す行為を重視する、それが見い出せたことがこの2年間の会社の中での一番の成果だった。

個々の社員が何に興味があり、何が嫌いで、何が好きで、どんなことにチャレンジしたいのか?ということを丁寧に汲み上げる機会となった。

「うちの会社はチャレンジしたいという社員が少なくて」と言っているような上司は、きっと個々の社員の興味・関心に丁寧に向き合っていないだけなのだと思う。

今の時代は課題設定が最も大切だ。ある意味、自分がのめり込むことができて、自分自身の在り方がクリエイティブだと思える課題設定の能力があれば、それを社会に問い、仲間を集めて課題を解決していけば、それは大きなビジネスに繋がる。

少し大きな話をしてしまうと、いまの日本は「クリエイティブな課題設定」を苦手としているため、グローバルでの存在感を失っていっているように見える。

「こういう技術があるから…、こういう最新の素材があるから…」それを元にビジネスにするといった在り方から時代は変わった。「こういう課題を解決し、こういう世界を作ることにチャレンジしたい!」という会社のもとに多くの資金が集まり、多くの人が集まり、そして最新の技術が集まってくる。チャレンジすることはある意味最大の求心力となるのだ。

言い換えると、「成果への評価」の時代から「経過への評価」の時代に変わってきた。この時代は、何にチャレンジしているか、そのプロセスを問われ、プロセスへの共感が意味を持ち、そこに大きなエネルギーが集まってくる。そこで、チャレンジしているということが大きなエネルギーを得られるチャンスなのだ。さて、私の小さな会社の変化の話に戻そう。

個々の好奇心を元に、チャレンジを社内で推進することで生まれた2つ目の現象は、新しいタイプのリーダーが現れたことだった。会社の設定した「これまで通りの形の決まった仕事」に個人の力を当てはめていたときには入社数年目で下のポジションにいたメンバーが、新しい取り組みになると、リーダーになるという現象が起きてきた。

それは新しい取り組みがその人の好奇心から生まれたビジネスで、最も詳しく、そして最も熱中している分野だからだ。そして、新しいリーダーが誕生すると、そのリーダーによって、社外の新しい人々がさらに登用されるという現象が起きた。新しい連携が生まれてきたのだ。

そこでふと思ったのが、チャレンジすることを阻んでいたのは、「これまで通りの形の決まった仕事」の中でポジションの変化が起きないような守りに無意識に陥っていたことではないかということだった。大きな失敗を犯さない、大きな変化が起きないような守りの組織を無意識に好んでいたのだ。

 


カオス型リーダーシップ時代の到来



なぜ日本では、チャレンジする風土が育ちにくいのか。その背景にリーダーシップの在り方があるのではないかと思う。従来の統率型のピラミッド型のリーダーシップでは、社員の個々のチャレンジは絶望的に起きにくい。

また、最近提唱されている「羊飼い型のリーダーシップ」だが、実はこれも背後から逆ピラミッドのスペース内でコントロールされているようなイメージを持つ。羊の群れは外れてはならないのだ。

今の時代、チャレンジを促進する組織において、世界で必要とされる特徴的なリーダーは、私の命名ではあるが「カオス型リーダー」だ。

Weblio辞書によると、カオスとは、「個々の単位で見れば規則に従った秩序ある変化を見せるが、総体で見れば複雑で不規則な予測のできない変化を見せる」現象のことである。基本単位を別個に観察すれば、特定の力学的関係や法則にしっかり則っている、という点において、カオスは「混沌」とか「無秩序」といった意味でもあるが、「ランダム」な状態とは区別される。

今の時代に必要とされる「カオス型リーダー」は、一見混沌・無秩序を生み出しそうな人材を冒険的に採用し、育てている。実は個性的に見える人材も、個々の単位で見れば規則に従った秩序を持っていることを知っているからだ。これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる時代にそういう人材が不可欠なことを知っているからだ。

「カオス型リーダー」はそういった人材に寛容というより、面白がっているようにも見える。余談だが、世界中でインド人のトップが増えている背景にも繋がるような気がする。私はインドの大学院を出ているので、インド人の国民性などは他より知っているつもりだ。

さて、日本で「カオス型リーダー」を生み出すことができるのか?世界で著名なインド人経営者をぼんやりと思い浮かべても意味がない。「カオス型リーダー」になるには、周囲の個性的で無秩序と思える人々の中に、個々の単位で見れば規則に従った秩序があることを認めることが第一歩なのだと私は思う。

あなたは周囲の個性的といえる人々を面白がっているだろうか?楽しく過ごせているだろうか?彼らの秩序が見い出せているだろうか?不思議なチャレンジがあっても寛容でいられるだろうか?

 


「カオス型リーダー」は統率せず、個々に最適な場を与える。



自分の秩序を他に押しつけることを無くすこと、多様な人の居場所をつくること、まずはそこがチャレンジできる風土醸成の第一歩だ。

 


「チャレンジ」することの世界的価値の高まり



先に書いたように、チャレンジしているプロセスに、世界的価値が高まっている。チャレンジしている状態だからこそ、お金も人も集まってくる。だが、チャレンジすると当然のように困難と失敗に直面する。

困難と失敗に直面しようが、予測不能の時代を乗り切るには、チャレンジの過程で周囲の声を聞いて取り入れていくことが重要になるのだ。困難なときにも周囲の声を聞き、失敗したときも周囲の声に耳を傾け、そうやって周囲に応援団を増やしていく。そういう在り方が個人としても企業としても重要な意味を持つ時代が到来した。

困難に直面しても、失敗しても、それでも自分が実現したいことは何かを問い続ける。チャレンジを続けることは個人や企業の「何を大切にしているか」という部分の嘘のない本質が試されているともいえるだろう。

 


チャレンジし続けられることは何か



これから先、グローバルな視点では「カオス型リーダー」がこれからどんどん増えていくだろう。あなたは、ユニークなチャレンジを面白がれる「カオス型リーダー」になれるだろうか?あるいは、「カオス型リーダー」に面白がってもらえる人材になれるだろうか。そして、あなたがチャレンジし続けられることは何だろうか?

 

奥田 浩美 (おくだ ひろみ)
株式会社ウィズグループ 代表取締役。ムンバイ大学(在学時:インド国立ボンベイ大学) 大学院社会福祉課程修了。1991年にIT特化のカンファレンス事業を起業。2001年に株式会社ウィズグループを設立。2013年には過疎地に株式会社たからのやまを創業し、地域の社会課題に対しITで何ができるかを検証する事業を開始。厚労省「医療系ベンチャー振興推進会議」委員、環境省「環境スタートアップ大賞」審査委員長等。 著書に『ワクワクすることだけ、やればいい!』(PHP研究所)ほか。

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