アジアのエンタメ文化を中国から世界へ

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年7月号『創る中国:文化・エンタテインメント編』に記載された内容です。)

「もっと日本のためになることをやれ」。

これが日本政府高官だった父の口癖でした。芸能界の仕事、音楽プロデューサーの仕事を認めていなかったからです。そんな父でしたが、その父の古い友人関係から、突然、中国文化部から、「中国のエンタテインメント産業はこれからなので手伝ってほしい」と頼まれ、CCTVや湖南TVの人間と会い始めたのが2009年10月のことです。


すぐに「天天向上」という湖南TVの人気バラエティ番組のプロデューサーと会い、とんとん拍子で日本文化の紹介コーナーを立ち上げました。「モーニング娘。」や「Winds.」などの芸能人のほか、文化人も紹介しました。


そして、番組プロデューサーがオーディション番組をやりたいということで、番組作りのお手伝いをして、13歳~21歳の11人を選んだことで、男性アイドルグループのプロデュースを任されました。


次に関わったのは、同じく湖南TVの「我是歌手」という中国のトップ歌手が歌唱力を競う番組です。最初に担当したのが男性デュオ「羽泉」のプロデュースでしたが、運よく優勝させることができました。ネットまで入れると1放送ごとに5億人が観ているというお化け番組でしたので、日本では味わえない醍醐味がありました。


さらに、ゲーム最大手のQQゲームや中国のドラマ、映画の音楽まで業務を広げています。その過程では、未来のエンタメ文化を創る思いを共有できた大手ドラマ制作会社「慈文メディア」代表とも新しい会社をスタートさせています。


2017年には、その新会社として漫画「花影」を発表し、同作に登場するアイドルグループ「Odyssey」のリアルメンバーを募集。プロデュースをしています。


中国は今、ものすごいスピードで変化しています。大げさではなく、2週間ごとに何かが新しくなっているという感じです。特にエンタテインメント業界は3年ぐらい前に一気に若返りました。上の世代はどんどん引退し、20代~30代の人が中心になって新しいものが生まれています。そんな中国の原動力は、日本の文化に触れて育った若者です。


有名俳優が高額のギャラを目当てに出演するだけの映画は当たらなくなり、若者の感覚を取り入れたネットドラマが台頭したり、E-SPORTSの優勝賞金が世界一になるなど、若者文化が大きく開花。それに莫大な資本が投入され、すさまじい勢いで発展しています。それらを支えているのが巨大な産業と化したIT産業です。


中国で仕事をする上で重要なことですか?それは第1に若い中国人を大事にすること。とことん面倒を見たり、自分にはできない仕事をしてくれるスタッフに感謝する姿勢が重要と感じます。次にスピード。話があったその瞬間に結論を出すスピード無しでは物事は進みません。「ちょっと待って下さい」ではその仕事は次の人に行ってしまいます。


日本人はまじめで、些細なことにも延々こだわりますが、中国での仕事は60%ぐらいの完成度で前に進め、後は進みながら直していくというスタイルです。ある意味ではアップルの戦略などもそんな中国スタイルを真似ているのかもしれません。


陸続きのため、国同士で常に戦いの歴史を繰り返してきたヨーロッパは、中国同様、歴史的に戦いへの強さ、民族の強さ、敗けない強さがあります。フォルクスワーゲンは1980年代から中国で商売をしていますが、彼らは中国市場に対してしたたかに対応しているように見え、日本とはまったく違うと思います。


現在の中国で存在感がある日本関連の話題は、漫画、アニメ、医療、化粧品ぐらいです。車メーカーも頑張っていますが、EVへのシフトにより存在感の低下は否めません。ダイキンや日立エレベーターのようにシェアを獲っている業界もありますが、B2Cのビジネスでは日本の存在感は無くなりつつあります。


中国でのビジネスは不確定要素があります。日本企業が受注していたEV大手のバッテリーを外資であることを理由に認めない、というニュースも流れました。自国製品を使うように中国政府が指導した結果です。


そんな中国ですが、中国でなければできないことが山ほどあります。今後は日本の若いクリエイター達に、海外、特に中国から仕事を得られるような環境を創っていきたいと思っています。


創る中国は、間違いなく、今や世界の中心になっています。日本や韓国も一緒になり、アジアのエンタメ文化を世界に発信していくべきです。これからは欧米の時代ではなく、アジアが中心の時代となるでしょう。その中心には、中国がいるはずです。
 



鎌田  俊哉  (かまだ  としや)
香港悦音堂有限公司  代表、東方物語文化伝媒(天津)有限公司  総経理
1958年8月東京世田谷生まれ。多数の男性アイドルグループ、kiroro、MISIA、倉木麻衣のほか、米国のJonas Brothers、韓国のBOYFRIENDら外国アイドルの音楽プロデュースを担当。2009年より中国に業務を拡大し、歌手や音楽番組のプロデュースだけでなく、映画、テレビドラマ、ゲームなどの音楽制作も手掛ける。音楽監督を務めた2017年末公開の映画『前任3:再見前任』は19億元(約323億円)を超える興行成績を記録。プロデュースを担当している歌手は、中国NO.1デュオの羽泉、R&Bの歌姫・張靚穎、国民的歌手の韓紅、高校生アイドルOdysseyら多数。中国でカバーされているプロデュース曲は500曲を超え、特にkiroroの「長い間」「未来へ」は、「日本人がカバー曲を歌っている」と言われるほど、中国に深く根付いている。

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