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帆刈 吾郎

マーケティングホライズン2022年6号

アジアのプラットフォーマーとの付き合い方

本間 充(ほんま みつる)
東京大学院理学部数学科 客員教授、事業構想大学院大学 客員教授

2015年まで、花王株式会社にて、研究開発、スーパーコンピューターの運用、Webサイトの構築、デジタルマーケティングなどを行う。

2020年に、マーケティングサイエンスラボを設立。多くの企業のマーケティングの支援を行う。

現在、アビームコンサルティングにて、デジタルマーケティング、デジタル活用戦略のコンサルタント。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員講師、日本数学会会員。

 

長年アジアにおける消費財企業のマーケティングに従事、現在コンサルタントとしてデータマーケティングにも詳しい本間充さんに、企業のマーケターはアジアのプラットフォーマーをいかに活用していくべきかお話を伺いました。

───日本とアジアでのプラットフォーマーを取り巻く環境の違いについてどうお考えですか。

本間 日本市場が東南アジアや中国と違うのは、多言語圏ではないというところです。特に東南アジアは英語圏でないことに加えて、多民族多言語圏です。これが、日本と東南アジア、中国におけるアプリの利用の違いになっています。

タイが発展しているとはいえ、人口は8,000万人程度。しかも、モバイル市場はまだまだグロースしている最中なので、スマホは持っているがパケット課金を気にしながら使っている人たちもいれば、アプリよりも電話の代替物としてメッセージングを使っているという人もまだまだいます。Amazonが進出しない理由は、このような多言語対応の難しさ、スマホの利用方法の違いにあるわけです。日本は一つのアプリに集約化する傾向があるのですが、東南アジア、中国はアプリにおいてもかなり、言語や目的の違いから多様性があり、日本人が知らないアプリも多くあるわけです。逆に、東南アジアの人たちからすると、なぜ日本はアジアの国なのに、欧米と同じアプリばかり使っているのだろうかという感じになっていると思います。

ですので、日本本社のマーケターが現地でのアプリやソーシャルメディアの利用状況の違いを知らずに日本と同じように売ろうとして、マーケティングがうまくいかないということはよくあります。

───アプリやソーシャルメディアの使い方の違いで、特徴的なことはありますでしょうか。

本間 アジアでは日本よりもアプリのトレンドの変化が速いと思います。東南アジアでは年代によるデジタル・デバイドがあまりないため、年代を問わず一斉に使い出すところがあります。また、いいものであれば入れ替えるという発想があり、Grabがいいよと聞くと、みなGrabを使うわけです。自分はベトナムで先日まで使っていたSNSが、国の通信のルール変更のため急に使えなくなるということがあったのですが、そういうことに関して柔軟な東南アジアの人たちと、日本のように比較的アプリの利用環境が安定している国では生活者意識がかなり異なりますので、現地の情報を絶えず理解する必要があります。

以前シャンプーのキャンペーンをSNSでやろうとしたことがあり、マレーシアのSNSのコンサルタントの人たちと打ち合わせをしたことがあります。その際、髪型ターゲティングという考えを話したのですが、現地のコンサルタントは、そもそも髪型の流行り廃りということを自分たちは言わない、というのです。日本人的には髪型のメインストリームがあるので、流行り廃りという考え方があるのですが、彼らは、それぞれが好きな髪型にすればよい、という考えで髪型ターゲティングという概念がそもそも分からないというような話になったのです。ですので、そもそもダイバーシティの幅が日本とは全く違うのだろうと感じています。

───同じ国の中でもコミュニティによって生活者意識が違うということもありますか。

本間 アジアはシングルカルチャーではなく、日本以上にコミュニティが細分化されているということも理解しないといけないと思います。中国、またシンガポールなどでは、出身地がばらばらなことが当たり前です。シンガポーリアンの中にはフィリピンバックグラウンド、インドネシアバックグラウンドといった人たちが多く含まれます。 彼らは食生活が明確に違うため、コミュニティが異なる傾向にあります。日本人はSNSで食べ物の話をよくすると思いますが、東南アジアでは食べ物の話をしてもそこまで盛り上がらない理由はこういうところにもあると思います。

