マーケティングホライズン2022年10号

医療系スタートアップの育成・支援に取り組む

Note

今回の話題で触れたVenture Creation Modelでは、起業時点で高度な科学的な知識に基づいた製品企画と、その開発計画を実現する経営能力が必要となる。しかし、日本では実際には一度も会社を作ったことがない研究者と、ビジネス経験があってもスタートアップ未経験のビジネスパーソンが気合だけで会社登記をしているのが現実だ。国内でもいくつかのVCが主体的に会社を登記し、初期のマネジメントを担う体制を取りつつあるが、その規模感、数ともに米国ボストン、サンフランシスコ・ベイエリアのそれと比べると極めて少ないと言える。

現在政府のスタートアップ支援策の下で1,000〜3,000万円/年程度の事業化支援の助成金は潤沢になりつつあるが、事業計画の立案支援がまだ追いついていない。我々は2018年から医療系のアクセラレーションプログラムを運営し、起業を目指す研究者、ビジネスパーソンの教育を行ってきた。これをさらに効率的に運用するために、以下の支援が必要と考えている。

①実験を伴う事業評価:各種疾患の臨床検体(がんなどの病態研究用にバンキングされた患者さん由来の生体組織)や、医療情報を用いた事業計画の評価と、実証実験基盤(インキュベーター)の構築。
②プロによる開発計画評価:適切な臨床開発計画を立案するための、大学病院の臨床開発支援部門による開発プロトコル立案支援。
③プロによる初期の経営支援:医療系スタートアップおよび、グローバルでの投資経験者による、国内の研究成果を活用した事業計画立案支援と、初期の経営支援。

我々は2015年より日本初のがんゲノム診断をはじめ、①を実現するための合弁企業を京大病院と様々な業種の企業との合弁で事業化に関わってきた(株式会社KBBM、新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社(PRiME-R))。さらに、インキュベーター設備を整備し、安価に実証実験が可能な仕組みの構築を進めている。②については病院付設の臨床研究支援組織の一員として整備を進めている。さらに現在、③の支援を行うため、映画の製作委員会のような「プロデューサー」集団を組織し、グローバル市場で活躍するスタートアップの育成を目指している。特に①と③についてはボストン、サンフランシスコ、サンディエゴの提携先からも日本の技術の事業化への強い期待を受けている。これらの活動を通じて、日本の環境で実現可能かつ、世界のヘルスケアに貢献するもう一つのVenture Creation Modelの構築を目論んでいる。

求められる医療系スタートアップ支援策

 

謝辞:本稿並びに米国でのVenture Creation Modelと日本での実現可能性について深いご助言を頂いたDevang Thakor氏、渕上欣司氏に感謝申し上げます。

村山 尚武(むらやま なおたけ)

ベイエリアを拠点にグローバルにスタートアップの経営を支援。日本の銀行を経てスタンフォード大学でMBA取得。ライフサイエンス・ヘルス、SaaS・AI等に関わる豊富なスタートアップ立ち上げ・資金調達・経営経験を持つ

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