ハンドメイド市場の盛り上がりからみる消費者の目線

盛り上がる「ハンドメイド市場」
いま、ハンドメイド市場が盛況だ。デザインフェスタ、クラフトフェアまつもと、もみじ市などをはじめとし、いわゆる「手作り市」と呼ばれるイベントが全国各地で頻繁に開催されている。

と同時に、作品をインターネット上で簡単に売り買いできるC to Cオンラインハンドメイドマーケットもここ3年ほどで急激に伸びてきた。代表されるのは「minne」、「iichi」、「Creema」、「tetote」などだ。なかでも「minne」は2015年2月にテレビCMの放映が開始され、5月にはアプリが累計200万ダウンロードを突破するなど勢いに乗っている。

衣服、アクセサリー、バッグ、家具などさまざまなジャンルの手作り品が売り買いされており、「minne」では5月時点で取り扱いアイテム数が110万点を越えたという。『ホビー白書』(一般社団法人日本ホヒ゛ー協会)によると、ホビー市場全体の市場規模は1兆9,076億円。うち編物、織物、趣味工芸、洋裁・和裁、日曜大工、書道などのクラフト市場は8,673億円と推計されている。ちなみに、ホビーユーザーは4,696万人で、クラフト関連の活動を行っているのは2,141万人だといわれ、その規模は年々拡大傾向にあるようだ。

ファストファッションへのアンチテーゼ
ではなぜいま「ハンドメイド」なのか。

ファッションの世界においては、2000年以降、ユニクロやH&Mなどに代表される「ファストファッション」が全盛を極めた。流行を取り入れたものが安く買えるファストファッションは、景気低迷中の日本社会において「より安く」という消費者のニーズに合致したといえよう。

だが、ここ数年で徐々に流れが変わりつつある。多くの人が同じものを持ち、クローゼットの中はファストファッションだらけ。モノが過剰に溢れる状況に疑問を抱き、既製品にはないオリジナリティやストーリーのあるモノを求める消費者が徐々に増えてきているのだ。そんな消費者たちに注目されたのが、世界にひとつしかない、作家の感性と技術が詰め込まれたハンドメイド品だったのだろう。

ハンドメイドだけで食べる「プロ作家」も増加
かつてはハンドメイドというと、「お母さんが趣味で作ったもの」というような位置付けがあった。だが現在におけるハンドメイドは、その枠を優に超えている。ハンドメイド市場を覗くと、独創性が高く、ここはセレクトショップかと思わせるようなハイセンスで趣向を凝らした作品がずらりと並ぶ。

インターネットの普及に伴い、これまで業者にしか手に入らなかった材料も個人で簡単に買えるようになったことも相まって、素材にこだわったクオリティの高い作品が次々と生み出されている。価格も安価なものから高価なものまで千差万別だ。“お母さんの趣味時代”のハンドメイド品は、おそらく材料費がペイできる程度でよいと考える作り手も多かった。

しかし、いまは専業(=プロ)で作品を作って生活している人も増えてきており、木工やジュエリーなど比較的単価の高い作品を多く扱う「iichi」では、年間1,000万円を売り上げる作家もいると聞く。一方で、子育てをしながら空いた時間で1,000円程度のハンドメイド品を作り、扶養範囲内の月8万円程度を稼ぎ出している主婦も多い。

個人でやっているため売り切れ状態が続いたり、発送まで時間がかかるケースも多々ある。価格が決して安くなくても、スピード感がなくても、それでも「買いたい」という人が増えてきている現状が、この売り上げに如実に示されている。

ストーリーのある作品に感じる価値観
ハンドメイド品を買い求める人たちには、既製品への飽きと同時に、「顔が見えるものを買いたい」という心理も伺える。数年前から、生産者の顔写真とともに名前が記載された野菜などがスーパーで売られているのをよく見かけるようになった。「どこで誰が作ったのか」を意識する消費者が増えてきていると推測されるが、ハンドメイド市場にも同様のことが起きている。

どこでどんな人が、どんな思いを込めてこの作品を作っているのか。作品の裏にあるストーリーを感じ取り、そこに付加価値を見出す人が増えてきているのではないだろうか。また、ハンドメイド市場のコミュニケーション面にも注目したい。リアルな場である手作り市では、直接作り手との会話を楽しめる。

一方オンラインのハンドメイド市場にはメッセージ機能があって、LINE感覚でやり取りが可能だ。作り手側も購入者側も、それぞれ直接コミュニケーションを図れること自体を楽しんでいるというのがハンドメイド市場の特徴だ。購入者にしてみれば、どんな人がどんな思いで作っているのかも含めて価値を判断でき、安心感を持って作品を購入できる。

作り手からしてみれば、どんな人が自分の作品を気に入って買ってくれたのかがダイレクトに伝わる。この直接的コミュニケーションは、「作品のストーリーを感じ取る」上でも大きな役割を果たしており、活況化するハンドメイド市場の一因となっている。

スマホで簡単に手に入る手軽さも大きな要因
ハンドメイド品は作り手の感性、込められた思い、培ってきた繊細な技術などすべてが詰め込まれた、いわば芸術作品。ものを見る目が養われてきた消費者たちはいま、そうしたハンドメイド品に大きな価値を感じるようになってきている。

同時に、オンラインのハンドメイド市場が活況化してきて、これまで趣味で作ってきた人たちも自分の作品を簡単に販売することが可能となった。スマホアプリで手軽に売り買いできるカジュアルさと、ストーリーのあるものに価格だけではない価値観を見出している消費者のニーズとが合致して、いまのムーブメントが起きているのだと思う。

「安いものをたくさん」から、「世界にひとつしかない、こだわりのあるものを少しずつ」。この流れは、これからもしばらく続いていくのではないだろうか。

大勝  きみこ   (おおかつ  きみこ)
フリーライター&エディター
月刊誌・企業広報誌などの編集を経て、2014 年よりフリー。ハンドメイド関連、ライフスタイル、育児等の書籍編集・執筆に携わるほか、「東洋経済オンライン」にて働く母親向けの記事を執筆中。

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