整然の美、歪みの美

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年1月号『美意識』に記載された内容です。)


「美意識」と聞いて思い描くもの

美意識。今回のテーマであるが、正直な話、ピンとこなかった。そこで、辞書を引いてみる。
「美に関する意識。美しさを創造・受容する心の働き。また、何をもって美しいかをきめる基準や考え。(日本国語大辞典)」とある。

私が何を美しいと感じるのか、自分に問いかけてみると、「真っ直ぐ」「繊細」「丁寧」「誠実」「礼儀」などの言葉をすぐに思い浮かべた。それをいつ・どこで、自分が感じ・学んだかと聞かれれば、学生時代から続ける「剣道」に行き当たる。


剣道に見た「整然の美」

父と兄が剣道をしており、幼少期から防具と竹刀が身近にある生活をしていた。剣道について、父からは何も言われたことがなかったが、稽古帰りの兄から「お前もやれ」と執拗な勧誘を受けるのが常となっていた。しかし、藍染めの独特の匂いが苦手だった私は、彼の誘いを頑なに拒み続けていた。


そんな私が中学に上がるころ、どの部活動に入るか悩んでいることを知った兄が「剣道部に見学に来い」と言った。どうせ入部しないけどな、と思いながらも、道場に足を運んだ。そこで見たのはいつも家で見るおふざけな兄ではなく、凛々しく正々堂々とした兄だった。


「か、かっこいい・・・」その姿があまりにも美しく立派だったので、私はその日に入部届を出していた。そこからなんと現在に至るまで細々と続けているのだから、不思議なものだ。今ではあの藍染めの香りでさえも心地よいものとなっている。


剣道の稽古は、体を鍛えるだけでなく、精神的な鍛錬にもつながっている。礼に始まり、礼に終わる。気剣体一致。守破離。道場・道具への感謝など、学んだことを挙げればキリがない。剣の強さだけではなく内面の美しさの大切さを教えられた。思えば、このように整然とした剣道の考え方に、一つの美を見出していたのだろう。


歪みの美意識

そんな「真っ直ぐ、そして誠実であること」が美だというイメージを抱いていた私は、ある日サントリー美術館で行われていた「サントリー芸術財団50周年 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶」の展覧会に足を運んだ。そこで、予期せぬ衝撃を受けることとなる。


美濃焼の茶碗や水指などに見られる「歪み」は、轆轤成形した後、箆(へら)で複雑な面を取り、あるいは撓めて歪みを加えたものです。歪みの造形は、伊賀焼や唐津焼、信楽焼、備前焼などの桃山時代の和物茶陶に共通して現れた美意識であり、また茶陶一点一点に力強さと個性を与えています。(主催 サントリー美術館、読売新聞社)


「歪みの美意識」。わかるようで、わからない。私はその場でかなり混乱してしまった。確かに、目の前にある歪んだ茶陶はとても美しい。しかし、私が持っていた美意識とは相反する美意識を突きつけられ、その歪んだ茶陶から「あなたには、おわかりになるだろうか?」と問いかけられているような、はるか昔の桃山時代から時代を超えて責め立てられているような、そんな気持ちにさえなった。その日から、「美意識」について改めて考えるようになった。


「許す覚悟」がある社会

自問自答の末に辿り着いたのは「歪みの美意識」とは「許す覚悟」の上に成り立つものではないかということだ。それは、ただ皆が同じように真っ直ぐに同じ方向に向かって生きるだけではなく、歪みを許し、それぞれの個性を認めることで、1人1人がのびやかに、力強く生きられる環境を生む。それが、歪みを良しとし、むしろ“美しい”とまで言い切る潔さを持った、桃山時代の美意識なのだ、と自分なりに結論づけた。


一方で、それは冒頭で言った「真っ直ぐ、そして誠実であること」というような「美しさ」の上に成り立つ美意識なのではないだろうか。型を忠実に体得した上での歪みは、受け入れられ、愛でられる。まさに守破離である。そんな美意識を桃山時代の茶陶から感じたのだった。


現代の日本社会はどうだろうか。効率的に量産できて失敗がない。そんな社会が「美」だとされているように感じる。先人たちが見出した「歪みの美意識」に触れることで、多様性に溢れ、一人一人が輝ける社会が育まれるのではないだろうか。



蛭子 彩華(えびす あやか)  
一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事
学生時代から「社会的課題を学生の柔軟な発想と、ビジネスの手法で解決すること」を指針にして、バングラデシュでの雇用創出と日本の伝統の再興を目的として活動する団体 次世代人財塾 適十塾(てきとじゅく)に所属。2015年、夫のチリ駐在への帯同をきっかけにデザイナー活動を始め、翌年に適十塾を母体にした法人を設立。「現代の社会課題を、デザインとビジネスの循環の仕組みで解決する」を軸に事業を展開している。

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