マーケティングホライズン2023年1号

世の中が変わっていることを、 理解できる人でありたい

新年には何か新しいことを始めるべき、何かを変えるべきだ、(今年こそ)という世の中のムードのようなものがある気がする。しかし、毎年年初に新しいことを始めたり、何かを変えたりと思わなくとも、世の中の意識や行動の一部は、着実に変化している。

先日、人々の暮らしや考え方について1992年から2022年まで隔年で継続してきた調査結果をまとめた生活者30年変化レポートが、博報堂生活総合研究所のwebサイトで公開された。このレポートは、人々の意識、考え方が、ゆっくりかもしれないが、着実に変化していることを教えてくれている。以下に、自分が興味深いと思ったデータを紹介していきたい。

「友だち疲れ」が顕著に

「友人は多いほどよい」が減っている。色々いてそう簡単に沢山できるわけでもない。であれば、少しでも本当に仲の良い友だちがいれば十分という考えを持つ人が多くなってきたということではないだろうか。だとすると、「クラス全員と仲良くしましょうね」という考え方や「友達100人できるかな」という問いかけがもしあるとすると、今の時代感覚からは、少し違和感があるのかもしれないと思う。

親友とも「あっさりと」したき合いを

「君子の交わりは淡きこと水の如し」という故事があるように、今の友人関係もまさにそういった方向になっているのかもしれない。いつもべったり一緒に過ごさなくてもよいという意識かもしれないし、薄い友達付き合いをしなくなった結果、親しい友人とすごす時間の確保には満足しているということかもしれない。また「友人からいろいろな相談をもちかけられる方だ」という意識が下がっているが、ここも解釈の幅がありそうな気がする。友人であっても色々相談することが憚られるということかもしれないし、自分は相談されるタイプだよね、という自意識が下がっていることかもしれない。

お歳暮より「自分へのごほうび」

お歳暮という行為を行う人は年々減っていることがわかる。ここからは贈与という行為が、儀礼慣習との結びつきから離れてきている様子がうかがえる。その一方で、自分へのごほうび、自分にプレゼントを贈るという、本来的な贈与の意味を拡張するような行為が普及してきていることがわかる。贈与という行為は、対価との交換というルーティーン的行為から逸脱することで気分の良さや幸福感を味わうための行為だとすると、その実現のためには、他者への贈与だけでなく、自分への贈与でも実現できると考えるようになっているからなのかもしれない。

こうした変化を目の当たりにすると、ついついこれは良いことだ、または良くない変化だなどといった評価を下したくなってしまうが、大事なのは、自分の価値観と違っていても、わかり合えないと絶望するのではなく、現実として受け止めて理解していくことなのではないだろうか。

自分の身近にある多様性を尊重できる人でありたい、と今年も改めて思う。

《調査概要》
調査出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査
調査地域:首都40km圏、阪神30km圏
調査対象:20~59歳の男女
調査手法:訪問留置法
調査人数:3,084人(2022年)*同規模で毎回実施
    2020年国勢調査に基づく人口構成比で割付
時期:1992年から偶数年5~6月
   (2020年のみ6~7月実施)

 

帆刈 吾郎

株式会社博報堂 第二ブランドトランスフォーメーション局 局長

1995年に博報堂入社、以来マーケティング職に従事。2013年タイ・バンコクに駐在、生活総合研究所アセアンを設立。2020年日本に帰任し現職。

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