日本古来の季節行事の掘り起こしで、 地域を元気に

酒田市の「山王くらぶ」に飾られた華やかな傘福(写真提供:酒田観光物産協会) 酒田市の「山王くらぶ」に飾られた華やかな傘福(写真提供:酒田観光物産協会)

ハロウィンが日本に定着した一番の理由は、単なるタイミング
お正月、バレンタイン、ホワイトデー、お花見、母の日・父の日、七夕、お盆、ハロウィン、クリスマス・・・、数々の年間を通しての季節行事は、もれなく商業施設のディスプレイや飲食店の期間限定メニューやギフトなどの商機と連動している。

これは今に始まったことではなく、平賀源内が仕掛け人といわれる「土用の丑には鰻を食べよう」キャンペーンなど、江戸時代の町人文化まで遡る話だ。


ハロウィンは1980年代後半のバブル期ぐらいから徐々に日本に定着し、最初はカボチャの形の容器に入った菓子類や商業施設などでのポップなディスプレイが主流で、インターナショナルスクールの子供たちがお菓子をもらいながら街を練り歩く程度のささやかなお祭りだった。しかし、近年、特に渋谷界隈ではゾンビメイクを施した若者たちがコスプレを披露し合うオールナイトのストリート・パーティの形相へと変貌し、昨年などは「DJポリス」どころか、駅前のスクランブル交差点に通じる道路が物々しく封鎖されるなど、いつのまにか本来の「秋の収穫を皆で祝う」という目的のハロウィンとは全く別のものになっている。


ハロウィンが日本にこれだけ定着したのは、10月31日というタイミングが実は大きい。なぜならば、夏が終わってからクリスマスまでの時期は、当時の日本での商機としては、紅葉や秋の味覚ぐらいしか、これといった目玉となるような季節行事がなく、そのポッカリと空いていた時期にちょうどうまく収まったのが「ハロウィン」というビジネス側にとっての大チャンスだったのだ。もし、ハロウィンが2月14日だったら、これほど日本に定着していなかったことだろう。今や、夏が終わると、店頭は少しずつハロウィン仕様になり、ハロウィンが終わるとすぐにクリスマス仕様へと変わっていくのが当たり前の街の風景となっている。

酒田の雛街道にみる、ひな祭りによる地域おこし
ハロウィンのような輸入文化ではなく、日本古来の季節行事の1つ、「ひな祭り」による地域おこしの好例を紹介したい。日本海沿いの山形県酒田市は、江戸時代には北前船の西廻り航路の重要な寄港地の1つの湊町として栄え、海路による交易により、京都の文化の影響をダイレクトに受けている東北では珍しい地域だ。東北=塩分高めのしょっぱい味と思われがちだが、酒田周辺の基本的な味付けは、上品な薄味で、漬物も麹が効いた自然な甘みがあるのが特徴で、初めて行く方は驚かれることだろう。


その酒田には「酒田雛街道」というひな祭りの時期の人気イベントがある。「山王くらぶ」や「相馬楼」といった北前船の繁栄の歴史を感じさせる料亭(現在は一般公開されている)や旧鐙屋、本間美術館、山居倉庫、酒田市資料館など、市内の主な見どころを、江戸時代から受け継がれてきた由緒ある雛人形や地域に伝わる「鵜渡川原人形」、傘から吊るされる様々な飾り物に願いが込められた「傘福」など、色とりどりの華やかな展示が行なわれ、訪れた人は街歩きをしながら楽しめる。


酒田に江戸時代から伝わる雛人形には、古今雛や享保雛などが多くみられる。前述の北前船で栄えた時代には、山形の名産品の1つ、紅花が染料の原料として北前船に大量に積み込まれ、それが京都で美しい紅花染めの高価な絹織物になり、その絹織物で作られた晴れ着をまとった豪奢な享保雛が京都から積み込まれ、酒田の本間家を代表とする当時の豪商(庄内地方の藩を財政的に支援もしていた)が子女たちへの贈り物として購入し、再び酒田の地へと帰ってきたのだ。今も大切に受け継がれている享保雛の見事な紅花染めの衣装は、300年以上経過してもなお、その美しい紅色はほとんど褪せてはいない。


このような時空を超えた、史実にもとづくリアルなストーリーのあるコンテンツは最強だ。ひな祭りによる地域おこしは、近年、各地でみられるが、不用品同然の地域の家庭に眠るお雛様を集め、ただ数の多さの陳列だけで勝負するような表面的な中身のないイベント化ではなく、各地域に伝えられているであろうリアルなストーリーを掘り起こし、その地域の独自性を前面に出せるような、丁寧なコンテンツ作りができるかどうかが、イベントが「本物」として長続きしていくかどうかのカギを握っているように思う。

 

二十四節気、七十二候・・・日本古来の旧暦には商機のヒントが満載!
 今や日本人にとって、ハロウィンやバレンタインは季節行事として定着しているが、元々は日本にはなかったいわば「借り物」の文化だ。しかも、両方とも本来の意味とは違う、日本独自の解釈が加えられている(何とも言えない絶妙な適応性というか、都合よく解釈できる能力は、クリスマスもお正月も同じぐらい、めでたく祝うことができる日本ならではの特徴ともいえるが)。


ひな祭りに限らず、まだまだスポットが当てられていない日本古来の季節行事も多くあるはずだ。二十四節気のみならず、七十二候までカレンダーに落とし込んでみると、実に多くの日本の季節の節目があることを再発見できるとともに、美しい言葉で表現された漢字の字面やその表現に込められた本来の意味に感動をおぼえる。旧暦には昔の人々の暮らしの智慧が詰まっているように思う。


全てのタイミングを商機にできるかどうかは別としても、「季節を演出する」という切り口としては、とても汎用性があり、マーケターとして、そのポテンシャルの大きさを感じずにはいられない。

 

会田  裕美  (あいだ  ひろみ)
㈲アディアック  代表取締役 マーケティングプロデューサー
㈱パルコにてマーケティング情報誌『アクロス』で編集者として、トレンド分析や社会・世代論などの分野の取材・執筆を行ない、同社の音楽情報誌の立ち上げや音楽制作も担当。その後、会員制女性サイトで、マーケティングマネージャー、編集長などを歴任し、2004年、㈲アディアックを設立。定量調査・定性調査の実施・分析から、プランニング、ブランディング、各種コンテンツの制作・編集やプロモーション、PRまで幅広くコンサルティングを手がける。
定性調査(グルイン、デプス、訪問調査、有識者調査など)でこれまでにインタビューした累計人数は3,500名以上(下は14歳から、上は89歳まで)。
近年は東北関連の案件も多く、東北各地の歴史・文化・民俗学への造詣も深い。

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