地方自治体が取り組むオープンイノベーション バイオマス産業都市さが‐藻類によるまちづくり

地方自治体が取り組むオープンイノベーション  バイオマス産業都市さが‐藻類によるまちづくり 「バイオマス産業都市さが」の概念図(資料提供:佐賀市)

自動車や家電等、組み立て型産業を産業構造の頂点としたクローズドでインテグラル(すり合わせ)な技術開発を得意とした日本企業にとって、オープンイノベーションの取り組みは、不慣れな印象を受ける。

一方、地方自治体は、そもそも経済循環を域内で完結することは難しく、外部との連携には積極的だ。しかしながら、その取り組みはインバウンド観光や、地域産品のブランド化など、似たような戦略が多く、地域の特性を十分生かし切れていない印象を受ける。そんな中にあって、地域特性を生かしたオープンイノベーション型の取り組みである佐賀市の「バイオマス産業都市さが‐藻類によるまちづくり‐」は興味深いものがある。


逆転の発想からのスタート~迷惑施設を地域に喜ばれる施設に
佐賀市は、2014年11月に国からバイオマス産業都市の選定を受け、「廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」を目指すべき将来像に掲げている。ごみ処理施設や下水処理施設などは、市民生活に必要不可欠な施設でありながら、「迷惑施設」という捉え方をされる。佐賀市では、この迷惑施設を「地域に喜ばれる施設」に出来ないかという逆転の発想から、様々な施策を講じている。

 

佐賀市下水浄化センターでは地域の一大産業である海苔養殖業者の栄養塩類の不足による海苔の色落ち等の懸念に配慮し、海苔の養殖時期である冬季に窒素やリンといった栄養を多く含む(基準値内)下水処理水を放流し、夏季には可能な限り窒素やリンを除去して放流する「季別運転」を行っている。

 

こうした取り組みが奏功し、佐賀県産の海苔は販売枚数、販売金額ともに日本一となっている。他にも、ユーグレナ(ミドリムシ)を培養する株式会社ユーグレナとは、下水処理の過程で発生する消化ガスから二酸化炭素を分離回収し、脱水分離液中の窒素やリンを培養に活用することにより、微細藻類であるミドリムシの生産量や品質等を研究する実証事業にも取り組んでいる。


また、佐賀市清掃工場では、他の地域と同じように余熱の温水プールへの利用や発電電力の売電などを行っていたが、電力と熱以外で、より地域に役立つ施設にしていくための取り組みとして二酸化炭素の活用に着目し、2016年8月に日本発の清掃工場の排出ガスから二酸化炭素を分離回収する設備を稼働させた。施設からは、99%濃度の二酸化炭素が10トン生産(日産)できされており、食品添加物基準もクリアしている。現在、回収した二酸化炭素は、株式会社アルビータのヘマトコッカス藻の培養施設へ供給され、今後、更なる藻類培養事業への展開を計画している。


藻類によるまちづくり~さが藻類バイオマス協議会
バイオマス産業都市は、全国に61(10月末時点)50あるが、藻類産業に関連する施設は全国に例がなく、海苔という藻類が地域の産業である佐賀らしいストーリーと、廃棄物のエネルギー、資源化という現状の地域課題を逆手に取った取り組みである点、とても興味深いものがある。

 

藻類の中でも特に、ユーグレナ(ミドリムシ)や、ヘマトコッカス藻などの微細藻類は、食料や化粧品の原料としての活用が進む他、将来的には、肥料、飼料として、更にその先には、バイオ燃料としての可能性もあり、今、特に注目されている分野でもある。佐賀市では、清掃工場で発生する二酸化炭素や下水浄化センターで発生する二酸化炭素及び脱水分離液を用い、海苔、ミドリムシ、ヘマトコッカス藻など藻類の低コストかつ効率的な生産方法を確立することで藻類関連産業の集約化を目指している。

 

具体的には、第1次産業としての藻類の研究、培養から、有効成分の抽出・製品加工工程の第2次産業、更には流通・販売の第3次産業までを一貫して行う6次産業化を視野に入れている。既に、佐賀市と、地元の佐賀大学、国内の藻類研究を先導している筑波大学の三者で「藻類バイオマスの活用に関する開発研究協定」を締結し、現在、藻類産業を技術面で支える「さが藻類産業研究開発センター」を建設している。

 

藻類開発研究機関の設置に関して関係者間の協議を進めている。また、2017年8月には、産学官で構成する藻類産業推進のための組織「さが藻類バイオマス協議会」を立ち上げ、藻類関連産業が地域に根付いた産業として確立・発展することを目指している。まさに、地方自治体主導型の藻類バイオマスのオープンイノベーションの取り組みと言える。


地方自治体が推進するオープンイノベーションの可能性と課題について
国が主導する取り組みは、規模が大きく、成果が出るまでの時間も要すことから、時として仕組みづくり自体が目的化してしまい、実施段階の運営面で行き詰まるケースも少なくない。佐賀市の取り組みは、海苔の養殖という地域産業との繋がりや、国内の藻類研究を先導している筑波大学や、ユーグレナ社、アルビピータ社などとの連携実績も既にあることから、地に足が着いた取り組みとして、大きな可能性を感じる。

 

しかしながら、地域外の大学、企業との連携が、現状、研究開発段階に留まっていることから、今後は加工から販売までの「出口戦略」をしっかり描けるかが鍵となるだろう。また、行政主導の取り組みは中立的であり、企業、大学、研究機関等、様々な主体を巻き込みやすい反面、行政が予算を含めてどこまで介入するのか、どのようなグランドデザインを描くのかが課題となる。

 

一般的に、行政が得意とする範囲は、制度設計や税制面での優遇措置等に限られ、研究開発という「入口」から、加工、製造、販売という「出口」に向かうほど、市場経済やビジネスルールへの適応や対応が強く求められるようになり、行政にとっては不慣れな領域となる。

 

行政主導の各種ファンドがなかなか成果を上げられない理由もここにある。一般的には、民間出身のコーディネータを外部から招聘すること等で行政が不慣れな領域に対応するケースが多いが、過度なコーディネータへの依存は、行政の持ち味である中立性を阻害する要因にもなる。一方、コーディネータには、期間を定め、その間に後継者を育て、引き継げるよう、予め撤退戦略を描くことが求められる。

 

後継者は、行政主導の取り組みであることを最大限引き出せるような、長期的な視点を持ち、行政の政策意図や役割とその限界までもしっかりと把握・理解出来る人材が、行政内部から育っていくことが理想的と言えるだろう。佐賀市のオープンイノベーションの取り組みの成否も、ここにかかっていると思う。


幕末・維新期の佐賀藩の名君、鍋島直正は、精錬方という科学技術の研究機関を創設し、日本の産業の近代化を先導した。そんな歴史ロマン溢れる、佐賀市のオープンイノベーションの取り組みに期待したくなるのは、私だけではないだろう。

 

 

見山  謙一郎  (みやま  けんいちろう)
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス代表取締役・事業構想大学院大学 特任教授。大学卒業後、三井住友銀行(旧住友銀行)に勤務後、ap bank理事を経て独立。
現在は、企業における新事業創造研修・支援業務のほか、環境省の中央環境審議会委員や総務省等の行政委員をつとめる。

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