『“未”顧客理解
なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』
芹澤 連 著 日経BP
マーケターが当たり前のように親しんできたSTPやペルソナ、CRM、顧客のファン化といったフレームワークや考え方に対して、本書では「未顧客視点」で捉えなおすことの重要性を提起している。例えば、CRMなどに従事するマーケターであれば、ブランドのファンを拡大し、ロイヤル顧客を増やすための施策を日々必死に打ち出している。にもかかわらず、ロイヤル顧客と思っていた顧客がすぐに離反してしまい、原因がわからず四苦八苦した、といった経験があるのではないだろうか。
昨今、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)などを用いたデータマーケティングが主流となる中、データさえ見ていれば顧客が理解できていると我々は思いがちである。しかし、現実的にはその中には自社の商品やサービスを知らない・興味がない「未顧客」に関するデータは集まっておらず、自社に興味を持っている一部の顧客しか見えていない。
一方の顔が見えない未顧客について、著者はマーケティングサイエンスという理系の思考法と、心理学・文化人類学という文系の思考法を組み合わせたアプローチによる解釈法を提示している。これまでも筆者は前著『顧客体験マーケティング』において、顧客理解の手法としての「ナラティブアプローチ」を提起してきた。本書ではさらに発展して、未顧客を理解するためのフレームワークである「オルタネイトモデル」や「カテゴリーエントリーポイント」といった実践ですぐ使える武器を紹介している。このフレームワークに落とし込んでいくことによって、一見すると非合理とも思える顧客の行動が実は顧客にとっては非常に合理的であることが理解できるようになる。
これまで定石として信じられてきた様々なマーケティングの手法やフレームワークについて、根底からリフレッシュされるような感覚になる良書である。役職・役割に関わらず、マーケティング実務に関わる全ての人におすすめしたい。
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