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機能美で独自のポジションを築いた水沢ダウン

繊維業界誌の記者をしていた頃、アパレル全般をジャンルに関係なく担当していた。スポーツも担当のひとつで、ほとんどのスポーツブランドの展示会と決算会見に7年ほど出席し続けた。だから、2008年の水沢ダウンのデビュー展示会も、この目で取材している。

デサントという会社は良くも悪くも真面目でお堅い印象で、商品の機能面は申し分なくとも、当時はセレクトショップを振り向かせるような洗練さとは無縁だった。だから、機能美がそのまま形になったようなミニマルで洗練された水沢ダウンは、それまでのデサントの製品と比較すると圧倒的に異質で、かなり驚いた記憶がある。


水沢ダウンは元々、2010年のバンクーバーオリンピックの日本選手団に提供するウェアとして開発をスタートした。開発陣が重視したのは、暖かくて雨や雪に強いダウンを作ること。ダウンジャケットは、ステッチでダウンの入る場所を区切るのが一般的だが、そのステッチから水や冷気が入ってしまう弱点がある。


1970年代に開発されたザ ・ノース・フェイスの「ブルックスレンジ」や、フランスのアノラルプの「ルネ・ドメゾン」などの極地用ダウンは、縫い目を上下でずらすダブル構造を採用することで弱点に対応していたが、一般的なダウンはシングルステッチ構造がほとんどだった。


水沢ダウンは、熱圧着ノンキルト加工でダウンが入る袋を作ることで、ステッチを最小限にすることに成功。さらに主要な縫い目にはシームテープ加工を施すことで、これまでにない高い防水性と保温性を実現した。こうした高機能を形にできたのは、長年にわたってスキーウェアや機能服の生産を手掛けてきたデサントアパレル水沢工場(岩手県奥州市)の存在が大きかった。


水沢ダウンの洗練されたデザインと機能性の高さは、これまでデサントとは縁がなかった大手セレクトショップのバイヤーの心も動かした。ベイクルーズグループのジャーナルスタンダードをはじめとしたセレクトショップでの取り扱いが始まったことで、ファッション業界人や感度の高い人たちの間で静かなブームに。


当時は高級ダウンといえば、欧米のインポート物が中心だったが、その市場に食い込んだのだ。2012年には新ライン「オルテライン」をスタートし、水沢ダウンは同ラインを象徴する存在に。デザインコンセプトの「Form Follow Function」は、「デザインはすべて機能性に従事したものである」という意味で、この信念は現在まで脈々と受け継がれている。


当初はセレクショップを通して、メンズのファッション関係者を中心に受け入られた水沢ダウンだが、現在は男女を問わず幅広い世代にユーザーが広がっている。そのキッカケのひとつになったのが、「ほぼ日刊イトイ新聞」とのコラボレーション。


2012年にニット作家の三國万里子さんが編んだフェアアイルニット柄を裏地に配した50着限定のダウンを発売して以来、別注商品の販売を続けている。最近は抽選販売にするほど人気が高まっており、2019年は渋谷パルコにオープンしたショップ「ほぼ日カルチャん」のみで扱う限定色も用意した。


1日あたり150万PVを超える人気サイトでの販売は、数量以上に水沢ダウンの知名度を上げるのに貢献したと言えるだろう。また、パリ・コレクションにも参加しているウィメンズブランド「マメクロゴウチ」とのコラボレーションは、若い女性層への認知度を飛躍的に向上させた。同ブランドを象徴する紫色のショートダウンや、オーバーサイズのシルエットに変更されたダウンは、モードの世界との相性が悪くないことを示した。


国内での認知度が向上するのと並行して、世界での名声も高まっている。世界最大の国際スポーツ見本市「ISPO」に、2013年秋冬シーズンからオルテランで出展し、最優秀賞にあたるISPOアワードを何度も受賞している。また、世界最大級の紳士服見本市「ピッティ・イマージネ・ウォモ」にも継続して出展。軸はあくまでスポーツだが、ファッションの分野でも積極的にアピールを続けている。


2019~20年秋冬シーズンは、水沢ダウンと銘打った商品では、メンズ8型、ウィメンズ5型をラインナップ。ハイスペックモデルの「マウンテニア」、初期からラインナップしている「アンカー」など継続モデルが多いのが特徴で、一度作ったモデルをブラッシュアップしていくやり方は、シーズン毎に全てを一新する従来型のアパレルのビジネスモデルとは一線を画す。


今シーズンの最大の話題は、オランダのハイテクニット企業「BYBORRE(バイボレ)」とのコラボレーション。裏地にバイボレのエンジニアードニットを配したマウンテニアは、日蘭の最新技術の融合といった仕上がりで、今後の更なる進化を予感させるモデルだ。


デサントは2018年7月、新しい研究開発拠点「DISC」(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)を、大阪府茨木市に開設。人工気象室、人工降雨室などの最先端の機器、機能性や物性を検査する「機能・品質評価ラボ」、基礎的なデータ収集や製品の機能検証を行う「スポーツパフォーマンススタジオ」と「スポーツサイエンスラボ」、型紙から縫製まで一貫して生産可能な「プロダクションスタジオ」を備えた開発拠点で、より高機能で高品質な製品を生み出す環境を整えた。


高級ダウンの市場は、モンクレール、ザ ・ノース・フェイス、カナダグースの三大巨頭を軸に、様々なブランドがパイを奪い合っている。そうした中で、水沢ダウンはユニークなポジションを築きつつある。水沢ダウンのようにスポーツの機能性とファッション性を高い次元で両立させているブランドは、ありそうで見当たらないのだ。


最新の開発拠点が整った今、今後の課題を挙げるとしたら生産キャパの拡大だろう。それが解決すれば、日本を代表するダウンブランドとして更なる拡販が見込めるのではないだろうか。



増田  海治郎(ますだ  かいじろう)
ファッションジャーナリスト。1972年生まれ。雑誌編集者、繊維業界紙記者を経て独立。メンズとウィメンズの両方が取材対象で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。著書に「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)がある。

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