マーケティングホライズン2023年1号

2023年、私は群馬からはじめます。

〜はじめに〜
私はどこから来て、これからどこで何をするのか

私は群馬県前橋市の出身で、大学では社会学を専攻し、現在はクリエイティブデザイナーとして活動をしている。社会課題をデザインとビジネスの循環の仕組みで解決するためにデザイナーを志した。複雑に絡み合う社会課題を目の前にすると、途方に暮れて悲観的になってしまうこともあるが、私は年齢、性別、業界、国籍が異なる人たちと話すことで、少しでも解決に近づくための希望を見出し、行動に移すためのデザインをしていきたいと考える。

本号のテーマが「ココからはじめる 2023」ということで、改めて「私は一体どこから来て、これからどこで何をするのか?」を自分に問い直した。私の「ココ」は、どこなのだろうか。さまざまな場所や人の顔が思い起こされたが、やはり故郷の「群馬」が軸足にあることに思い至った。

〜動機〜
私にとっての「ココ=群馬」

上毛三山をはじめとする山々や、尾瀬、利根川などの豊かな自然、草津や伊香保、水上、四万といったたくさんの温泉がある群馬県。私はそんな群馬で生まれ育ったが、大学進学を機に上京。その後は地元を離れていたが、「いつか群馬で何かやりたい」とひとり密かに思い続けていた。

その後、独学でデザインを学びながら、2015年にデザイナーとしての活動をスタート。帰省した際にあちらこちらで「群馬でデザインの仕事をやりたい!」と発信していたところ、有り難いことにじわじわと群馬での仕事をいただくようになっていった。長年ぼんやりと自分の中に溜め込んでいた「何か」が「デザイン」をきっかけにして、様々な人たちとの出会いにつながっていった。

〜目的〜
目の前の人と一緒に、複雑な社会課題を解決したい

具体的には、神社、温泉旅館、図書館、創作日本料理屋などから声掛けをいただいた。デザインの仕事はヒアリングから始まるが、お客さんたちは当然それぞれの課題を持って、それを解決するために依頼してくださる。話を聞いていると、皆それぞれの立場や視点は違うが、個人が抱える課題が、社会の課題につながっていると感じるようになった。
例えば、最近抱えている案件には、空き家問題、不妊治療、農業の後継者不足といった問題への取り組みがある。関連のなさそうなこれらの課題であるが、考えてみればどれも「少子高齢化」に関係しているのではと感じている。

〜具体例〜
空き家を、地域に愛される場所に再生したい

2017年から現在進行形で取り組んでいる、空き家を古民家茶屋に再生する取り組みを紹介したい。取り組んでいるのは、群馬県前橋市にある「元総社えんにち茶屋」だ。はじまりは、パティシエの都丸渥司さんからの相談だった。
「近くに空き家があり、取り壊されると聞いた。趣のある古民家で、もったいない。地域に愛されるお店を作りたいので、是非手伝ってくれないか」。

現地に伺い、まだ名前も何も決まっていない空き家でどんな場所にしたいかを語らった。古民家の隣には、平安時代から続く歴史ある総社神社がある。ただのお店で終わらず、神社とのつながりを大切にし、地域の歴史を味わえる場所にしたいという思いを都丸さんから強く感じた。そこから「手と手をあわせたくなる、地域に根ざした憩いの茶屋」を目指し、お店の名前とビジュアルを考えていった。地元の和の食材を洋の技術で表した甘味を、地元の作家の器で味わえる「元総社えんにち茶屋」が誕生した。

現在は長蛇の列ができるほど、地元の方々に愛される茶屋として前橋に根付いている。
そして、空き家が一つ無くなった。このことは、とても小さなことかもしれない。でも、その小さなことの積み重ねが、世の中を変えていく。グンマも1日にしてならず、である。

〜2023年の目標〜
目の前の人を大切にし、一歩一歩、課題に取り組んでいく

群馬が抱える社会課題は他にも数えきれないほどある。群馬の人々を一人ずつ元気にすることで、群馬県を、ひいては日本、世界を元気にしていきたい。社会課題をデザインとビジネスの循環の仕組みで解決するという大目標のための「ココ」からの第一歩。それは目の前の人の課題を解決することからだ。

「元総社えんにち茶屋」での取り組みは2023年も続く。そして、不妊治療、農業の後継者不足の課題に取り組む方々へのヒアリングを重ね、言語化し、可視化し、それぞれの課題解決に向けて一歩ずつ歩んでいきたい。

2023年、私は群馬からはじめます。

蛭子 彩華

一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー

1988年群馬県前橋市生まれ。2012年立教大学社会学部を卒業し、IT企業に勤務。
結婚を機に退職し、夫の南米チリ駐在へ帯同。帰国後の2016年、第一子出産と同時にTEKITO DESIGN Labを設立。
現在は3児の母として、様々な社会課題に、デザインとビジネスの循環の仕組みでアプローチしている。

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