【課題はグローカル】郷に入っては、郷に従え!?

「郷に入っては、郷に従え」。

日本市場に根付くのに、この格言は長年、海外ブランドの成功の鍵だった。日本に限らず、その国の市場と消費者トレンドを観察し、その特徴を良く理解してから自社の製品を現地市場に合わせて展開することはマーケッターの鉄則だった。この発想に基づいて、アメリカ食文化の象徴であるマクドナルドでさえ世界中で売られている定番のビックマックと共に日本人消費者のテイストに合わせて「テリヤキバーガー」、「月見バーガー」なども売り出していた。


また、最近日本にも注目されているオランダの家電メーカー、フィリップス・エレクトロニクス・ジャパンは欧米で売られているヌードルメーカーを日本仕様に販売するのにパスタだけではなくて、うどん、そば、ラーメンなどを作るための使用変更やレシピを追加した。


このルールを守らなかった外資系の企業がいくつか痛い目に遭ったことも周知の通りだ。たとえば、大型店舗の香水専門店として世界中で発展しているフランスのセフォラ社が1999年に上陸を挑んだが、この現地適合化ルールを守らなかったせいか、日本の女性消費者のコスメ文化をあまりにも無視したせいか、膨大な投資をした挙げ句、2年足らずで後退せざるを得なかった。


日本人女性は欧米の女性より香水ではなくスキンケアを重視していたからだ。同じく日本のスーパー流通に革命を起こそうと自信満々で進出していた仏カルフール社も、台湾や韓国などで成功したのにもかかわらず、日本市場の特徴をうまく掴めず数年で日本から去ってしまった。グローバル企業にとって、自分のイメージや企業理念を保ちながら、現地(ローカル)市場をどこまで尊重するべきかは永遠の課題である。


一方、興味深いことに、本国のビジネス・モデルを全く変えずにそれでも日本で成功している外資系企業が最近目立っているのだ。思い浮かべる例はスペインのアパレル大手ZARAとスウェーデンの組み立て家具専門会社IKEA。


ファスト・ファッションの代名詞にもなっているZARAがマドリッド、パリ、ロンドン、東京、北京などの商業一等地に豪華な店舗を設けて、そこでスペイン本社でデザイン且つ製造したアイテムを目まぐるしいペースで世界中の店舗の棚に並べている。


企画の段階で決められた製造点数を完売しても、在庫が切れたら、そのアイテムを二度と作らないと戦略的に決めているZARA流のやり方だ。お店で気に入った服に出会ったら、即決で買わないと、もう二度と買うチャンスがないだろうと消費者たちの心理に働きかけ、安価につられて、ついついその場で買ってしまう。


同業者のユニクロは違う戦略を選び、大量生産によって商品の品質と安価を確保している分、ファッション性に重きを置かない。でもユニクロブランドのベーシックなスタイルをいつでも、どの店舗でもほぼ確実に手に入れることが出来るという安心感が消費者に働き、ブランド力を高めた。


逆にZARAには「定番の」服、色、ジャンルとかが全くない。その時のトレンド、その場での人気カラー、形、柄などに絞り込んでいるZARAはファッション性と価格でライバルと差を付けているけれども、安価を維持するのに品質にこだわりを見せない。その場で買った服をワンシーズンだけ楽しんで、次のシーズンにまた違うアイテムを買ってもらえばいいのだ。


この独自の販売戦略はどの国のZARA店舗に行っても同じで、迷うお客さんや、おなじみのモノを探しているお客さんには向いていない。しかも、ZARAの接客戦略も今までの日本のアパレル店にはあり得ないほどクールだ。


出入り自由かのようにZARAの店舗に入っても店員から一声もかけられない。陳列されている服や棚を数分間自由にうろうろしても、店員からは一切何も言われない。他のアパレル店ならば、お店に入った時点で客が店員に常に観察され、もしくは余計なアドバイスなどを提供される。


こういう態度がお節介だと思う客にとってはZARAが一番楽だと評価しているが、日本の販売員教育と遙かに違う接客スタイルだ。でも、この「甘えんぼの日本消費者に優しくないZARA」は、それでも「お客様が神様だ」の国で成功しているのだ。それこそ他流試合の勝者だ。


ZARAの接客スタイルと似ているもう一つのヨーロッパブランドは言うまでもなくIKEAだ。日本では、購入した家具をお客さん自身が組み立てなければいけないというのは前代未聞だった。さらに、IKEAの店舗に初めて足を運ぶ客が驚くことは、ショールームで選んだ商品などを、自分で倉庫に入って自分でカートに積んで精算場まで運んで、車に乗せなければいけない。


この手間のかかる買い方がバブル崩壊前ならば日本消費者に絶対あり得なかっただろうが、デフレ・スパイラルに落ち込んだ時代には、丈夫で安い家具さえ買えるならば、ワガママを言えない。そうやってIKEAは日本消費者のマインドを変えた。「郷に入って、郷を従わせた」だ。




エチエンヌ・バラール  (Etienne Barral)
ジャーナリスト。1964年フランス・パリ生まれ。1986年に雑誌の特派員として来日。以来東京に在住、日仏の雑誌で日本文化についての多くの連載などを手がける。

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