日本のファッション業界の現状&生き残っていくための未来について

三越伊勢丹・大西洋社長解任の衝撃は、ファッション業界のみならず流通小売、ひいては消費財を扱う業界全体に走った感があった。

それは百貨店業界でも先頭を切って改革路線を進め、ある種お手本とされていた三越伊勢丹ですら、進退両難な局面に至ったという事を示している。機しくも、同じ週には旧プランタン銀座がファッションビルのマロニエゲートとして生まれ変わり、こちらも百貨店からの業態転換の象徴的事例と言える。百貨店の利益構造に基づくビジネスモデルが原価率を含めて消費者に受容されなくなりつつあり、それに替わる流通が発達してきたことに起因している。

 

さて翻ってファッション業界の歴史的変遷をなぞってみるとしよう。1990年、バブル崩壊後でも身の回り品を含むファッション市場規模は約16兆円もあった。これが2015年には約9.6兆円に縮小。06年から15年までの流通チャネル別シェアでみると百貨店が31%から21%へ、量販店が18.9%から12.4%へと縮小し、専門店が43%から53.9%へ、通販が7.1%から12.6%へと拡大した。

 

専門店の伸びのほとんどは、H&M、ザラ、ユニクロといったグローバルSPA(製造小売業)とアダストリアホールディングス、ストライプスインターナショナルといった国内低価格帯チェーン専門店の塊、所謂「バリューチェーン」とセレクトショップと呼ばれるユナイテッドアローズやベイクルーズグループなど高感度中価格帯専門店の伸長によるもので、これらの多くはイオンモールなど郊外型もしくは、ららぽーとなどの準郊外型SCやファッションビル、駅ビル、一部百貨店テナントとして出店し、シェアを高めている。


一方従来型の仕入れ主体の専門店や路面店はシュリンクしているのが現状だ。通販分野では、ゾゾタウンや楽天をはじめとしたEC(電子商取引)が押し上げているのは言うまでもない。この状況から容易に想像つくのが、百貨店を主力としてきた大手アパレルと卸型専門店アパレルの苦戦。大手アパレルの多くは昨年、大幅な退店と人員削減、組織改編を行った。またトレードビジネスを支えてきた合同展やトレードショーにも陰りが見えている。「展示会に出てもオーダーが付かない」という状況が08年リーマンショック以降顕著になっている。


こういった構造変化の真只中でも新しい業界トピックは生まれている。一つはファッションテックと呼ばれる分野だ。非接触型ICタグによる物流から店頭管理までの効率化が進み、業務フローの改善によって生まれた労働資源を本来の接客業務の質向上や人手不足の販売現場の労働環境改善へと繋げていく可能性が広がっている。またGPS(全地球測位システム)やビーコンを活用した販促アプリにより、店頭とECの連動や販促企画の強化も図られている。更にはAI(人工知能)による販売支援や需要予測による過剰在庫の解消、VR(仮想現実)を活用したファーストサンプルのスキップによる効率化といった、もう一歩先の取り組みも現実味を帯びてきた。トレードビジネスにおいてもバーチャルショールームやオンライントレードショーが既にスタートしている。これらファッションテックの果たす役割がファッション業界を救う手立てのひとつとなることは間違いない。


もう一つはファッション業界がもともと持っている感性トレンドセッターとしての役割を他業界に流布していくことだ。ファッションとは、最も身近で、一番手軽に安く自己表現ができるツールだからこそ、その時々の人々の気分を反映する。それが塊となるとトレンドとして現出し、流行を創り出す。この点からファッションが一番早くトレンドを現出させる業界と言われている。商品のデザイン的な魅力に留まらず、その表現手法即ちVMDやパッケージ、ディスプレイ、それらの構成バランスや販促物のレベルアップまで総合的なプロデュースにおいて、ファッション業界の資源が大いに活用できるはずだ。

 

世界的に見ると著名なデザイナーに限らず若手まで含めて、ファッション分野の人材が様々な業界のプロジェクトに携わっている。かつて伊勢丹で藤巻幸夫氏の薫陶を受けて育てられたトランジットジェネラルオフィスの中村貞裕氏は、今や飲食業界の時代の寵児となっている。売れる仕掛けを含めて、こうした素地を持っているのがファッション業界なのだ。今、自動車や家電、その他の消費財の大手は果たして世界的に評価を受けるようなプロダクトやマーケティングができているだろうか。こうした状況へのひとつの答えとなるのではなかろうか。


最後にサスティナビリティーとファッション業界について述べる。新興国の安価な労働力を使って生産し、期末には大量の在庫を処分するファッション業界の従来の姿には未来が無いことは言うまでもない。劣悪な労働環境を改善し、フェアトレードやソーシャルビジネスの視点を持った企業姿勢が求められる。前述したファッションテックがこれらの課題解決に役立つことは間違いないし、またそうしなければ意味が無いのだ。


また昨今、ホビーショーやデザインフェスタといったC to Cハンドメイドマーケットが盛り上がっている。これらオフラインのイベント以外にミンネ、クリーマといったアプリを介してのオンラインの流通もその手軽さと地方でもできる利便性が後押しして急速に広まっている。国内大手のミンネは作家数14.6万人、作品数197万点と言われている。このハンドメイドにあたる手芸や編み物、趣味工芸などの国内クラフト市場規模は、2013年時点で8673億円と推定され、そのうちミンネのように個人間取引の場をインターネット上で提供する市場規模は698億円と推計される。やはりECがこの分野でも大きな変化をもたらしている事実が浮かび上がっている。さらにメルカリ、ジモティーといったリサイクルのC to Cアプリも無視できない存在となっている。いずれも無駄を省き、節約と循環型の社会を求めるトレンドに一致した動きだが、それはサスティナビリティーの概念と結びついて最早一過性のものではなくなったと結論付けても良さそうだ。


環境負荷や労働環境の改善を考え、サスティナブルな業界構造を作り上げつつ、C to Cではできないプロが作り出す価値が業界全体に求められている。

久保  雅裕  (くぼ  まさひろ)
アナログフィルター『Journal Cubocci』編集長/杉野服飾大学特任准教授
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。

 

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