───ソーシャルメディアの使い方もコミュニティで変わってきますか。

本間 そもそも使うソーシャルメディア自体がコミュニティで異なります。ですから「現地ではこれが話題になっています」という考え方自体、あまり適さないと思います。テーマ的な違いでいえば、日本はエンターテインメント性のあるものが好まれるように思いますが、アジアでは、知的好奇心を刺激するようなものが盛り上がることがあります。Tipsクイズ的なもの、例えば、ある写真を見せて、この写真の観光地はどこでしょう、この写真は何年前のものでしょうといったクイズ問題にみんなで参加して盛り上がるといった使われ方もあります。

───本間さんがプラットフォーマーと協業された際に気をつけていた点はありますか。

本間 マーケター時代にアジア現地のマーケティング支援をするときには、SNSやカルチャー関係の活動に関しては現地のPRエージェンシーに必ず入ってもらっていました。日本人にとっては問題のない文章でも、現地ではあまり良くない意味を持つこともあります。また意味が正しく伝わっても、正しい感情まで喚起できるかどうかが重要です。中国では、現地スタッフが数多く在籍するPRエージェンシーにソーシャルメディアの戦略を考えてもらっていました。また、東南アジアでは、できるだけ東南アジアの複数国をカバーしている会社を選んでいました。

東南アジアは複数言語、複数民族が混ざっている国が多いので、ある一つの民族、ある一つの言語でうまくいくからといって、他のところでもうまくいくという保障がないのです。ですので例えば、マレーシアのエージェンシーを使うときも、マレーシア、フィリピン、シンガポールを見ているような会社に必ず頼むようにしていました。こういうコミュニケーションを行ったとしたら、シンガポールの人たちがマレーシアに行ったときに奇妙に感じないか、というようなことはよく確認していました。

マーケティングホライズン2022年6号

アジアの生活習慣に根ざしたサービス拡張

 

宮部 裕介(みやべ・ゆうすけ)
株式会社博報堂 グローバルマーケティングDX推進局 局長代理 兼 第一グローバルDXグループ グループマネージャー

2004年より自動車・通信・食品・飲料など様々な業種のブランド戦略からコミュニケーション戦略構築業務を担当。
2012~2019年までASEANのリージョナルストラテジックプランニングダイレクターとして、様々な企業のマーケティングDXの推進を担当。
顧客接点のデジタル化、顧客データ基盤構築やマーケティング活動へのデータ活用や分析などの業務を担当。
同時に生活者総合研究所アセアンの立ち上げを行いアセアンの生活者研究を推進。

2019年より、グローバルにおいてデータマーケティングの基盤構築やデータマーケティング業務をアセアン、中華圏で推進体制を統括。2022年より現職。

 

プラットフォーマーとも協業しながら東南アジア、中国における企業のデジタルマーケティングを推進している宮部裕介さんに、アジアにおけるプラットフォーマーの概要、その成り立ちから生活への根付き方について、お話を伺いました。

───まずプラットフォーマーの定義と、東南アジア、中国でのプラットフォーマーについて教えてください。

宮部 定義については本当にシンプルに捉えていて、インターネット上でサービス提供者とユーザーがつながるための基盤を提供している企業をプラットフォーマーと捉えています。

わかりやすいのがECモールを提供するプラットフォーマーです。サービス提供者はブランドを提供するメーカーで、それを買う生活者がユーザーとして存在していて、その両者をつなげています。Facebookでいえばソーシャルネットワークサービスを提供すると同時に、SNS上での広告メディアとして企業とユーザーをつなげていくという意味でプラットフォーマーでもあります。プラットフォーマー自体がサービス提供者になるケースもありますが、サービス提供者である企業とユーザーである生活者をつなげるのがプラットフォーマーだと考えています。

───中国発、東南アジア発のプラットフォーマーとしては具体的にどのような企業があるのでしょうか。

宮部 中国では次々と新しいプラットフォーマーが台頭しています。BATと呼ばれている、Baidu、Alibaba、Tencentというサーチ系、EC系、チャット系のプラットフォーマーが有名です。最近ではByteDance(TikTokの運営会社)がBaiduの代わりに新しいBと呼ばれることもあります。また最近では、TMDといわれる企業たちにも注目が集まってきています。Tがトウティアオ、これはByteDanceの子会社でAIを駆使したニュースアプリを提供しているメディアの会社です。Mがメイツァンで、フードデリバリー系のナンバーワン企業です。Dはソフトバンク・ビジョン・ファンドも出資している配車アプリのDiDiです。中国ではこうした新しいプラットフォーマーが次々に出てきています。

