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世代論から読みとくZ世代のお一人様消費の実態

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年12月号『中国のお一人様経済圏』に記載された内容です。)

全世界的に今、話題となっているZ世代は大きく中国の消費をも変えようとしている。しかし、その消費行動の基本となるものはその育ってきた環境に大きく左右される。日本や欧米と違うところは、Z世代のほとんどが一人っ子であるということだ。そしてその両親は多くが一人っ子ではなく、兄弟のいる世代なのだ。

今回は中国におけるY世代、Z世代をマクロデータで世代論分析を行いながら、Y、Z世代の親との関係性も含めることで、今流行している中国のお一人様経済の中に潜んでいる消費行動を考えていく。

 


中国のY、Z世代はほとんどが一人っ子:数字から見る中国の世代構成


 

まず、ざっと中国の人口と世代構成を確認すると、2021年現在国連のデータでは、中国の全人口は約14,4億人となっている。次に人口ピラミッドを見ると、30〜34歳のグループが男女ともに最も多いことがわかる。このグループはいわゆるY世代である。Y世代とは一般的には1980〜1994年に生まれた世代のことを言う。しかし中国では80年代に生まれた世代を80后(バーリンホウ)と呼び、90年代に生まれた世代を90后(ジョウリンホウ)として区別している。

 

◆中華人民共和国の年齢別、男女別人口プラミッド(2019):単位10万人

*WWW.un.org統計 よりセンシングアジア加工


これらの世代は1979年の一人っ子政策が施行されてから生まれた世代である。ここで注目すべきは人口の多いグループはほとんどが一人っ子であるということだ。80后は約2,2億人、90后は約1,9億人, 00后(2000年以降の生まれ)は約1,9億人である。

今回は80后をY世代、90后をZ世代と読み替えて考えていきたい。2016年に一人っ子政策が廃止されるまで、多くの子供は一人っ子である。その数はざっと6億人(Z世代2,6億人、Y世代3,4億人)だ。

つまり全人口のうち約4割が一人っ子で構成されているということだ。これからの中国を牽引する若い世代の中核のほとんどが一人っ子であるというのはまず押さえておくべきポイントといえる。一人っ子として育ってきた環境では兄弟でおもちゃを共有することもなく、お兄さん、お姉さんのお下りを使うという経験もない。中国ではおひとり様経済の基礎はこの一人っ子消費の上に成り立っているといえる。

 


Y、Z世代の両親は兄弟のいる中で育ってきた世代



次にY、Z世代の親の世代を考える。彼らの親の平均結婚年齢を26歳(2015年中国幸福婚姻家庭調査報告による1960年代生まれの平均結婚年齢から引用)とすると、Y世代の両親は現在53-67歳、Z世代の両親は37-52歳である。

ここでのポイントは多くの両親には兄弟がいるということだ。この親世代たちは、自分たちの子供を育てる時に、自ら育ってきた環境とは違う、一人っ子という環境で子供を育ててきた。Y、Z世代の両親グループも人口ボリュームは大きいが、Y世代の両親の多くは定年を迎えているという点も指摘しておきたい。

中国では一般的に男性は60歳、女性の管理職は55歳、一般女性は50歳で定年を迎える。Y世代の両親はすでにその多くが定年後の生活を始めている。しかしZ世代の両親はまだまだ働き盛りだ。

私が注目するY、Z世代の世代間の違いはここにある。自ら一人っ子として自由にそして大事に育てられてきたが、そろそろ親の面倒を1人で見なければいけないという現実に直面し始めるY世代とまだ、それを気にしなくて良いZ世代では行動に変化が生まれてくるのは当たり前ではないだろうか。

 


中国TVドラマから見えてくる親子の関係性


 

  • この親子の関係をうまく表現しているのがNetflixで話題の中国ドラマ「働く女子流ワタシ探し」
    (下一站是幸福 Find Yourself)


これは2020年に放映された42話の物語である。上海に住む32歳のキャリア女性が10歳年下の部下と恋に落ちる。しかし現実に目を向けると、定年した父や母の今後を考えながら、38歳の社長との恋愛に傾いてしまう自分との葛藤を描く物語だ。多くの場面で家族全員で大皿の料理を囲む食事シーンがある。

両親が娘におかずを取ってあげるシーンなどを見ているといかに子供に対して最大限の愛を提供しようとする親の姿が垣間見える。また父がアルツハイマーと診断されて、早く結婚して孫の顔を見せてあげたいと考える娘の苦悩が見え、本当は好きでもない年上の社長との結婚を考える娘の姿はやはりY世代の自らの自己実現と家族、特に年老いた両親を大事に思う気持ちとの葛藤が上手く表現されている。

30歳を超えてまだ独身でバリバリ仕事をしていても、やはり親の老後を考えると自分のキャリア、人生よりも、両親からの期待に応えたいと思う気持ちに揺れ動くY世代と、自分のことだけを考えていれば良いZ世代である彼氏の自由なふるまいを使って、世代の違いをうまく表現している。

 


