制約を起点とした、TDKデザインの挑戦

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年7月号『制約上等!』に記載された内容です。)


制約が新たな未来を創り出す


 

今回の新型コロナウイルス感染症は、1918年のスペイン風邪以来の感染症拡大といわれている。戦時体制下ならいざしらず、少なくとも戦後の日本で、人の移動がこれほど大規模に制限されたことはなかった。

また今回のコロナ禍において、ほとんどの人が強制的に働き方を変えざるを得なくなった。働く場、働き方に関する考え方が今までとまったく変わったのである。こうした制約された環境が、人々の価値観や行動に大きな影響を与えていることは間違いないであろう。

今回のコロナ禍によって、一時的に経済活動の大きな落ち込みが生じたが、長期的にみれば、リモートワーク、オンライン授業など、ITを活用した活動を多くの人々に体験させたという点では、社会的にはより大きな影響を与えたといえる。但し、オンライン化による効率化一辺倒では、新しいアイデア・発想、ひいては画期的な製品・サービスは生み出されないであろう。

人間同士が実際に会い、直接コミュニケーションすることの効果、意義は非常に重要であることに改めて気づくことになった。制約は新しいビジネスへの提言、起爆剤になると思われる。今まで私が関わったデザインビジネス活動を振り返り、制約をどう捉え、どのように課題を解決し新しい世界を創り出してきたか、振り返ることにする。

 


デザイン・宣伝販促における制約との格闘


 

1.記録メディア商品デザインにおける規格制約への挑戦

サイズや条件など厳しく決められた規格品である記録メディア商品のデザインをする上での課題をどのように考え、表現して新しいコンセプトの商品を生み出しユーザーに伝えていくか。「音」や「映像」という「コトの価値」をカセットやビデオテープというカタチへどのように思いを込めユーザー一人ひとりの宝モノにしていくか。まさにデザインの極意である。

◇オーディオテープ

音を記録するオーディオテープは、ADやARといったグレードと分数表示を中心に展開する制約がある商品である。ただし、記号性を超えたアイキャッチが必要であるし、TDKとしての品質と信頼感が感じられて、しかも目立ち、さらにオシャレで時流にマッチングさせなければならない。そして、調査のデータ、営業や販売店からの要望、工場での生産性、コストなど、様々な制約をクリアしてデザインを完成させる必要がある。

デザイナーの目で見た美しさではなく、ターゲットユーザーが普通の目で見た時にいかに魅力的に感じられるか。マーケティングとしてどれだけ優れているか。作品ではなくビジネスとして成功させなくてはならない。カセットテープの販売サイクルは6カ月ほどで短く、それぞれの時代のトレンドをピンポイントで表現したストーリー性が重要になってくる商品である。

◇ビデオテープ

映像を記録するビデオテープはオーディオテープと比べると様々な世代の人が使い、大衆性のある商品である。売り場もオーディオ専門店から街中のスーパーマーケットまで様々である。

一番のポイントは誰が見ても、すぐに「これだ」とわかり、インパクトが強くアイキャッチ的な商品である必要がある。尚且つ、一目見てTDKブランドの品質的な安心感を与えなければならない。TDK商品は日本だけでなく、海外までもがターゲットである。しかもビデオテープのデザイン寿命は他商品とくらべ長い。ある程度の期間、繰り返し目にしても飽きがこなくて、常にインパクトを与えられる息の長いデザインが求められる。映像を録画する商品なのでキレイさの追求も大切である。

これは一過性のインパクトに照準を絞るグラフィックデザインとは違いデザイン上の制約も多いのである。そこで、キレイとインパクトを合わせ持った、何よりも強く、記憶に刻まれるカタチである、「球」がアイキャッチとして決まった。

「球」を表現するのに、CGやイラストレーション、アクリルの削り出しを撮影して画像処理など様々なアプローチで立体感を徹底的に追い込んで表現した。当時としては珍しい表現で、店頭に商品が並んだ時はかなり強烈なインパクトがあった。こうして誕生した「球」のシリーズはユーザー調査で断トツに高い評価を受けて、TDKビデオテープ= 「球」のイメージが定着し 、デザインで売れ行きも決まり、デザイン=マーケティング、そして、TDKブランドのイメージUPに繋がったのである。

