【世界に挑み、自らを創造せよ】日本各地の魅力が ビジネスとして開花するには?

クールジャパン機構は、国内市場を飛び越えて、世界が共感する「クールジャパン」つまり日本の魅力ある商品・サービスが海外市場に羽撃くための投資を行っている。

2013年11月の設立以降、順調に投資を実行している官民ファンドである。その投資戦略のリーダーである、吉崎CIO(チーフ・インベストメント・オフィサー=最高投資責任者)は、「まだ全てを掴んでいるわけではないですが、技術やノウハウがありそうないいものは各地にあります。日本のエルメスになるよねと言われるものもある」と言う。

環境も改善している。インターネットの普及で世界への情報発信がしやすくなり、インバウンドの旅行者が日本各地のよいものを物色することも増えた。日本の地方と世界がつながる機会は増えている。

しかし、海外から引き合いがあっても言葉ができないとか、海外に出先がなくてビジネスができないといった話はよくある。それだけでなく、吉崎氏はより根本的な課題を指摘する。


マーケティングを一からやり直す
「自分でこれだと売り出すケースはなかなかうまくいっていません。まずこういうセレクションありと示して選んでもらうことから始めたい。「これはいいモノです」とアピールしても受け入れられるわけじゃない。

第一歩を踏み出すとこからやり直しが必要です」と、基本である4Pの軸で見直しをして、マーケティングを実践すべきと吉崎氏は指摘する。例えば、松屋銀座の清酒売場が、一升瓶をやめて4合瓶を壁一面に配置してワインのようにも見えるディスプレイにしたところ、売上が大きく伸びたという。色々とやれることはあるのだ。

プライシングについても、いったんゼロにして考え直した方がよいと吉崎氏は説く。筆者がワインと日本酒の価格について問題提起すると、「日本人は大量生産やデフレに体が慣れきっているから、高い価格にしない傾向が強い。

フランスのワインは、外国向けは高い価格ですが、同じクオリティの国内向けは安い。つまり、二重価格になっている。日本酒も安すぎると言われることもあるが、同じようにしてもいいでしょう。やりようはあるはずです」と吉崎氏は言う。

多くの場合、企業が受け身で売る努力が足りない場合が多い。マーケティング志向に欠け、商品も昔ながらで変わらず、英語の問い合わせにも応えられない。そのままでは、先が見えない。

吉崎氏は言う、「消えるのがもったいないとか、残さねば、という話がありますが、産業としては栄枯盛衰を受け入れた上で考えねばと個人的に思います。エモーショナルにせっかくの技術だから残せと言う前に、チャレンジしているでしょうか?」

挑んでいなければ、それこそ‘もったいない’話だ。


ビジネスの工夫をして、海外に挑め
また吉崎氏は、商品のタイプを適切に分けてビジネスをすることの大切さを力説する。「高付加価値品は簡単に中身を変えてはいけないが、汎用品は相手に合わせて変えていくことが求められます。しかし、この二種の商品が混沌として整理されていない。」

ビジネスとして拡大再生産するモデルは、芸術として評価されて買われるのと違うが、それらがごっちゃになっていて、伸びる可能性のある商品も埋もれているというのだ。

オートクチュールとプレタポルテの両方があっていいが、売るというより美術館に置いてもらうようなアーティスティックなやり方では顧客は限られ、いいものなら買ってくれるという話では今の時代に通用はしない。

戦略的にブランドを構築して汎用品が売れるように展開するビジネス化が肝要だ。日本にはよい商品や魅力的なものの要素はあるが、現状の延長上ではうまくいかず、サプライヤーロジックから市場視点に転換し、一からやり直せば可能性が広がるということだ。

こう考えると、国内で需要を掘り起こすより、海外市場に挑んだ方が、従来のやり方から脱皮して新たなやり方に転換しやすいだろう。中途半端に東京詣でするより、海外を狙う方が得策かも知れない。

しかし例えば、月ごとに日本の各県の催事をやっている海外の百貨店があるが、いつも清酒や米が出品されていて、顧客の視点が欠けているという。単に海外に出ればよいわけでなく、賢くビジネスしてこそ結果が得られるのである。


アイデンティティーとストーリーが鍵
吉崎氏はアイデンティティーとストーリーが最も大切だと説く。「アイデンティティーは、こだわりとも思われたりしていますが、主観的に作り手がいいと思っていることではありません。

ビジネスとしてユーザーを意識して売るとするとどうかというマーケットでのアイデンティティーです」と吉崎氏は語る。根っこの部分は大切にしながら市場に対応し、アイデンティティーを訴求するということだ。

ストーリーは、一般的なマーケティングでもよく言われることだが、これが日本人はあまりうまくない。とりわけ、クールジャパンで取り上げられる地方のアイテムでは、なおさらだ。

しかし、ストーリーとしての要素は豊富にあるはずだ。由来やどうつくられたかに始まり、背景や利用シーンほか、興味の広がりや理解の深まりを促すストーリーは、顧客の体験を豊かにする価値の提供にほかならない。

吉崎氏も、「工程を知り、話を聞いているだけでワクワクする商品もある」と言う。いいモノをつくっていれば黙っていても売れるのではなく、コミュニケーションして伝えてこそのクールジャパンだ。

さらに、想像を超える可能性を示す例もある。クールジャパン機構の投資先にTokyo Otaku Modeという、オタク関連の情報を海外向けにフェイスブックで英語発信している会社があるが、ネット通販で商品も売っている。

最近はキャラクターものの漆器など、地域の伝統工芸を掛け合わせたものを販売していて、結構売れているという。海外の方にとって、既存商品の延長としてこういう展開もありだという例だ。

吉崎氏は笑顔で語る、「まだまだ我々が知らないマーケットがある。この例も、Tokyo Otaku Modeのユーザーがサブカルチャーで閉じているわけではなく、日本の文化や工芸品に興味を持つ人たちがいることを示しています。面白いなあ」

未来を創るには、東京の市場でなんとかしようとするよりも、いっそ海外の市場と歩もうとする方が、面白さもポテンシャルも大きい。これまでの常識を白紙とし、どうするべきか問い直すことで、いやおうなしに新たな自分自身を創造することになるだろう。




本荘 修二 (ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表 多摩大学大学院(MBA)客員教授
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