Y、Z世代の違いとは



1)中国の弱かった時代を経験したY世代、強くなった時代を育ったZ世代

では中国のY世代とZ世代のお一人様消費はどこに違いがあるのだろうか?「独身貴族」とも言われる彼らは、日々の暮らしの中で経済的プレッシャーを受けることはないばかりか、親、祖父母の世代からの経済的支援があり、その消費力は往々にして収入のレベルを上回る。またこの層はより洗練さを求めることから、その消費が新たなトレンドになり、他の世代に影響を与えているいう点が重要だ。

ただこの独身貴族の中でも、Y世代は前述したように、現実問題として親の老後を気にする時代に入ってきた。そしてY世代とZ世代の考え方を大きく変えるポイントは自分の国、中国に対する考え方ではないだろうか。

Y世代が育ってきた1980年代はまだ中国は発展途上国の仲間に入っており、暮らしの中でも欧米諸国に比べて貧しいという暮らしを体験している。だからこそ、日本製品や海外ブランドに対する憧れが強い。

しかしZ世代になると、生まれてすぐにデジタルの世界で生きている。この分野はすでに中国が世界をリードしていると言っても過言ではない。現金を使わずに携帯で買い物をするのが普通だと感じているのがZ世代だ。彼らにすると、日本や欧米に行ってアリペイやWeChat Payが使えないことは不満というよりも、優越感を感じることにつながっているのではないだろうか。

つまり、Y世代とZ世代の違いは自分の国に対する自負心の違いではないかと推察している。実際に弊社が今年6月に行った調査(センシングアジアによるZ、Y世代女性意識調査。中国Tier1., 1.5, 2都市にて実施)では、結婚式で何を着るのかという問い対し、Z世代は中国の伝統的な赤いチャイナドレスだけを着ると答えた。

これを聞いたY世代の女性は驚き、彼らの世代ではまず白のウエディングドレスが主で、お色直しでチャイナドレスというのがメインだったとのことであった。この10年で大きく考え方が変わったようだとY世代の女性は話してくれた。これも愛国心、自負心の高まりを示す一つの事実だ。

2)スタバに憧れるY世代、ローカルカフェに通うZ世代

Y世代にとってはスターバックスでお茶を飲むことは一つのブランドステータスだ。今回紹介したドラマでも、会社で残業をしている時の差し入れとして使われていたのがスターバックスであった。この差し入れで必ずコーヒーが使われるのも若い世代の特徴といえる。

ただ、これがZ世代のシーンになると、スタバではなくローカルブランドのコーヒーショップが舞台になる。ちなみにY世代の女性で子供がいる家庭では、今年の中秋節でスタバの月餅が人気だったようだ。中の餡は抹茶クリームとのことだが美味しいけど高い(1個700円程度)と。でも子供に食べさせたいので1個だけ買ったという話が印象的だった。一方でZ世代にはほとんど関心がないようであった。このようにY世代とZ世代では消費の現場で大きな違いを引き起こしている。

 


Z世代のお一人様経済を支えているのは実は両親だった


 

  • 仲の良い親子を保ちながらも、自分らしさを発揮するには外でのお一人様消費が大切と考えるZ世代


このようにY世代とZ世代には大きな考え方の違いはあるのだが、一人っ子世代であることは共通している。多くがまだ独身であるZ世代は自由な環境の中で、親の世代の事を心配することもなく、愛国心を持ちながらも、今の世の中では金持ちになるのは親の世代よりは厳しいという現実も感じている。不動産や株式バブルの恩恵を受けたのがY、Z世代の両親であり、子供たちはもう二度と自分たちにはないという現実をしっかりと認識している。

そういう中でどう自分たちは生きていけばいいのかを模索しているのが今のZ世代お一人様といえる。一方、親子関係は明らかにとても仲が良い。親の側も金銭面、心理面での支援を惜しまないし、子供の方も、親からの支援については素直に受け入れているようである。

Z世代にとって、家では大皿料理を囲んでみんなでご飯を食べながらも、外では誰にも気にせず表現するお一人様消費は欠かせないものとなっている。そして彼らのお一人様消費は、その両親の財政的支援なくしては成立しないと考えられる。特に上海などの1級都市では顕著だ。生活コストの高い都市部では親と同居するか、親の持つマンションに1人で住みながら、上手にお一人様消費を楽しんでいるのがZ世代の現実である。

 


まとめ



今回、若い世代のお一人様経済を考えていく中で、まずは中国という国の特殊性、単に独身者ということではなく、一人っ子政策という他の国にはない制度のもとで生まれてきた世代の人口構造に着目した。そして次にその中でY、Z世代がどういう考えで行動しているのかを探り、行動背景に両親との関係性があるという洞察を行った。

今後、人口の4割を占める一人っ子のY、Z世代が中国の政治経済を引っ張る中心的な世代となることは、中国だけでなく世界全体にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。一人っ子世代が創り出す中国の今後に注目していきたい。


藤野 晴由  (ふじの はるよし)
株式会社センシングアジア ディレクター
元Jフロントリテイリング株式会社 常務取締役。大丸東京店店長や全社企業戦略、M&A、デジタル、海外戦略など担当し、退任後はシンガポールで事業展開を行うなど、アジアマーケットのリテールに強みを持つ。現在は東京を基点にセンシングアジアに参画。

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