◇CD・DVD

そして、時代の変化と共にテープからディスクへ。アナログからデジタルへ。記録の素材が変化していく。特にCDは、カセットの便利さを音楽ソフトの主力規格に付与して市場を拡大するする狙いがあった。

また、ビジネスのデジタル化によるPCでのデータ制作の保存なども増え、再生する場所を選ばない便利さも手伝い、爆発的に売れるようになった。人々の行動も、音楽、映像のコンテンツも、デザインに求められるモノも変化する。デザインの表現は時代によって変わるコトになるのである。今やデジタルは当たり前だが、原点はここにあると思われる。

マーケティングの考え方も変わり、コトづくりがいっそう大切になってきたのもこのデジタルメディアが主流となった2000年前後の頃である。録音した音楽や音、録画した映像には価値があるが、メディアそのものにモノとしての価値はない。そこで大切になるのがコトとしての価値である。最近「コトづくり」というキーワードをよく聞くが、記録メディアの世界では20年以上も前に取り入れていたのである。今やハードディスクやメモリなどに記録する時代だが、人間の身の丈にあったサイズ感である記録用ディスクは、必要な状況下では、しぶとく生き延びるのかもしれない。

◇海外戦略

マーケットも日本市場、アメリカ市場、ヨーロッパ市場、アジア・アフリカ市場の4つにわかれており人種も文化も宗教も違う制約の中でTDKを選んでもらうことが大切である。

日本では、記録メディア商品の売り場としては、電気の専門店である大手量販店などが主流だが、欧米では巨大なスーパーマーケットやショッピングモールなどが主流であり、日用品のカテゴリーとして売られている。

商品スタイルも違い、欧米ではジャンボパック、例えば10巻プラス1巻などのプロモパックが中心である。ビデオテープのデザインも、日本では横位置でデザインするが、欧米では縦位置でのデザインが主流である。売り場や棚割りなども、大きく違うのである。


2.表に出てこない電子部品の宣伝販促における 個性の可視化への挑戦

かつてカセットテープなどのBtoC製品で世界的に認知されたTDKは、現在、電子部品製造を行うBtoBカンパニーとなっている。表に出てこない電子部品、決められた条件の中で作られている電子部品の広告を表現する上での課題を、どのように考え新しいコンセプトを立案、表現してセットメーカーの担当者に伝えるか。

一般のコンシューマー向け商品の広告と違った制約の中での表現が重要になってくる。ここから生まれたのが、デザインとアートの融合という発想。今までは、別々の分野と認識されていた世界である。「伝統×未来シリーズ」は、TDKの焼成技術と伝統工芸品である有田焼の焼成技法との同じモノづくりのコンセプトを掛け合わせ表現した広告である。

様々な伝統工芸品の意匠は、歴史を感じさせるものであり、いつの時代も人々を魅了する力がある。全国各地の伝統工芸品が現代でもしっかり生き残っているのは、制約のある伝統のオリジナル技術を大切にしつつも、現代社会に合うように少しずつ革新してきたからである。創業以来の自らが持つ資産の核となる部分は変えず、どこを変えるべきなのか判断し、自ら素材、技法、表現、デザインなどをコントロールすることでブランドとして存続し、現代においても高い魅力を発揮している。

写真の広告は、約400年十四代にわたり続く有田焼の今泉今右衛門とのコラボ作品である。伝統と革新を融合し進化しつづける今右衛門の焼き物の技法と、TDKの焼成技術の共通点を掛け合わせ表現した広告である。

TDKは1935年、東京工業大学が発明した、世界初の磁性材料「フェライト」の事業化を目的として創業した会社である。フェライトマグネットは粉末原料を成形・焼成して製造される。素材技術、成形技術、焼成技術の粋を結集して作られる製品である。有田焼も有田の泉山磁石場で発見された磁石(じせき)という素材を成形、素焼、本窯焼成して作られる。

お互い、長い年月にわたり、実験や研究で蓄積されたノウハウによってもたらされたものである。有田焼の今泉今右衛門とのコラボ広告は、海外でも広告展開され認知された。広告賞も受賞した、まさに伝統という制約と、その対極にある未来を掛け合わせる発想から生まれたメッセージ性の高い広告である。

