なぜ、SDGs達成には 市民社会組織との連携が必要なのか

 「SDGs」は、2023年現在、国内調査では80%以上の認知度があり、国連加盟国193カ国の中において、認知度が一番高いと言っても過言ではない。その、「SDGs」を、市民社会の立場から「誰一人取り残さないSDGsの達成」をミッションに掲げ活動しているのが、SDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン)である。
 今回の特集のテーマに寄せるならば、SDGs達成に連携は不可欠だが、その連携先として草の根的活動を行う静脈側の市民社会組織が重要だと筆者は考えており、令和時代、SDGs時代における市民社会組織との連携をSDGs達成という文脈から、二つの視点で紹介したい。

 一つ目の視点は、社会課題を、マーケティングの対象として捉えるのではなく、「誰一人取り残されない」という、当事者の視点でとらえている事だと考えている。
 最初に「市民社会」、「市民社会組織」のこの文章内での使い方を確認しておきたい。また、SDGsは、一般的に「世界の課題を解決するための17の目標」と捉えられると考えているが、SDGsジャパンでは、2015年9月25日に第70回国連総会で採択された国連文書A/70/L.1「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development)全体をSDGsととらえており、17の目標と169のターゲットと呼ばれている17の大目標を分解したそれぞれの目標に紐づく中目標と、その中目標の達成度を測るための指標も示されているととらえている。
 市民社会は、日本政府が決定した持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版※1の5.今後の推進体制の(3)主なステークホルダーの役割のウ.市民社会において、以下のように説明されている。
 「市民社会は、「誰一人取り残されない」社会を実現するため、現場で厳しい状況に直面している人々や最も取り残されている人々、取り残されがちな人々の声を拾い上げ、政府・地方自治体へとそれらの声を届け、知見を共有する存在であり、SDGs関連施策の企画立案プロセスにおいてこうした人々の声が反映されるよう、橋渡しをすることが期待されている。
 同時に、国際社会及び国内におけるネットワークを活かし、国内外に対する問題提起や発信、政策提言、SDGs推進を加速化、拡大するためのアクションを推進していく旗振り役となる事などの役割も期待されている」。
 この文章内においては、市民社会と市民社会組織を上記の役割を行う組織を差しているとして進める。
 しかしながら、「市民社会組織」は、日本では一般的に、NPOやNGO、市民活動団体やボランティア団体全般と捉えられており、企業の社会貢献活動組織や一部の社会的企業も、市民社会組織だと納得している人は、まだ少ないのではないだろうか。また、上記に取り上げた文書においても政府・地方自治体に声を届ける存在としては認識されているが、ここまでビジネスのインパクトが大きくなっている現在では、ビジネスに対しても前出の「現場で厳しい状況に直面している人々や最も取り残されている人々、取り残されがちな人々の声を拾い上げ、届ける」役割は重要だと考える。筆者自身は、図1に示す通り、地縁団体、PTA、学校法人、公益財団社団という行政監督が強く、公益概念も強い団体も、生協や農協、企業組合などの協同組合のような、共益概念が強い組織も広くここでいう市民社会組織の一部だと認識しており、市民社会組織との連携には、まだまだ手法も概念も開発の余地があると考えている。

 二つ目の視点は、人権という「価値」を体現しているのが市民社会組織だという視点である。なぜ、ビジネスでもなく、政府でもなく、アカデミアでもなく、労働組合でもなく、議会でもなく、市民社会組織でなければならないのかといった場合に、市民社会組織の強みは、市民社会という立場で橋渡しを行うことができ、市民社会という立場でさまざまな人々や組織、機関と協力することができることだと考えている。
 SDGsが達成目標2030年まで残り7年と言われている中で、2023年9月には国連総会に合わせて、4年に1度の首脳級によるSDGサミットがニューヨーク国連本部で9月18日、19日に実施された。その時、市民社会組織も世界中から集まり、貧困や格差、差別に終止符を打つべく、SDGs達成に向け、サイドイベントに参画したり、サミットそのものにも参画した。ニューヨーク市内では7万人のグローバル気候マーチ※2が実施された。日本からもSDGsジャパンやSDGsジャパンの会員組織の9団体がこの動きに参加した。SDGサミットでは、日本の首脳をはじめ、参加したすべての国の代表者がスピーチを行い、政治宣言が採択されたが、市民社会組織である私たちは、9月19日の朝(日本時間9月19日の夜)、ニューヨークから発信※3をしたことは、SDGsを後7年で達成するには、人権にもとづいた、あらゆる連携の実践の必要性だったと考えている。
 企業への批判や対峙のみではなく、提案や対話からの、共通の課題解決に向けた動きは少しずつではあるが、進んできている。しかしながら、連携の必要性が声高に言われてはいるが、現場では、まだまだ連携の事例は少ない。圧倒的に、市民社会組織の実態が知られていないことや顔の見える関係として知る機会が少ないことが原因の一つだと考えている。企業同士の人事交流、業界団体による情報流通の量に比べて、市民社会組織との交流や情報流通は脆弱だと言わざるを得ない。持続可能な社会は、企業からの利益と行政からの公益によるトリクルダウン理論だけでは、成り立たない。市民社会は、次世代の利益である未来益、自然と地球を持続可能にしたいという地球益、そして、それらによって「誰一人取り残さない」という人権を基盤において、引き続き活動する必要がある。
 企業や行政などの動脈側ではなく、静脈側に位置する市民社会組織が日本社会の中で、SDGs達成に必要不可欠であり、日本においても企業や行政との連携のための手法や経験が、今後ますます積みあがることを期待したい。

《脚注》
※1.SDGs 実施指針改定版
日本では内閣官房内に首相を本部長とする持続可能な開発目標(SDGs)推進本部を設置しており、2016年にSDGs実施指針が決定されました。その後、国内外のSDGs進捗状況や社会の変化を踏まえ、2019年12月20日に指針の改定版が発表されています。2023年12月にも改定が予定されています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/jisshi_shishin_r011220.pdf

※2 グローバル気候マーチ
2019年の気候サミットで行われた、 気候変動・温暖化に具体的な政策・行動を求める国際的なストライキ、また抗議行動を、グローバル気候マーチと呼び、それ以降、「デモ」を「マーチ」と呼んでいる場合が多い。

※3.動画を公開しています。《NYからの発信-市民社会メンバーがみた「SDGサミット2023」》1時間 

 

新田英理子
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク
理事・事務局長

富山県高岡市出身。民間企業、環境NPOなどで勤務した後98年より日本NPOセンターに勤務。14年から17年まで同団体事務局長。17年からSDGsジャパンと日本NPOセンターとの兼任を経て19年4月より現職。SDGs推進に関する相談、研修、講演の他、産官・NPOとの連携・協働プログラムの企画運営経験を活かし、マルチステークホルダープロセスを重視した活動を展開中。京都精華大学評議員、科学技術(JST)STI for SDGs審査員、法政大学人間環境学部非常勤講師など。

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