シンプルなベネフィットが、世代を超える「ポッカレモン」

商品ライフサイクルの短期化は、どんどん進行しています。「ヒット商品のプロダクトライフサイクル」を調査した中小企業庁によると、1970年代は、市場に出した商品の60%が5年以上売れているが、年代を経るに従い、5年以上売れる商品の割合は少なくなり、2000年代では10%にも満たないそうです。

ただ、絶え間ない改廃と新商品に次ぐ新商品に、辟易している消費者の方も多いのでは無いでしょうか。5、6年前までの景気低迷期には、企業は過剰な競争を避けるために定番商品の強化に力を注ぐ一方、消費者も「失敗したくない」心理が働いて冒険をせず、“素性のわかる”ロングセラー商品を選ぶ傾向が強まっている、と言われていました。今も、冒険をしない消費者、という顔は続いていますが、それに加え、新商品疲れ、とでも表現すべきムードも垣間見える昨今です。


さて、商品改廃の激しさでは代表選手と思われがちな飲料・食品業界ですが、味覚、あるいは食習慣、食文化は世代を超えて引き継がれていくことが多く、ロングセラーが育ちやすい土壌が豊富にあると思っています。食品におけるロングセラーといえば、まずは不動の定番商品「カップヌードル」(日清食品)が浮かびます。

 

カップヌードルは1971年の発売後、様々な味のバリエーションを提案し、一方レギュラーの味はほとんど変えずに、今も多くの人に愛されています。1971年から遡るロングセラーといえば、「味ぽん」(ミツカン):1964年、リポビタンD(大正製薬):1962年などがあります。そして当社、ポッカサッポロフード&ビバレッジのロングセラー商品『ポッカレモン』の発売はさらに昔の1957年(昭和32年)、テレビのカラー放送が始まった頃のことです。

 

当時は、ダイエーの1号店が開店し、ロカビリーがブームとなった年でした。
今年で発売60周年を迎えるポッカレモン。今では、おばあさんが使っていたことを覚えているお母さんが、家族の食卓に使う、3世代商品となりました。このポッカレモンの発売が、企業の誕生でもありました。1957年、当時はまだレモンの輸入が自由化されていなかった時代に、ニッカレモン㈱として、同社はスタートしました。ちまたでは、オシャレな大人の飲み物としてカクテルが大流行でしたが、カクテルに欠かせない「レモン」の輸入は自由化されておらず高価な果物。大学卒の初任給が1万円に満たないのに、レモンは1個200円もしたと言います。


そこで、「気軽に使えるレモンを」と創業者である谷田利景は考えました。しかし味が変化しやすいレモンの商品化は、周囲から絶対無理といわれるほど困難であったそうです。
数々のハードルを乗り越えて、合成レモンの開発に成功。ビン詰めスタイルで発売したのが最初のポッカレモンです。そう、実はこのポッカレモン、発売当初は業務用として、クエン酸と香料などで作られた、いわゆる合成レモンで、レモン果汁は使用していませんでした。


当初、カクテルの割材として業務用用途で発売したポッカレモンでしたが、その後、家庭の食事の洋風化に合わせて、家庭用調味料としても発売されました。健康訴求としてビタミンCが注目される中、レモン果汁が広まったのです。


その過程で大きな危機もありました。家庭用商品として発売後、レモンの写真をパッケージに載せるなど、レモンそのままの美味しさを訴求しましたが、1967年に、「レモン果汁が入っていないのに、レモンを使用しているような誤認を与える」ということで公取から排除命令があったのです。まさに会社の看板商品が大打撃を受け、ポッカは倒産の危機となりました。しかし一方で、レモン果汁を使用した商品の研究を急ぎ、まずは、レモン果汁を10%加えた「ニューポッカレモン」を1968年に発売、その後、1972年に100%果汁の商品を実現しました。


戦後の混乱のモノ優位の時代から、徐々に、消費者保護の法律や規制が整備されてきていた、そんな背景もあるものと思われます。
また、発売以降、ポッカレモンには保存料が入っていましたが、1988年に保存料無添加を実現、お客様の安全・安心志向を考慮し、より天然に近いものとなるなど、時代のニーズに合わせて変化してきました。


今では、収穫後すぐに搾汁する安全性と、フレッシュなおいしさが評価され、皆様に安心してご利用いただける『ポッカレモン』として、60年にわたるロングセラー商品に成長したのです。60年の間に、ご家庭でポッカレモンのあるシーンが増え、子供から大人まで使っていただけるブランドになってきたのだと思います。


愛用していただいているお客様の声の多くが、「 昔から冷蔵庫にあり、私が結婚しても又冷蔵庫にある。とても便利な調味料」、「このような形のレモン果汁は子供のころからあった気がする。  良いものは長く存在する。」のような、日常に根付いた記憶です。

 

また、「レモンを搾る手間要らずでレモンの酸味と栄養を摂取でき、母と私二代で愛用しています。これからも買います。」や、「子供の頃から親しんでおり、この10年来毎朝、お猪口に一杯のんでいます。花粉症の軽減とスタイル維持に役立っていると感じてます。手軽で便利に利用してます。」といった声もあり、変わらぬベネフィットを感じていただけているのは、嬉しい限りです。


どのロングセラー商品も、新しい価値を絶えず提供し続けること、時代に合わせて変化し続けること、それが飽きられない秘訣、愛され続けるコツである、といわれています。しかし時代に合わせて変化し続けるのは当たり前。「必要とされ続ける」ことはそう簡単ではありません。


世代を超えてロングセラーとなる商品には、誕生時にそうなる運命要素が予め埋め込まれていると思います。それは、「シンプルなベネフィットを提供し、新しい習慣を生み出す」という要素です。新しい習慣を作った商品は、やはり強い。商品が新しいカテゴリーを作るからです。日清カップヌードルは、その典型です。食品ではありませんが、TOTOのウォシュレットもそうでした。同ジャンルで様々な競合商品が出続けましたが、パイオニアとして市場自体を拡大してきています。


ポッカレモンは、レモンそのものではなく、レモン果汁を商品にする、というあまりにもシンプルなコンセプトの商品です。ただレモンは果実そのものを食すのではなく、調味食材として使われる果物です。調味食材として必要な少量の生鮮レモンを常に常備しておくのは中々面倒なものです。さらに、使用時の切る、絞るという手間をなくしたポッカレモンは、レモン果汁を家庭に取り入れるための新しい習慣を提案した商品でした。

 

色々中味や形を変えて成長していますが、基本的なベネフィットは変わっていません。そのシンプルなコンセプトとベネフィットが、世代を超えて使っていただけることに繋がっていると思っています。
ロングセラーを「育てる」ということももちろん大事ですが、ロングセラーとなるべく「生む」、ということ。それはヒット商品を連発することとは違ったアプローチに思えるのです。

 

松風  里栄子  (しょうふう  りえこ)
ポッカサッポロフード&ビバレッジ㈱  経営戦略本部長
㈱センシングアジア  代表取締役

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