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特別講座「The Digital Marketing Revolution」

写真 Aric教授の講演 (日本マーケティング協会アカデミーホール) 写真 Aric教授の講演 (日本マーケティング協会アカデミーホール)

2022年10月25日(火)日本マーケティング協会のアカデミーホールにて、特別講座「The Digital Marketing Revolution」が開催された。同講座は早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所と日本マーケティング協会の共催。コーディネーターは早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所所長の恩藏直人教授が務め、メイン講演にイリノイ大学アーバナシャンペーン校のAric Rindfleisch教授が登壇した。

同講座の主旨は急速に進むデジタル革命において、アナログ世界が受けている影響を読み解きながら、最先端の研究成果を基にしたデジタル時代におけるマーケティングの要諦を理解することにある。

オープニング講演では「デジタル化とマーケティング」と題し、恩藏直人教授が登壇。恩藏教授は日本が世界のデジタル競争力ランキングにおいて全体の29位と低迷している調査データを示し、AI活用の投資効果に対する意識で日米に差があることを指摘した。他方、日本でも売上改善に向けてAI活用を積極的に推進している事例も増えており、具体的には売り場の管理や顧客の購買行動の分析にIoTやビックデータを活用しているトライアルが挙げられた。続けて近年出版された「マーケティング5.0」を引用し、マーケティング5.0の後半(第8章~12章)はデジタル時代のマーケティングに則した内容であり、それらを実務に活かして実際に売上を伸長させた事例を紹介した。

メイン講演ではAric Rindfleisch教授が登壇(逐語通訳は千葉商科大学の大平進准教授が担当)。「The Digital Marketing Revolution」と題して講演が行われた。Aric教授はマーケティングの定義を確認した上で、需要と供給の交換を通して顧客や社会に価値を生み出す活動が複雑化する要因について言及。その要因は「顧客の不確実性」と「他社との競争意識」の2つにあり、デジタルが急速に進む現代においても挑戦的な課題に位置づけられるとした。しかし現代のデジタルマーケティングの多くがマーケティング・ミックスの4P(Product:製品、Price:価格、Place:流通、Promotion:プロモーション)の枠組みの中で、Promotionのみに焦点を当てている傾向を指摘した。

続いて自身の論文である「第二次デジタル革命」を引用し、第一次デジタル革命は1970年代~2010年代にかけてパソコンを媒介した情報のデジタル化であり、第二次デジタル革命は2010年代以降から現代にかけてデスクトップや3Dプリンターを媒介した物質のデジタル化であることを示した。一足飛びに変化したように思えるデジタル革命は長い時間をかけて社会に浸透したものであり、今でも生活の多くがアナログのままであることを考えると「デジタル革命」はまだ端緒に就いたに過ぎないという。つまりマーケターはデジタル革命が「始まりに過ぎない」ということ意識しなければならない。

Aric教授はRevolution(急進的な革命)とEvolution(緩やかな進化)は似ているがその違いは鮮明であるとした。今日デジタル化された「Searching(探索)」「Communicating(コミュニケーション)」「Working(働き方)」などは前者に該当し、「Sleeping(睡眠)」「Eating(食事)」「Washing(洗濯)」など人間の基本的動作は後者に含まれる。私たちの日常を振り返ると多くが旧態のアナログのままであることに気づく。

こうした点を踏まえ、Aric教授は「アナログにおけるデジタルのインパクト」という枠組みでデジタル時代のマーケティングの要諦を提示する。この枠組みではまず以下のように、アナログの利点が優位な項目とデジタルの利点が優位な項目を整理している。

・アナログの利点が優位な項目(Analog Benefits)・・・(A)

「Sociability(社交性)」「Tangibility(知覚性)」「Excitability(興奮性)」「Anonymity(匿名性)」

・デジタルの利点が優位な項目(Digital Benefits)・・・(D)

「Affordability(手頃な価格で入手)」「Visibility(視認性)」「Conversability(対話の可能性)」「Trackability(追従性)」

続いて上記の(A)と(D)の比重に基づき、4つの領域(Domination、Resistance、Synergy、Transformation)に分類してマーケティングを思考することを提唱した。

 

・Dominance (D) > (A)

デジタル支配:デジタルがアナログよりも好まれる領域。

例としてIntractable.com (https://www.instructables.com)がある。デジタルメディア上で様々なノウハウを知ることができる。

 

・Resistance (A) > (D)

アナログ抵抗:アナログがデジタルよりも好まれる領域。

例として現代でも多く存在する古本屋がある。デジタルでは代替できない良さがある。

 

・Synergy (A) × (D)

アナログとデジタルのシナジー:デジタルがアナログを強め、アップグレードする領域。

例としてFreewrite (https://getfreewrite.com)がある。わざと単機能のデバイスにすることにより「書く」ことに専心させる。

 

・Transformation (A) +/- (D)

デジタルによるアナログの変容:デジタルがアナログの様式や機能を変化させる領域

例としてPotato parcel (https://potatoparcel.com)がある。メッセージの書かれたポテトが配送されるサービスで、ジャガイモは食べる物から$15を稼ぐメディアに変化した。

 

Aric教授は上記の4つの領域を踏まえ、デジタルの影響を受けた4Pは以下のように移行するだろうと述べた。

・Productは企業の創造から共創へ。

・Promotionは製品を売ることから物語を語ることへ。

・Placeはロングチャネルからショートチャネルへ。

・Priceは固定された価格から柔軟性のある価格へ。

 

講演の最後にはまとめとして、デジタル革命はいまでも現在進行形の事象であること、マーケティングの基礎は今でも有効であるがデジタル時代は修正されうること、企業と顧客の役割は変化していること、を述べ締めくくった。

講演後は活発な質疑応答が行われ、盛会のうちに終了となった。

 

<本講演に関する情報>

Aric教授が所属するイリノイ大学では「Cousera」(https://www.coursera.org/illinois)という無料のオンライン講座を提供しており、30万人以上の方が受講をしています。Aric教授によるデジタルマーケティングのコンテンツは以下の2つがあります。ご興味のある方はご登録の上、受講いただけますと幸いです。

・The Digital Marketing Revolution

https://www.coursera.org/learn/digital-marketing-revolution?specialization=digital-marketing

・Marketing in a Digital World

https://www.coursera.org/learn/marketing-digital?specialization=digital-marketing

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