一方、東南アジアでは全体で人口7億、またタイ以外は2040年代まで人口ボーナスが続くといわれる大きな市場にBATのような中国系と北米系のGAFAに加え、ローカル系がひしめきあっている状態です。東南アジアはどの国も携帯電話加入率が100%を超えて普及し、インターネットの利用時間は一日8時間といわれています。日本の一日平均利用時間は4時間くらいですので、東南アジアの生活者は倍の時間インターネットを利用していることになります。こうしたことを背景に、東南アジアの地域それぞれに密着したプラットフォーマーも生まれてきています。有名なのはタクシーをベースにしたライドシェア事業を展開するGrabです。マレーシアから始まりシンガポールに展開、今は東南アジアの地域全体に展開しています。

また、インドネシアのGojekという企業は、もともとOjekといいわれるバイクタクシーのライドシェアから始まっています。東南アジアでは大通り脇の路地にバイクタクシーの人たちがいて、それを日常的に生活者が使っていくという、ある意味、都市インフラ化されたバイクタクシーという交通サービスが存在しています。それをプラットフォームにしてサービス展開していこうという発想です。北米のGAFAや中国のBATに代表されるようなインターネット上のサービスというよりも、日常生活の中のインフラをより使いやすいサービスに発展させてきたのがGGと総称されるGrabとGojekです。GojekはGrabと同じようにフードデリバリー事業にも参入しているのですが、さらにその後食べ物を届けるのではなく、専門性を持った人をサービスとして届けるという方向にも​事業を広げています。例えば、マッサージ師やネイリストを届ける、車の修理をする人を届けるといったような、人を送り込むサービスまで展開しています。

また、eコマース系ではLazadaとShopeeがそれぞれ事業を伸ばしています。これはコロナ禍の状況もあり、各国EC化率が伸びてきていることが背景にあります。タイでのEC化率は8%程度ですが、インドネシアでは20%近くまで伸びています。一方、ベトナムではまだ4%未満、フィリピンで6%、マレーシアでは7%という感じです。中国のEC化率50%には及びませんが、マレーシアやタイが10%近く、インドネシアで20%近くまでEC化率が伸びてきている中、Lazada、Shopeeという2大eコマースがかなり伸びてきています(注1)。

Lazadaはどちらかというと電化製品など高価格帯のものに強く、Shopeeはどちらかというとファッションや美容などに強く、女性ユーザーが多いので、それぞれ強い領域は異なりつつ、LazadaとShopeeが各国でユーザー数を争って覇権争いをしている状況です。

 
───東南アジアで都市インフラ的に使われていたバイクタクシーが、ライドシェアへとどう共存していったのでしょうか。

宮部 東南アジア各国では、渋滞しやすい都市構造になっていることが多く、さらに、車が通行できない、入り組んだ細い道も多い状態です。

このような道路事情において車での移動が非効率という側面と、まだ所得格差が大きく車を持てない層が多い中で、短い距離を移動するのであれば数十円という経済的な側面から、バイクタクシーは庶民の生活インフラとなっていると考えられます。そのようなインフラに GG がどうやって入り込めたかというと、バイクタクシーは労働者層にとっての生活インフラであると同時に労働者の労働する場所でもあります。創業当時のGojekは彼らの仕事を助ける、つまり彼らの仕事を奪うのではなく、付加価値を付け、仕事を広げてあげることで、バイクタクシーという業態自体を支えるというメッセージを積極的に出していました。Gojekはバイクタクシー労働者の味方であるというポジションを築くことでバイクタクシーの労働者に受け入れられたと考えられます。

さらに、東南アジアの生活者に受け入れられた大きな要素は、サービスの均一化だと思います。金額を含めたサービスが均一化されていくことで、ある程度サービスクオリティが担保されると、ユーザーが安心して使えるようになり、市場が拡大していったということが大きいと思います。

───ライドシェアのサービスは、どんな生活シーンで使われているのでしょうか。

宮部 ライドシェアなので、日常の移動に使われているのですが、自分が街中で見かけて驚いたのは、小学生低学年ぐらいの子どもが親とともに通学するときに使っている様子をよく街中で見かけたことです。小学生などの子たちが普通に乗っているところを見ると、移動手段として当たり前に存在している都市交通という認識なのだと思います。日本で自分たちが仕事でタクシーを使うのとは違う感覚で使われているように思います。

