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注目の新刊

『コトラーのマーケティング入門』(原書14版)
Philip Kotler他 著 恩藏 直人 監訳 丸善出版

本誌の読者であればコトラー教授による著作に全く触れたことがないという人はほぼいないだろう。本書はその中でも優れた入門書として定評のあるテキストである。本書を含め、コトラー教授のテキストは改訂を重ねるたびに最新のトピックスや事例が盛り込まれ時代に即応した内容となっている。本書でも、顧客エンゲージメント、AIやビッグデータ、オムニチャネル、持続可能性といった現在のマーケティングを考える際に避けては通れないトピックスが取り扱われている。このような内容の新鮮さは本書の魅力の一つであるが、それ以上に本書の魅力を高めているのが教材としての質の高さである。

まず、本文の要所と図表に付けられた筆者のコメントが非常にタイムリーに読者をガイドしてくれる。豊富な事例はともするとそれに目を奪われて何を学んでいるのかを見失いがちだが、この一言がマーケティングの全体像へと読者を引き戻してくれる。細かなことだが、これによってあたかも教員がそばにいてくれるような読書・自習経験ができる。

また、各章の途中および末尾に掲載された演習問題も従来のテキストのものとは一線を画している。その違いを端的に言うならば、従来のものが「考えさせる」問題だったのに対し、本書の問題は「手と口を動かす」問題であるということである。大学で教えていると、授業のテストでは良い点を取るのに、ゼミなどで演習的な課題に取り組ませると授業で学んだ知識を使えないという学生が少なくない。言うまでもなく、ある概念やフレームワークを「知っている」ということと「使える」ということは全く異なる。本書にはこの使える知識を身につけるための工夫に溢れた問題が豊富に収録されているのである。

本書の「はじめに」にある「本書ほどマーケティングに命を吹き込むテキストはない」という宣言は決して偽りでも誇張でもない。唯一の欠点は価格の高さであるが、学習成果という観点から考えればそれに見合う価値のある1冊である。

Recommended by 青山学院大学経営学部 教授 芳賀 康浩

 

 

『広告ビジネスは、変われるか?』
テクノロジー・マーケティング・メディアのこれから
安藤 元博 著 宣伝会議

広告業界にデジタル化という大きな変化が訪れていることは誰の目にも明らかである。本書がユニークな点は、単にマス媒体がインターネットに置き換わりつつあるという現象ではなく、デジタル経済下において、企業の提供価値が「モノ」から「サービス」へ移行しつつある点を指摘しつつ、広告会社のビジネスモデルはこうした変化に対応しているのだろうか、と問いかけている点にある。

著者はまた、「企業と生活者の創発による『価値創造』」が広告の目的であると考え、前述のようにモノからサービスへの変化に対応して、広告会社は「サービスとしての広告」に変化しなければいけないと主張する。

本書の読みどころの一つは第5章にある。ここでは上記の「サービスとしての広告」に広告会社がなぜうまく転換できないでいるかの説明がなされている。広告業のサービス化とは、「枠」取引から、広告の「効果」に取引の主軸をずらしていくことだ、と著者は述べる。

このために著者は二つの提案を出している。一つはデジタル広告とマス広告を統合された基準で扱うこと、もう一つはプランニングとバイイングに一貫性を持たせることである。広告会社がうまくサービス会社に転換できない理由はまさに、この二つを解決するテクノロジーが実現できなかったためである。しかし、この問題は現在新たなシステムとデータによって解決されようとしている。

最終章である7章において、安藤氏は広告産業の特長とは、マーケティング産業・クリエイティブ産業・メディア産業・テクノロジー産業という4つの産業形態が融合している点であると説いている。また、広告は市場社会において、企業と消費者の価値創造の中心にいる存在であるとも言う。本書が読み手である広告関係者に元気を与えるのは、ともすればネガティブな評価を受けることもあった広告にポジティブな社会・経済的役割を付与した点である。この意味において本書は広告関係者にとって読むべき本の一つになるだろう。

Recommended by 中央大学名誉教授   田中 洋