3.インハウスのデザイン会社の社内制約を超えた挑戦

TDKデザインは、TDKのグループ企業である。当然のことながら、TDKの仕事が中心となる。しかし、TDKデザインはTDKで培ったノウハウを応用、新しい仕事にもチャレンジしていくことが大切と考え、約20年前から「TDKのノウハウを外部へ、そしてTDKへ還元」。

このようなコンセプトで外部クライアントの仕事にも積極的に取り組んでいる。TDK中心という制約のある環境下で、新しい世界、ビジネスへと繋げていくことが必要だと考えている。もちろん、それは、TDKデザインの存在感UPにもなり、会社の信頼感や価値観の向上につながる。このことは、世間に通用する企画・クリエイティブの会社になるためには、必須である。TDKへも外部クライアントへも、相互に経験価値を還元でき、質の向上にも繋がる。

写真⑦は外部クライアントである千住金属工業の代表的な事例である。TDKのメイン製品は電子部品であり、千住金属工業は、はんだ材料の総合メーカーである。様々なはんだ製品を扱っている会社であるが、ここでの共通点は電子部品の接合として、はんだが使用されることである。お互い、社会に貢献するグローバル企業として販売先のお客様の共通点も多く、事業を通じて社会問題の解決に取り組んでいる会社である。

TDKで培ったWEB、展示会、映像、広告、カタログ、CSR、各種営業支援の制作物などを通じて、ブランディング、マーケティング活動の支援をしてきた。今後は、デジタル化の推進の世の中で、アナログ要素の多いはんだをどのように表現してPRしていくか、まさに制約の多い世界だが、面白くやりがいのある仕事である。

 


私の「制約上等」の構えとは



様々な制約のある社会情勢、国際関係の中でどう考え、実行して、成果を出すかは人間が前に進み生きていくうえで必須条件である。仕事も社会も変異してしまった制約のある時代だからこそ、社会を変革するクリエイティブやマーケティングが大切であるし、新たなビジネスチャンスが生まれると思われる。このような社会情勢の中、現在はどこの会社でもデジタルの活用は不可欠であり、デジタルマーケティング強化やビジネスのDX化が進んでいる。

ただし、一言でDX化と言っても、実現の道のりは簡単ではない。あらゆるコンテンツがデジタル化されていなければならなし、システムが連携・統合されていなければメリットは半減する。使い勝手が良くなければ使ってもらえない。DXの推進には、デジタル人材の育成等、考えなければいけないテーマは多岐に渡り制約も多く存在する。

またBtoB企業の場合は制約も多く、ネット企業と異なり、リアルの仕組みの転換を図らなければいけない分、BtoB分野のコミュニケーションのDX化には時間がかかる。お客様の満足度向上へ向けた、マーケティング活動やクリエイティブの向上は必須である。

WEB、展示会、広告、動画、キャンペーンなどが連携し、最終的には営業支援となるセールスリードの獲得など、ビジネスとして具体的な数字として成果を出さないといけない。今後のBtoB企業のマーケティング戦略は、目的に応じてSNSを活用し、営業、ブランディングと連動させて、いかにグローバルに展開していくか、どのようにそれに基づくクリエイティブ提案をしていくかが課題だと思われる。その課題に応えていくことが、結果としてサステナビリティに対する社会の価値観の変化に対応していくことに繋がっていくだろう。

今こそ制約のある社会情勢の中、原点回帰が大切だと思われる。このような社会的な危機をどう乗り越えていくか、そのためには何を実現し、どのような方法で課題を解決していくか。未来に向けて難局を乗り越えるには明確な考えを示し、顧客へ新たなる価値を提供していけるように、関わる人達が連携し、共感して取り組んでいくことがマーケティングの世界でも大切であると思われる。制約を乗り越えた先には、今までとは違う新しい未来が待っているのである。

《参考文献》『TDKを巻きもどす』 高橋敏+イフカンパニー(六耀社)

図表 《クリックして拡大》

 

井戸端 靖  (いとばた やすし)
TDKデザイン株式会社代表取締役。工業デザイナーとしてTDKデザインに入社後、記録メディア商品の企画からデザイン、宣伝販促までトータルにプロデュース。2020年代表取締役に就任。現在はデザイン、マーケティング、ブランディングの包括的な観点から、TDKの新規事業、電子部品、他社の宣伝販促を総合的にマネジメント。

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