また、GojekもGrabもドライバーは緑色のジャンパーを着ているですが、その人たちが買い物代行をしている光景もよく見かけます。買い物代行はサービスの一つなのですが、日用品を雑貨屋やスーパーなどで買ってもらい、それを自宅まで届けてもらうという使い方です。デリバリーという概念が、日本人がフードデリバリーのように捉えているものよりもっと身近な、日用品のお遣いという感覚で使われているようです。

マーケティングホライズン2022年6号

東南アジア発プラットフォーマーを理解する

 

蛯原 健(えびはら たけし)

リブライトパートナーズ株式会社 代表パートナー
アジア地域に特化した独立系ベンチャーキャピタル、リブライトパートナーズを2008年に創業し、シンガポールとインド・バンガロールおよび東京の3拠点体制で運営。 
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。

マーケティングの基盤構築やデータマーケティング業務をアセアン、中華圏で推進体制を統括。2022年より現職。

 

シンガポールを拠点に、東南アジア、インド中心に数多くのスタートアップへの投資をされているベンチャーキャピタリスト蛯原健さんに、東南アジアにおけるプラットフォーマーの特徴についてお話を伺いました。

─── 早速ですが、蛯原さんが注目されている東南アジア発プラットフォーマー企業を教えていただけますか。

蛯原 我々は投資もしているので、ポジショントークが入ってしまうところもありますが、基本的には頭1つ、2つ抜けているメガプレーヤーが育っています。これらのメガプレーヤーに関しては生活レベルでずいぶん浸透しています。まずトップにいるのがSea limitedという会社のShopee(ショッピー)というeコマースプラットフォームと、それからGarena(ガリーナ)というゲームのプラットフォーム。ゲームプラットフォームについて言えば、ユーザー以外にはそれほど知られていないと思いますが、逆に言えばユーザーからは非常に強い支持があります。次にくるのが、Grabです。先日米国でSPAC上場しました。次に、この4月にインドネシア証券取引所に上場したばかりのGoTo(ゴートゥー)は、Gojek(ゴジェック)とTokopedia(トコペディア)が合併した会社です。初値で時価総額3兆円は超えたと思います(初日終値の時価総額は1ルピア=約0.0087円で約3兆9,324億円)。そして、私どもも投資をしているインドネシアのBukalapak(ブカラパック)。こちらも昨年上場して、上場直後の時価総額は1兆円を超えています。

この4社が、メインストリーム第1世代。いわゆるメガスタートアップ化したところとして誰もが知っているような企業かと思います。

その次にくる第2世代は、大きく花開いている分野がいくつかあり、1つはフィンテック、レンディング。貸し借りのプラットフォーム的な要素もあります。次に、バーティカルサプライチェーンです。例えば農業のプラットフォーム。農作物のサプライチェーンのプラットフォームです。他には、医療に特化したプラットフォームなどもあります。第2世代的スタートアップの中では専門のバーティカルプラットフォームというのが立ち上がってきており、まもなくユニコーンになる状況です。

まとめると、第1世代のeコマースやライドシェアを中心としたプラットフォーム。第2世代は、1つはフィンテック、もう1つは産業バーティカルごとのサプライチェーンやeコマース(B to Bを含む)というような状況になっていると思います。

─── 第1世代でeコマースとライドシェアの領域がここまで大きくなったということに東南アジア特有の理由はあるのでしょうか

蛯原 これは内部、外部、マクロ、ミクロ、それぞれ要因がありますが、一番大きなマクロ要因で言うと、まず市場全体がグロース市場であるということです。中間層が勃興して、経済成長率が高く、従って比較的インフレ傾向のあるグロース市場であるということです。購買性向が高い中間消費者市場が勃興している国はインベスターにとっては好ましい市場ですからお金が集まりやすい。特に、中間層の消費者市場向けの産業にお金が集まりやすい傾向があります。これは新興国すべてに共通する傾向です。中国もインドもブラジルも新興国で経済成長期にあるところは中間層が育って購買性向が高く、消費者市場が上がるので、コンシューマー向けの産業が伸びます。従って、いわゆるユニコーンというのは、ほとんどがコンシューマー向けです。東南アジアはまさにこうしたマクロ要因のあるエリアといえます。

そのコンシューマー産業でビジネスプロセスがデジタルに載っているのがeコマース、そしてペイメント。大体どの国でもeコマース、ペイメントがまず第1弾として立ち上がります。

第2弾として、米国で生まれたライドシェアというのが突如として勃興したんですけれども、やはり市内交通というのは大きな消費者市場で、そこが伸びてきたということです。また社会環境的にいうと、いわゆる「リープフロッグ」という言葉がとてもよく使われています。直訳すると「蛙跳び」ということですが、ビジネスや社会のインフラが乏しい国では、先進国がたどってきたプロセスを一段飛ばしするということです。インドネシアですとバスがぎゅうぎゅう詰めで、とても混んでいるのですが、その代わり片道20円程度と安い。その中で大学を出て初任給を取ったので、これからタクシーに乗ろうという段階になると、タクシーを飛び越えてライドシェアのGojekにいくようになります。または近くに、おいしくて洒落たイタリアレストランができる前に、Uber Eats的なものでデリバリー利用するようになる、クレジットカードを持つ前に電子ウォレットで十分だということもあります。または銀行口座を一生持たないで、携帯番号イコール口座番号というような人がフィリピンやインドネシアではこれからマジョリティになってくる。あらゆるものが発展段階を一段飛ばししていくというのがリープフロッグなのですが、先進国に比べて社会や経済のインフラが整っていない分、デジタルが早く発展するという側面もあります。マクロ視点ではこの2つが大きいです。

─── 第1世代プラットフォーマーは既にメガスタートアップ・スーパーアプリになってきているというお話でした。今後の成長ストーリーについては共通の傾向はありますか。

蛯原 これは、新興アジアならではという話と、地域に限らずスタートアップがメガスタートアップ化していく道程の中で大体共通していることの2つがありますが、まず後者からいきますと、基本的にはロールアップです。これはアメリカでも日本でも、中国でも、どこでも起きています。つまり、同業他社同士が、買収、合併を繰り返し、過当競争をなくしていき、最終的には2つ程度のプレーヤーに収斂していくということです。例えばライドシェア業界で実際に起きてきたことなのですが、Uberは、Uber東南アジアがGrabに買収される形、株式交換買収される形でGrabの一部になりました。同じことを中国ではDiDiと一緒にやっています。こうしたことがさまざまな企業間で起きています。

また、業際間のロールアップというものもあります。これはターゲットが同じで違うビジネスを行っている企業同士が合併するということで、今回のGojekとTokopediaが合併したのはまさにこの業際間ロールアップに入ります。この合併にはいろいろな理由がありますが、スーパーアプリ的なものをめざしていく中で、eコマースとライドシェアが1つのアプリの中にあってもいいということで業際同士がくっついたロールアップです。こうした動きがSaaSの中でもしばしば起きています。ロールアップを重ね効率化してROIを上げて、成長させていくということです。

もう1つ、新興アジアならではの成長領域として、地方市場が挙げられます。ルーラルビジネスというのは新興国においては非常に広大なビジネスフロンティアです。OECDがいわゆる都市化率というものを2~3年に1回ぐらい発表していますが、シンガポールなどの特殊な国を除くと、東南アジアの国の都市化率は大体半分前後です。その国の人口当たりで田舎に住んでいる人と都市に住んでいる人の割合が半々であるということです。インドでいうと人口の3分の2は田舎に住んでいます。ですので、地方への浸透をどう図っていき、そこの顧客当たり単価をどう上げるかということにみな腐心をしています。今後の成長については地方市場への拡張を考えているスタートアップはかなり多い印象です。

─── 地方市場をビジネスフロンティアとして取りにいくとき、地方向けサービスを従来のものと少しサービスを変えていく動きはあるのでしょうか。

蛯原 わかりやすい例でいうとBukalapakは 1級都市から2級都市、3級都市へと地方市場を広げていく際に、エージェント組織をつくって対応しています。2級、3級都市のパパママショップ、雑貨屋さんにBukalapakエージェントになってもらい、そのエージェントがスマホを持っていれば、その商圏内の村人たちはそのスマホを通してeコマースをエンジョイできます。パパママショップに商品が届いたら、そのショップの店員が、「届いたよ」とお客さんのフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)にメールしてあげて、歩いて取りに来る。Bukalapakはそういったことをしてくれるエージェントを400万店ほど組織しています。また、Grabも同様のことをしている会社を買収して、同じように田舎を押さえています。やり方はいろいろ工夫している中で、専用の物流事業者を買収したりしています。3級都市になると、おむつや粉ミルクなど、そもそもモノ自体がなかなか手に入らないということなのでeコマースのニーズが高い面もあります。